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怪談百物語#11 影からの応援

「こんなつなつー!
 あの日別れた思い出の人系Vtuber、憧憬なつかです!」

毎週水曜日の定期配信。
初配信の時から続けてきた、思い入れのある配信。
色々あったけど、今日は一周年記念配信。
お世話になった人や仲良くなった人
沢山の出会いがあった一年。
通話できる人は一部だけだけれど、できる限り沢山の人にお礼を伝えたい。
三ヶ月前から少しずつ企画を進めて
リスナーさんにドキドキしてもらえるように
裏でアポを取りながら
配信中にどれだけ祝ってもらえるか、電話を待つ配信をした。

「誰も来なかったらどうしよう。みんなその時は慰めてね!」なんて煽ってみる。
「大丈夫だよ!」
「あの子来るってtwitterで言ってたけど。」
「いざとなったら私が通話しようか?」

コメント欄では、私のことを好きになってくれたリスナーさん達が励ましてくれている。
ありがとう!
みんなのおかげで一年間続けてこられたんだ。
本当にありがとうね。
最初の通話が繋がる前に、もう声がでなくなりそうだった。


「一年いっしょに遊べてよかったよー!
 また次の周年記念も一緒にお祝いし ようね!」
「うん!来てくれてありがとう!
 またコラボしようねー、お互いがんばろ!」

タイトなスケジュールの中、次々にお祝いの通話がかかってくる。
待機所も大盛り上がり。
次のコラボがどんどん決まっていってる。
いいなあ、この雰囲気。
人と人のつながりがはっきりと目に見える。
この一年で一番楽しい夜かもしれない。

「あ、また通話がかかってきました!次は誰かなー。」

時間が進むにつれ、お祝いの言葉が増えていく。
あと数人で予定していた人達との通話が終わる。
そしたら今日の配信は終わりかな。
楽しい時間が終わると思うと、少し寂しくなってしまう。

「そろそろ終わりかも?」
「あの子まだじゃない。」
「そろそろパパかママ来そう。」

コメント欄もなんとなく察しているのか、最後に誰が来るのか気になってるみたい。
最後は、この体を書いてくれたママと、体を動かせるようにしてくれたパパにお願いした。
お忙しい中、快諾してくれた。
この二人には本当に頭が上がらないくらい恩を感じてる。
一番盛り上がるように
失敗の無いように
できる限り気を付けて、裏で連絡を取る

――プルル、プルル

呼び出し音が鳴る。
予定より早いし、裏で聞くとパパとママではないらしい。
いったい誰だろう。
配信にも音がのっちゃったみたいで
リスナーさんが、誰だ誰だと楽しみにしてる。
誰か飛ばしてしまった人がいたのかもしれない。
もしそうならごめんなさい!
とりあえず一旦、裏で通話をつなげた方が良いかも。
もし違ってもこの連絡先は変な人に教えてないし大丈夫!
音声をミュート。
勇気を出して、通話をオンにする。

――おめでとう。

懐かしい声で、そう言われた気がした。
不意に出た涙が止まらない。
嗚咽でろくに声も出せないまま、
ぐじゅぐじゅになった顔で配信画面を閉じた。
そこまでは覚えてる。

気付くと朝だった。
配信がどうなったのか、夢でも見ていたんじゃないかとアーカイブを見る。
パパとママに謝罪の連絡をしながら配信終了間際を再生する。
よかった、配信はしっかり終わったみたい。
何言ってるかわからないままだけど、何とか締められたみたいだった。
変なことも言ってないし
ほっとした。
そういえば昨日の通話は誰からだったんだろう。
少し戻して再生する。

――おめでとう。

はっきりと聞こえた。
その声は幼い頃に亡くした父の声だった。
見ていてくれたんだ。
ちっちゃいころ、体の弱い私を心配して
いろんな絵本を買ってきてくれた。
どうぶつの人形のおうちや可愛いアクセサリーを
沢山プレゼントしてくれた。
通院で友達と遊べない日が続く私を、ずっと慰めてくれてた。
お父さん。

私もう元気だよ。
体は今もちょっと弱いけど、ちゃんと学校に通えてるよ。
見てくれてて、ありがとう。
これからも配信がんばるね。

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