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怪談百物語#12 兎の血

私が生まれた村では誰かが亡くなると、通夜で鶏をしめてふるまう風習がある。
そのため、どの家庭も二羽ほど鶏を飼っていた。
鶏が居ない家には周りの家が都合して貸してやることも多々あったという。
その見返りはまあ、昔からの風習と言うことでそんなに明るいものではない。
大体一晩か二晩と言ったところだ。
安いと思うか高いと思うか、それは知らないが。

そんな風習がある村。
だがある時期に、鶏が村に一羽もいなくなることがあった。
戦か不作か。
米も野菜も取れず、川は濁って魚は死んだ。
山の獣は食い尽くしたのか、村の猟師が山に入っても兎が数羽取れるかどうか。
村人達は虫や木の根をかじって過ごす日が続いた。

鶏に餌をやることができず死なせてしまう家がでた。
鶏は大切なもので普段から食べるということはない。
通夜の時にだけ食べられる。
だが死んでしまったのなら仕方ない。
飢えもあり、死んだ鶏を村のみんなでひと口ずつ分け合って食べた。

続々と鶏が死んでいった。
どの家も自分の食い扶持に困るほどだ。
鶏の分など用意できはしない。
自分で餌を探せと鶏を野に離せば、どこから来たのか野犬に食われる。
どうしようもなかった。
死んだ鶏は村中で分け合って食べた。

しばらくすると野犬に食われ人に食われ、村から鶏は一羽もいなくなった。
村人たちはまずいことになったと思うも、飢えは続く。
どうしようもなかった。
村で餓死者が出た。
残された家の者は、鶏もいないどうするかと悩んだ。
仕方がない、と鶏の代わりに猟でとれた兎をふるうことにした。
鶏の代わりだ。
一羽と数えられるのだからと、家人を亡くした家の者は言い訳をしながら。
それに倣い、どの家も人が亡くなると兎を手に入れ村人にふるまうようになった。

翌年の秋、昨年と違い豊作となった。
食べるものに困らなくなった村だが、鶏を飼いなおす家は少なかった。
いつまた飢えるかもしれない。
鶏に食わすものなどないと。
風習に反しても楽にとれる兎をふるまえば良いのではないか、と彼らは口にした。
そんな彼らに、他の村人は鶏を都合してやるとこともなくなった。
鶏を飼う家々がけでその風習は続いていった。

時は経ち、兎をふるまっていた家庭で生まれた子に奇形児が増えていった。
兎のような口で生まれる子が増えたのだ。
鶏をふるまわなかった罰だ、兎の呪いだなどと村中が噂する。
あいつらには兎の血が混じったなどと村八分にされていった。
血が混じらなかったことが原因だとも知らず。
風習から外れた彼らには、今後も鶏が都合されることはない。
礼の一晩、二晩も。

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