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怪談百物語#39 髪結い

小さい頃はよく髪を結ってもらっていた。
母や祖母に暇があればいつもおねだりしていた。
みつあみだったりポニーテールだったり。
色んな髪型になる自分の姿が面白かった。
結い終わると決まって三面鏡の前でポーズを取る。
祖母の結納と共にうちにきたらしい鏡。
いろんな角度から見られてとても楽しかった。

祖母も母も亡くなり、私は隣の県に引っ越した。
千葉の隅っこは田舎っぽくて住みやすい。
うるさい都会から少し離れて心を休める。
今は紙を結ってくれる相手もいない。
祖母の遺品である三面鏡の前で、毎朝自分で髪を結う。
離婚してから一度も切らなかった髪。
だいぶ長くなってきた。
 「そろそろ美容室に行こうかな。」
ぽつりと独り言を漏らす。
寂しいのだろうか、最近めっきり増えてきた。
 「自分で結うのも大変ね。」
うなじに冷たい空気が触れる。
髪をかき上げた腕にかかる負担が軽くなる。
三面鏡に映る私の後ろに四本の腕が見えた。
いつもより上手く結えた髪。
もうすこしだけ切らずに伸ばそうかな。
鏡の私は、久しぶりの笑顔を見せてくれていた。

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