怪談百物語#46 山
子どもの頃、じいちゃんと山に行った時の話だ。
タケノコを取りに行くじいちゃんについて山に登った。
獣道すらない竹山を軽々と登っていく爺ちゃんの背中を追いかけるのは大変だった。
時々立ち止まって振り向いてくれるのはいい。
でもタケノコが見つかれば掘って、掘ったら探しに歩き回ってと休む間がない。
それにいつからか後ろをついてくる奴がいる。
じいちゃんも気付いているのだろうか。
振り向くたびに僕よりも後ろを見て、それから僕の方に視線を向ける。
怖くて僕は振り向けない。
すごいなじいちゃんは。
山を軽く登っていく姿も、どうやっているのかタケノコを見つけるのも。
後ろを平気で振り向けるのも。
ずた袋がパンパンになるほどのたけのこを取った。
そろそろ家に帰る時間だ。
僕はスクーターの前に乗せてもらって山道を下る。
ついてきていた視線はいつからか消えていた。
「あいつはなあ、ああやっていつも見守ってくれとるんや。」
頭の上からじいちゃんが話してくれた。
「あの山はあいつの山やったんやが、足滑らせたかなんかで帰れんくなってな。そのまま死によったんや。わしが見つけた時には食われたかなんかで骨になっとってな。んでからまあ、あの山はあいつの倅が管理しよって、わしら変わらずに入らせてもろとるんや。」
寂しそうにじいちゃんは話す。
「山に入るたび、酒そなえとるんはあいつにやっとんや。もう一緒に飲めんけどな。気持ちだけや。んでもなんでかあいつはようついてくるんや。」
見守ってくれとんやろか。
下から見たじいちゃんは笑顔だけど、やっぱり寂しそうだった。
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