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香りを纏う




私は朝起きたら大きく伸びをして、


顔を洗って、歯を磨いて、たまにシャワーも浴びて、


そして香水をつける。



あまり香りの強いものは持っていない。


その時の気分で、フィーリングだけで選ぶ。



私はいつからか、多分、結構昔から「香りもの」が好きだ。


ついこの間、最近ようやく手に入れた憧れの香水を1プッシュ。
太ももに透明なのに存在感があるミストが広がるのを眺め、感じながら


「なぜ私は香りものが好きなのだろうか」

と考えを巡らせた。


癒されるから?
うん、そうだ。いいにおいは癒されるから好きだ。


自分のご機嫌を自分で取れるような、いわゆるイイ女感を味わえるから?
うん、たぶんそれもある。


素敵な香水瓶を手に取り、シュッと吹きかけるその行為が好きだから?
うん、間違いない。私はあのキラキラとした美しい香水瓶が好きだ。



だが、もっと、こう根本的な、「香り」が好きな理由がある気がする。



結局、その朝はその答えを見つけることができず、
その日だけでなく、翌日もずっと考え続けることとなった。

考え続けて何十時間かたった、2日目の夜、

「見えないからか?」

とふと思った。唐突に思った。



見えないだけでない、「香り」を表す表現というものは、非常にあいまいで共通の基準があまりに希薄だ。

増してや「好き・キライ」の評価や価値観の話になると、あいまいなんてものでない。完全に個人の趣味と過去の経験に基づく。やや行き過ぎかもという言い方をすれば「他者の介入を許さない領域」とも言えるかもしれない。


五感と言われる感覚は「味覚」「視覚」「触覚」「聴覚」そして「嗅覚」の5つで構成されている。


味覚は、甘い、辛い、酸っぱい、苦い、などその感じ方の程度に違いはあれど、共通の基準があるからメニューの紹介がわかるし、美味しい・不味いの感覚が大多数である程度一致するからミシュランガイドも成り立つ。

視覚は、代表格は色になるだろうか、実際に脳内に出されている映像や捉えているものが違うとしても、概念を共通のものとしており、青といえば、(それぞれの)青を指さすことができる。

触覚も、柔らかい硬い、痛い、熱い冷たい、などの共通概念がある。

聴覚も同様だ。大きいと言われれば小さくし、小さいと言われれば大きくする。耳がキーンとする、と言われれば「ああ不快なのかな」と思う。ある程度の共有する言葉がある。


比べて嗅覚はどうだろう。くさい、いい匂い、という今自分が不快か心地よいかという気持ちを表す言葉はあるが、その匂いそのものを表現して、その人の状態を推し量ることはなかなかに難しいし、その匂いがどんなものか共有しようとするのはかなりの至難の業となるだろう。


私はそこが好きなのだ。



以前、香水屋さんにあった柑橘系の香水の紹介文でこんなものがあった。


「清楚なレモンを卑猥に汚す」


私はとても好感を抱いた一文なのだが、香りが想像できるかと言われれば、なんとなくレモンを感じるのかな?少し苦みがあるのかな?と思うくらいで正直、意味はわからない。

ただ、その清楚と卑猥といったシンメトリー感のある語感に惹かれただけだった。


とにかくにおい、香りを言葉を介して表現し、相手を伝えることは難しい。

その香りから何を想うか、連想するかはその人の過去、どんな経験をして、どんな景色を見てきたかに大きく左右されるだろうし、それを無数にある言葉のなかから何を選択しあてがうかなど、星の数ほどの可能性があるだろう。


だから私は好きなのだ。


私がどんな香りを好み、そこに何を感じ、どんな時にその香りを求め纏うのかは、私のこれまでの人生がもろに出る部分であると思うし、

相手がどんな香りを好み、そこに何を感じて、どんな場面でそれを身に着けるのかというのは、決して視覚では捉えようのない相手の人生に直に触れているような気がするのだ。


きっと私は自分自身の感性を豊かに磨き続けたいと思うように、人の感性に触れたいと思い、言葉ももちろんその人らしさがでていて好きだが、その言葉をしらないといけないし、外国語を学んでいて実際に感じるのがその「ニュアンス」の難しさであることから、言葉を超えたところでその「感性」に、「人生」に触れられることに喜びを覚えるのだろう。


そしてにおいというのは、TPOといわれるような、その土地土地の文化との関係も非常に密接であろう。そこも面白い。目に見えない「何か」を我々は共有している。共有しているようで、いざ「ビジネスシーンにふさわしくない強すぎる香りは?」と説明を求められると、「こう鼻がつーんとなるような…」みたいな超感覚的な表現になるのだ。おもしろい。中には色で表現する人もいる。おもしろい。私は極度の物語好きな人間なので、香りから物語や風景などを想像するクチなのだが、同様の人もいるだろう。大抵ちゃんとは伝わらない。おもしろい。


やや長々と書いてしまったが、私が香りを好む理由というのは


決して言葉では伝えきれぬ、感性であり人生に触れられる気がするから


というところに行きつくのかもしれない。



最後に需要のかけらもないTMIをひとつ付け加えるとするならば、

私が一番好きな香りはジャスミンの香りだ。

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