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怪談百物語#99 残る声

理科の授業で実験って言うのを教わったんだ。
ろ過って知ってる?
ろ紙っていうのに汚い水を注ぐと、綺麗な水になって出てくるんだ。
授業の終わりにろ紙を一枚貰ったんだ。
 「みんなも色んな水をろ過してみよう。」
って先生が言ってた。

だから僕、放課後みんなでお水取りに行こうって友達を誘ったんだ。
近くの山に行こって言ったのに誰も来てくれない。
学校を出てすぐの田んぼの水でいいって言うんだ。
そんなのろ過してもつまらないと思う。
だから僕、一人で山に来たんだ。

自転車をその辺の木に立てかけて、ちょっと道から外れたところに入る。
まだ三時くらいなのに山の中は結構暗い。
夏ならもっと明るいのかな、冬はすぐ暗くなるから嫌いだ。
地面が固い。
ちょっとぼけっとしてると足が滑りそう。

あったあった、ここだよ。
緑色の池。
ここの水ならおもしろいのがろ過できると思うんだ。
滑らないようにゆっくり近寄って、ここに来る途中で飲んだスポーツドリンクのペットボトルを沈める。
うわあ手がぬるっとする。
汚いなあ。
ズボンで手をこすってふき取る。
さ、帰ってろ過しよっと。

夕ご飯たべてお腹いっぱい。
これから実験の時間だ。
まずろ紙をペットボトルにくっ付けて、ゆっくりと水を紙コップに注ぐ。

――ちょろちょろ、ちょろ

全然終わらないし手が疲れてきた。
うわ。
ろ紙から緑色のお水が零れちゃった。
もー、何で流れないの。
もういいや。

ティッシュで机を拭いて、実験終わり。
何がろ過できてるかな。
緑色の、何だろこれ。
草抜きした時の臭いがする。
でもちょっとくさい。
池の水に生えてた草がろ過できたみたい。
変なの。

他には何かろ過できてるかな。
お水の方はどうだろ。
ペットボトルの半分くらいは入れてるから、楽しみ。
あれ。
全然透明じゃない、緑のままだ。
ろ過できてない。
何だつまんない、これなら田んぼのお水でやればよかった。
このお水捨てよう。

紙コップとペットボトルを持って外に出る。
ここでいいや。
街灯の下、道路に水を流す。

――じょぼじょぼ、じょぼ

ひっ。
お水で濡れたところが人のお顔みたいになってる。
気持ち悪いなあ、早く帰ろう。

――おい。

家に帰ろうとしたら、後ろから声が聞こえた。
街灯の方を向いたけど誰もいない。
気のせいだ。
そう思い込んだけど怖くなって、急いで走って家に帰った。

次の日学校で理科の授業になると、どんな水をろ過したのかプリントに書いて提出するって言われた。
ろ過するのは宿題だったんだって。
やっててよかった。
実験が楽しくて、先生の話聞いてなかったから危なかったよ。

配られたプリントに「山で水を汲んできて、それをろ過した。」って書いて先生に渡した。
そしたら給食の時間に先生に呼ばれた。
机を合わせて食べる準備してたのに。
お前何かやったのか、って何もしてないよ。
でもいってくるね。
友達に別れを告げて職員室に向かう。

職員室ではこっぴどく怒られた。

昔、あそこで死んだ子どもがいたみたい。
年に二、三人、子どもが溺れて死んじゃうんだって。
だから立ち入り禁止にしてるけど、やんちゃな子が何年かに一回入っちゃう。

僕みたいに。

昨日の声ってその子達の声なのかな。
でも違う気がする。
お父さんよりちょっと若い、男の人の声だったと思う。
思い出すと恐くなっちゃうから誰にも言わないけどね。

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