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【試し読み】『クリエイティブデモクラシー「わたし」から社会を変える、ソーシャルイノベーションのはじめかた 』はじめにを公開|公共とデザイン

本書は、行政でのイノベーションラボ立ち上げや、地方自治体・企業・住民とともに社会課題に向けた共創に取り組む「一般社団法人 公共とデザイン」が案内する、自分の足元から社会変革への第一歩を踏み出すための思考と実践の手引きです。
他者と出逢い、対話し、関わり合うなかで生まれる自身の衝動や好奇心を表現した活動(ライフプロジェクト)を通じて、オルタナティブな民主主義のかたち「クリエイティブデモクラシー」へと至る道筋を示します。

2023年10月25日発売を記念して、本書を書くきっかけともなったnoteにて、「はじめに」の部分を公開します。多くの方が本書を手に取るきっかけになればと願っています。

一般社団法人公共とデザイン『クリエイティブデモクラシー』(BNN出版)


はじめに

「どうせ、何をやっても変わらないのではないか」

2020年のCOVID-19の爆発的流行、気候危機、経済成長の鈍化、少子高齢化……複雑になり続ける社会の問題は、不確実さ・予想のできなさに直結し、それは未来に対する希望の持てなさにもつながって、「投票しても変わらない。制度や行政だけに頼って声をあげても限界がある。暮らしはよくならない」─ そんなどんよりとした空気感の蔓延を肌で感じます。

「でも、社会を変えていくのは行政や国でしょ?」「この状況は政治家がなんとかするべきだ」

日本は民主主義国家だとされています。選挙のたびに投票には行く。それは、わたしたちの手で社会をつくっていくための「権利」だから。少なくともそうであったはず。そういうことが理想だったはず。だけど、足元の生活や活動と理想はどんどんかけ離れていき、社会を変えられる実感のなさは増すばかり。わたしの行動、生活すること、働くということが、どう社会に結びついているのか、そしてそれが良い方向に向かっているのか、想像することはたやすくありません。

「わたしなんかが一人で何かをやったとしても、どうせ何も変わらないだろう」

でも、本当にそうなのでしょうか? わたしたち一人ひとりは、何も持たない無力な存在なのでしょうか? 筆者らは、「そうではない。わたしたちの生活は、わたしたちで変えていける」と信じています。「政治(politics)」や「社会」という言葉は、はるか遠くにある無関係なものと感じられがちですが、すべてが「わたし」の足元からつながっているのです。

筆者らが主宰する団体「公共とデザイン」の3人は、デザインをバックグラウンドとしています。デザインというものの核にあるのは、今とは異なる別の世界を想像し、行動し、望ましい方向に向けて実践することだと考えています。ソーシャルイノベーション・スタジオをうたい、多様な「わたしたち」による新しい公共を目指して企業-自治体-住民と共に社会課題へと向き合う「公共とデザイン」という活動体も、こうあったらよいと願う社会を「わたし」から実現するための行動の結果であり、社会につなげていくための実験のひとつです。

本書は、「公共とデザイン」の活動から培った経験と知を下地に、民主主義・ソーシャルイノベーション・参加型デザイン(コ・デザイン)に通底して流れる思想と理論から、実践への一歩を後押しするものです。わたしの行動が生活を変え、あなたの習慣を変え、わたしたちの社会が変わる。そんな社会の実現を、真に民主的な理念を体現することができると信じられる社会環境を、生み出したいと筆者らは願っています。CHAPTER 1では、こうした社会環境をオルタナティブな民主主義のかたち「クリエイティブデモクラシー」として、その理念を提示します。「わたし」と「社会」をつなぎ直す、「わたしたち」の手で作り上げる民主主義は、どのように実現できるのでしょうか? クリエイティブデモクラシーを導く手がかりとなるのが「ソーシャルイノベーション」であると筆者らは考えています。ソーシャルイノベーションは、わたしの「こうしたい、もっとこうだったらいいのに」を実現しようと試みる少数の個人から始まり、その想いやアイデアが他の人に伝搬することで、社会規範やシステムの変容を経て、これまでになかった新しい世界を立ち上げる営みです。

そしてその源となるのは、異なる他者との出逢いと対話です。対話 のなかで、「わたし」のこれまで気づいていなかった可能性を見出し、 望ましさを再発見する。発見に突き動かされるようなかたちで行動に移し、そこでまた新たな可能性につながる、といったように循環します。CHAPTER 2では、このような出逢いと対話によって紡がれるソーシャルイノベーションについてお話します。

この循環はどのように生まれ、育んでいくことができるのでしょう か? コンビニで偶然同じ時間を過ごした人とのあいだに、対話や関 係は自然には起こりません。初めて顔を合わせた場面で「では、今 から対話してください」と言われても、何を話すのかに困ります。他 者と対話し関係性を紡いでいくためには、土台が必要です。一方で、 土台だけあっても興味を持たれなければ見向きもされず、興味を持たれたとしても深いコミットメントが求められる活動をたった一人で 起こすのはむずかしいでしょう。CHAPTER 3では、ソーシャルイノベーションを可能にするための土台がどのようなもので、いかにして構築できるのかについて、ものごとを着火させ、人々を可能にする 「イネーブラー」としての専門家のデザイナーの役割、そしてソーシャルイノベーションのためのデザインとはどのようなものなのか、事例とともに深掘りしていきます。

CHAPTER 4は、CHAPTER 1~3で語ったクリエイティブデモクラシーおよびソーシャルイノベーションの理念につがりうる国内外の事例を紹介しています。行政・地域共同体・企業などを横断したこれら事例は、目指すべき唯一の「正解」というものではありませんが、各々の実践の現在地であり、読者のみなさんの状況や立場に合わせた一歩目への「道標」のような役割を担ってくれるはずです。

最後に、筆者たち「公共とデザイン」のミッション・ステートメントにも引用しているプラグマティズムの源流とも言われる思想家ラルフ・ウォルドー・エマソンの言葉をもって、この「はじめに」を締めようと思います。本書を手に取ったことで、心に光が灯るきっかけを見つけられたり、あるいは既に灯っている光に気がついたり、勇気とともに一歩目を踏み出せますように。その先で、誰かと出逢い、同じであることに喜びを分かち合い、違う側面に驚いて面白がったり、共に未来を紡いでいけたら─そんなことを願って。

人は、自然や賢人の天空の光沢よりも、自分の心の内側から輝き出る一筋の光(the gleam of light)を発見し見守ることを学ばねばならない。

2023年9月 公共とデザイン


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