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怪談百物語#36 夏合宿

サークルで開催した夏合宿の映像を編集していた。
担当は二年生の俺と同期の女の子二人。
三人でやるには量が多い。
四六時中撮ってた先輩の多いこと多いこと。
6人分の6本のデータ、合計40時間以上の映像が手元にある。
 「どうしよっか、これ。とりあえず2本ずつ担当決める?」


――良い場面があれば編集して送れよ。
趣味の悪いバカな先輩が、海で遊ぶサークルメンバーばかり映ったデータを渡してきた。
これは俺の担当に決定だ。
1番長いデータを自分のノートPCへ送る。
面倒くさい。
残りもそれぞれ担当を決めて各自編集作業に入る。


 「ちょっとごめん、これどうしたら良いかな。操作わからなくなっちゃって。」
 「あー、この作業ちょっと面倒だからやっとくね。その間こっちのカット作業お願いできる?」
 「ありがとう!カットならできるから任せて。」

こっちの作業がひと段落終わった辺りで女の子の話す声が聞こえた。
このノートPCは3人お揃いで、みんなサークルの会費から援助を受けて購入した。
当時は映像担当だから、と言われて喜んで受け取った。
卒業後は自分のものになるとはいえ、ことあるごとに映像編集を頼まれるのはかなりの手間だった。
とくにバカな先輩はことあるごとにくだらない動画を編集しろと送ってくる。
面倒くさい。


作業に戻ってしばらくすると、画面がサークルメンバーの水着姿でいっぱいになる。
はぁ。ため息ひとつ、作業に取り掛かろうとすると
 「はぁ、これほんともう。ほんと駄目な人だなあ。」
 「いつものことだけどいい加減にして欲しいよね。完全にセクハラだよ。」

ビクッとして後ろを振り向くと、休憩中なのか同期の女の子2人が立っていた。
各々あのバカな先輩を責める言葉を口にしている。
やっぱり嫌われてんだな、あの先輩。
帰りにでも「盗撮バレてますよ。」ってLINE送っとこうかな。
無駄にドアップで映されている水着姿を、次々にカットしていく。
楽しそうな姿だけ残してデータから消されていく。
 「そうだ、ちょっと悪戯しとこうよ。」
1人は席に戻ったが、もう1人の女の子は良いことを思いついたとばかりに声のトーンをあげて、俺の席を奪った。
 「ネットで心霊写真ダウンロードしてさ。」
先輩の水着シーンで止めて、カチカチと編集を続ける。
ここをこう、と画像を加工してバカな先輩の右肩に張り付けた。
 「心霊映像の完成!」
 「あは、ちょっとやり過ぎじゃないかな。」

俺は言い淀みながらもなんとか注意した。
ギロッと睨まれると何も言えず、次の場面に作業を移す。
こんな趣味悪かったっけ、この子。
滅茶苦茶腹立ってたのかな。
そう無理にでも自分を納得させながらなんとか編集作業を終えた。
 「お疲れさまー!続きは各自、家でもできそうだね。」
 「うん、さっきは代わってくれてありがとうね。またね!」
 「お疲れ様。来週の鑑賞会忘れないようにな。」


それぞれ帰宅して編集作業を終えた翌週。
講義が終わった教室を借りて、みんなで夏合宿の映像を確認する鑑賞会が行われた。
おかしな部分がなければそのままSNSにアップロードされる。
編集された映像は、広報や思い出作り、卒業する4年生に向けてのプレゼントなど。
様々なことに使われる。
編集担当は、結構重い役割だったりする。
だからノートPC代が援助されるんだよな。
動画を見ながら頭では別のことを考えていると、悲鳴が聞こえた。
あのシーンだ。
女の子が先輩の右肩に心霊写真を張り付けたシーン。
そこで映像が止まっている。
ネタバラシでもするのか?
編集した女の子の方を振り向くと、首を左右に降っていた。
止めたのはあの子じゃないのか。
プロジェクターの方を見ると、暗くてわからないが必死に直そうとしているように見える。
ザワザワと喧騒が広がっていく。
先輩はどこだ?
席を立ってみわたすも、どこにも姿が見えない。


不意に教室が明るくなる。
機材担当だった4年生の先輩が部屋の明かりをつけたらしい。
 「みんな、落ち着いて。今日はこれで解散します。この件については後程連絡を回します。編集担当者は事情を聴くので残って下さい。」
お疲れさまでした。そう言って場を一旦締めて皆を帰す。
教室に残ったのは編集担当の俺達3人と4年生の先輩1人。
明るい教室のシアターにうっすらとバカな先輩が映っている。
 「この場面を担当したのはお前か?何故カットしなかったんだ。」
 「違います。ここは私が編集して、加工をしたのも私です。」

先輩に注意を受けた俺をかばって、女の子が名乗り出る。
 「そうか?でもデータを持ち帰ったのは彼だろう?じゃなきゃタイミングがおかしい。」
どういうことだ、と先輩は首をひねる。
どこか様子がおかしかった。
 「そういえばこの先輩、今日は休みですか?」
俺は薄らと映る画面を指して先輩に尋ねた。
 「知らないのか?そいつ日曜に事故にあって、今入院してるよ。」
曰く、右腕を切断する大怪我だという。


その後、知らなかったということで軽い注意だけされて俺達は帰された。
バス停で待つ間、加工した女の子は顔面を蒼白にさせ、もう1人の女の子がその様子をずっと気遣っていた。
反対方向のバスに乗った俺はぼんやりとあの場面を思い返していた。
霊障ってあるんだなあ。
加工した甲斐があったわ。
右肩に十を超える霊をつけた先輩の姿。
人の少ないバスの中、後部座席に座る俺はくつくつと笑いが止まらなかった。

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