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怪談百物語#10 怪人とは

「学校の近辺にまた不審者がいるとのことだ。
 今日は集団下校。気を付けて帰れ。以上。」

帰りの会が終わり、同じ町の子達が集まる。
最近いつもこうだ。
不審者。
僕たちは赤い怪人と呼んでいる。
夕方に現れるから夕日に染まって真っ赤だとか
攫った子どもを殺して、赤い血を浴びているからだとか
色々言われている。

「僕見たんだ!あのひと髪が真っ赤だったから、きっとあの人が赤い怪人だよ!」
「嘘つけよ。赤い髪の人なんてこの辺にいねえよ。」
「お前のほかに誰かいたか?いたやつらも同じこと言ってたら信じてやるよ。」

そう声高く言い争っていた同級生達。
見たんだ、と言っていた子が
昨日から家に帰ってないらしい。
赤い怪人は一人きりになったの子どもを攫う。
その噂を信じて、集団下校から外れて一人で帰ったらしい。
昨日その子の発言を疑っていた子達が、
俺たちが信じてやれば、こんなことにならなかったんじゃないか。
と教室の隅で話している。
身近になった怪人の恐怖に、僕らは怯えていた。

――赤い髪の人が来たら逃げよう。

そう言い合って集団下校をはじめた。


校門まで歩いていると、父の姿が見えた。
仕事で忙しいのに大丈夫なのだろうか。

「おお、来たか。仕事で近くまで来たから、ついでだ。迎えに来たぞ。」
「お父さんありがとう!うん、わかった。じゃあみんなまた明日ね!」
「うん、またね!」「またあした!」「ばいばい!」

口々に別れを言って見送った。
一緒に帰れない寂しさもあるが、父が迎えに来てくれた嬉しさの方が大きい。

「スーパー寄ってくか。なんでも買ってやるぞ!」
「やった!じゃあ戦隊マンソーセージほしいなあ。」

父と手を繋いで、反対の手には大小のレジ袋を持って家に帰った。
お菓子を選ぶのに時間がかかったけど、
お父さんは何でも買ってやるって言っただろ。と全部買ってくれた。
外はだいぶ暗くなっていた。
お母さんに怒られないといいな。
そう思いながら玄関の前に立つと、
ドタドタと母の走る音が聞こえる。

「あんた!よかった。本当によかった!ああ、もう駄目なのかと、どうしようかと!」
「なんだどうした、何かあったのか?」

ドアを開ける間もなく叫ぶ母の姿に、
父と僕は面を食らう。

「今、連絡があってね。ご近所さんのお子さん達がまだ帰らないそうなの。」
「嘘だ!さっきまでみんな一緒だったもん!」
「早く家に入りなさい。二人とも、続きは中で話そう。」

ね?と父に言われ、しぶしぶ家に入る。
皆帰らないなんて嘘だ。
不安に胸が潰されそうになりながら、
手を洗って、食卓に着く。
大好物のから揚げにも目がいかない。

――赤い怪人の仕業だ。

噂では一人の子どもを襲うという噂は間違っていた。
集団でも襲われる。
翌日、学校は臨時休校になった。
窓から警察の歩く姿が見える。
これ以上誰も被害にあいませんように
そう祈りながら外を眺める。
夕日が沈んでいく。
今日も怪人は現れるのだろうか。
学校に行きたくない。

友達のいない教室。

「昨日不審者が捕まった。詳細はプリントに書いてある通りだ。
 保護者の方にきちんと渡しておくように。
 一応今日も集団下校だ。気を付けて帰れよ。以上。」

帰りの会が終わる。
先生から隣の町の子達と帰るように言われたが、
今日はお母さんが迎えに来てくれると伝えた。
もう校門についていたみたいで、僕に気付いて手を振っている。

「おつかれさま。勉強ちゃんとしてきた?」
「やってるよもう、うるさいなあ。」

いつもの会話をしてくれる。
気を落とさないようにと気遣ってくれる。
家に着いてプリントを渡す。

『犯人は男性、年齢不詳。
 死体となって見つかった。
 外見は目撃した住民の証言と一致しており、白い髪・赤い服。
 誘拐されたとされる現場に周辺に残る足跡と、死体の履いていた靴が一致。
 被害者たちは隣の県の紡績工場で労働に従事させられていた。
 人身売買グループの犯行か。』

怪人が捕まっても友達は帰ってこない。
両親いわく、そのまま工場で働いているらしい。
本当だろうか?
子どもが労働力とされた時代。
祖父が幼いころの話だ。

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