怪談百物語#45 卵 注意:私は嫌いな話です
仕事が終わり、家で夕飯の牛丼を食べながらテレビを見ていた。
今見ているのは雑学の番組。
様々な分野のためになるのか微妙な雑学が次々に流れる。
「へえ、ウズラの卵って孵るんだな。」
一人暮らしを十年も続けていると、独り言にもなれたものだ。
テレビと会話だってできる。
『受精卵なんで、親鳥のお腹の下と同じ温度と湿度を保てば十七日程度で孵るんですよ。』
「はあ。」
寂しい一人暮らし、潤いが欲しい。
なんてわけじゃない。
ただ生まれるならやってみるか。
そんな軽い気持ちで、ネットで孵化器を購入。
翌日の仕事帰りにウズラの卵をパックで買って帰った。
カップラーメンを待つ間に説明書を手に取る。
「長いなあ。これをこうして?ああこれでいいか。」
コンセントをさして電源を入れる。
「おお、温かくなってきたな。んでここに時間を入れると。」
容器がぽかぽかと温かくなってきた。
表面に書かれた数字は37.5℃。
これが親鳥の温度らしい。
その横に表示されている数字は1。
卵を入れた時間を入力すると、何日間温めたか表示されるらしい。
説明書を見ると、そのほかにも機能があるらしい。
――ガタッガタッ
ちょうど今のように、たまにガタガタと動いて卵の向きを変えるらしい。
「3,000円なのにすごいんだなあこれ。それに比べて卵はパックで150円。やっすい命だなあ。」
ずるずると、ラーメンをすすりながら毒づく。
「これがありゃ親鳥いらねえな。ペンギンもこれ使えばいいのにな。」
誰も聴いていないと口がどんどん悪くなる。
俺も昔はこうじゃなかった。
日曜になれば親に遊びに連れて行ってもらって。
家に帰ったらいつも「おとうさん、おかあさん。ありがとう。」と言わされていたものだ。
今の姿を見たら親は泣くだろう。
――ガタッガタッ
夜中でも構わず孵化器は動く、
「うるっさいなあ。くそっ、眠れねえじゃねえか。」
あの音が不快で寝不足の日が続いた。
それでも我慢して現場に向かう。
もうすぐ孵るはずだ。
そうすればあの音を聞かなくて済む。
あと少しの我慢。
そう思い続けていたがどうにもおかしい。
孵化器に表示される数字は37.5と21。
卵を入れてから三週間が経過していた。
テレビの情報だと、ウズラの孵化は十七日程度だったはず。
我慢しきれず孵化器の蓋を開ける。
モワッと部屋中に悪臭が漂う。
「腐ってんじゃねえか!」
卵は腐っていた。
「クソッ、俺の我慢は何だったんだよ!このっ!」
怒りに任せて孵化器を踏みつける。
――パキ、グチャ
――グチャ、グチャ
何度も踏みつけるうちに足元がぬるぬると滑り出す。
気持ち悪い。
――ピィ
小さな声が聞こえた。
足元を見ると不快さが増した。
孵りかけの卵があったのだろう。
悪いことをした。
あれから耳鳴りが酷い。
一日中、寝てる間でも構わずに聞こえる。
――ピィ
いたずらに命を弄んでしまったことを後悔している。
でも、食べるのだって同じようなものじゃないか。
なんで俺だけ。
――ピィ
――ピィ
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