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図書館と書店の関係について

こんな記事を目にしたのでちょっと補足をしたいと思った。

 この記事の著者は出版の動向についての記事が多いので、完全にわかっていて、ボリュームの関係か、主題がぶれるからか、記事中には意図的に書いていないことなのであろうが、日本と北米ではそもそも書店のあり方が全く異なる。
 そのため、書店が提供しているサービスも、引いては図書館の利用方法やニーズも全く異なるところがある。
 私の自己満として、この記事の補足としてそんな情報を書いていこうと思う。

北米の書店とはどういうものか

仕組みの違いから生まれる店頭の違い

まずは基本的な情報を押さえておこう。https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/contents/downloadfiles/report/shoten-chousa.pdf

 上記は経済産業省商務情報政策局 コンテンツ産業課が2023年10月に出したレポートで、書店の経営環境を西側の諸外国と比較したものだ。
 レポートを読んでもらうとわかるが、北米において本は競争法の適用除外もうけておらず、定価販売も義務付けられていない一般的な商品となっている。(日本は競争法の適用除外を受けており、事実上、定価販売がデフォルト。)
 加えて、書店は出版社と直接取引が基本であり、その条件は買い切りが基本となっている。(日本は出版社と書店の間に取次という問屋が入っていて、条件は委託がほとんど。)
 それがどういうことかというと、とある出版社が出した本について、こっちの書店では売っている(取り扱っている)が、あっちの本屋では売っていない(取り扱っていない)、そして売っている値段もバラバラというのが基本になる。さらに、流通を元締めているような存在もないので、日本では本好きの人であれば見たことはあるであろう、すべての出版社の刊行情報が入っているような刊行予定のようなものもない。
 そして、本屋の店頭は、在庫が置いてある状態なので、売れ残っていれば古い本がそのまま残り、何か月(場合によっては何年)後にも残っていた場合、書店は値引きをして在庫を処分(販売)する。
 日本では、取次が入っていて、ほとんどの出版社は取次経由で本を販売し、委託販売をするケースがほとんどとなる。結果として、書店には新しい本があふれ、売れ残った本も1か月もすれば返品されてしまう。動きの悪い本はどんどんと返品され、売れる可能性の高い(多くの人に支持される)本だけが補充を繰り返して棚に残ることになる。
 これはどちらが悪いという話ではなく、どちらもメリットもデメリットもあり、結果として日本では書店店頭を見ればある程度厳選された売れ筋と新刊のラインナップを見ることができる、という話でしかない。(逆に言うと、マイナーな本、ちょっと古い本は本当に見つけにくいし、どの書店に行っても結局似たようなラインナップになる。)

書店の店舗数

 先に出した経産省の資料によると、北米の書店店舗数は2020年で5,733店となっている。
 一方、日本の店舗数はかなり減ったとはいえ、12,343店となっている。(下記)

(出版科学研究所:https://shuppankagaku.com/knowledge/bookstores/)

 つまり日本の方が倍以上の数があり、身近だ。そもそも北米でリアル本を買うのは日本に比べて地理的ハードルがそれなりにある。

図書館の数とショールーム的利用

 以下文科省の資料①によると北米の公共図書館数は9,129館とのこと。平成17年(2005年)の資料なのでちょっと古いが、②の資料では1991年の情報として9,050館という記述があるので、そう大きくは変わっていないと思われる。

資料①文部科学省の資料

資料②財団法人自治体国際化協会の資料
https://www.clair.or.jp/j/forum/c_report/pdf/101-1.pdf

 前述の書店数に比べて公共図書館数の方が2倍近く多い。先に述べた書店のあり方や店頭の状況と合わさって、そりゃ、本という商品をショールーム的に探すのは書店より図書館になるよ、と思う。

図書館の提供するサービス

 図書館は、安全で自由にたむろできる場所としての機能など、さまざまなものを提供している。アメリカでは就職やキャリア、子育てに関する相談や支援、語学学習、プログラミング学習などに関する機会やアドバイスも図書館が提供しているし、Wi-fi対応のワークスペースやメディア制作機器などのクリエイティブ環境も用意している。もちろん日本でも行われているような絵本の読み聞かせなどもある。

冒頭の現代メディアの記事より抜粋

 こちらの部分についても、一概に北米の方が優れているとはいいがたい。日本においても同様の公共サービスは行われているものは多く、キャリア相談はハローワークで行っているし、子育て相談も専用窓口がある。学習プログラムも自治体主催のものは数多くあって、それぞれ自治体の持っている多目的スペースや会議室などで行っているケースが多い。
 つまり、日本ではそれぞれ専門化していて、それぞれ別々の場所で対応しているというだけで、図書館は書籍へのアクセスと、本探しや情報検索をする上でのアドバイス等、司書さんが提供するサービスを専門で提供しているというだけだ。

文化と歴史が違うのに比較に意味はあるのか?

 これまでに記載したように、結果としては周辺環境から何からが違いすぎるので文化の違いとしか言いようがないと私は思っている。
 日本の書店が苦しいのは、全般的には活字本を読まない大人が増えた&電子書籍で買う人が増えた結果、リアル紙本全体が売れなくなってきているという市場環境。
 また、街中の商店街のような場所がなくなり、大型ショッピングセンターなどに人が集まるようになった結果、書店がどんどん入れ替わり、身近で買いにくくなったという周辺環境。
 委託販売だからこその、薄利多売の商売構造。
 実質賃金が低下している状況下における、図書館という代替サービスの存在。
 このあたりが絡み合って苦境を生み出しているように私は思う。


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