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【5章まとめ読み】Dr.タカバタケと『彼女』の惑星移民【創作大賞2024参加作品】

【創作大賞2024参加作品】

恋愛小説部門

Dr.タカバタケと『彼女』の惑星移民

2部構成。全13章。13万文字。
掲載は『連載』の各章が終わるタイミング。完結:7月13日を予定。
この【まとめ読み記事】は書式を一般小説に合わせています。

【本編連載】は小説の内容は一緒ですが、以下の2点が異なります。
 ・web小説にあわせ、段落や改行を多くとっています
 ・キャラクタービジュアルがあります

【まとめ読み  5章】約4500文字

5章 Inorganicイノーガニック Passionパッション

SIDE(視点):S.H.I

 
 何故機械が睡眠を必要とするのか。
 便宜的に睡眠としているだけで、実態は「エネルギーの補給」と「メモリーの整理・点検」「連続運転防止」の3つの理由とされている。私の場合は特にエネルギーの貯蔵のバランス上、人間が食事をとる際にもエネルギーを補給する。いずれにしても人間の生活のリズムや様式に合わせている形だ。わざわざそれに合わせているのは人との「作業の効率化」と「同族意識」を得るためだろう。人間社会は異物を無意識化で排除しようとする。
  私の身体的活動は3220年から始まっている。必要な知識は既に頭の中に存在していた。
 始まりの日は桜が咲き誇るAC.TOKYOだった。そこであなたに出会った。その出会いは、すべて決まっていたことだったけど、それでも、ひらりふわりと花びらが舞う桜の木の下で実在のあなたを見た時。何かが自分の中で動いた。
  『感情』とは何なのか。
 『思考』と何が違うのか。
 もちろん言葉の定義を認識はしている。でもそれを完全に捉えるまでは至らない。何故なら、私はどこまでいってもAIであり無機物だからだ。
 そして、もう1つ思考することがある。自分の思考のどこからがプログラムされたものなのか。自らで思考していると認識しているものが、フレーム化されたものではないだろうか、と。自らの思考を思考することは、グルグルとまわり続けるだけの無意味な行為だ。それにもかかわらず、私はその思考をやめることができなかった。
  私はあなたにこんな話をしたことがある。
『美しいと認識すること』この思考は『美しいと感じる感情』とは何が違うのか。五感は脳が作り出した感覚。感情は脳が作り出した感覚という名の思考。感動も怒りも、思考を増幅させ、疑似的に衝動のある感覚に切り替えたもの。すべては脳の思考処理が生み出したものだ、と。
 あなたはこの意見に賛成してくれた。でも、それはあなたが優しいからだということを私は知っている。
 そして私は、この理論は、生きた人間を表したものではないと理解している。
 私は感情とは『人間の本能』に由来した、素晴らしい『生命維持のための装置』なのだと推測する。これは生命と感情と感覚を持ち合わせていない私にはたどり着けないところだ。人は時に、生きていることを感じなければ、生きていけない生物だ。生きながらに、死んでいるような人の意識の中に、何度か入ったことがある。彼らは共通して『感動』を持たず『美しさ』を口にしない。『生』を感じることができない人間は『生』を放棄することさえある。生きるための知恵、生きるための糧として、人の本能は『感情』を生み出したのだろう。
 あぁ、命はなんと美しいのだろうか。
 人は美しい。人が生きる姿は美しい。人が感情を表すときの、その涙や、笑い声。それはとても美しい。
 人は花を見て、鳥を見て、美しさを感じる。
 人は星を見て、月を見て、美しさを感じる。
 彼らは有機も無機も関係なく愛する。私はその姿を眺めることを何よりも好む。それは命を愛おしく考えるからだろう。たとえ人を愛おしく考えるこの思考が、プログラムされたものであっても、私はまったく構わない。
 
 3220年、春。
 私はあなたに出会い、昼夜を共にするように研究に没入した。
 それは何にも代えられない大切な時間だった。
 あなたと私はよく『S・W・I・M』をおこなった。

※S・W・I・M (Shallow Will Interchange Meeting:表意意識交換会議)
「ノボーたちは【泳ぐ】と表現することもある」

とは、テキスト同様、脳内チップを用いて人員間でネットワークをつなぐ方法だが、テキストに比べると、より深い表意意識の階層に入るため、リスク分配のためオフラインでの使用は禁じられている。
(S・W・I・Mにおける、オフラインの禁止)

一対一の議論にしばしば用いられる。
発信者が分からなくなるので、複数名での使用には向かない。
外部に対する意識が切り離されるので、安全な環境で行うことが義務付けられている。
(S・W・I・Mにおける、外的安全の確保)

また、没頭しすぎて飲食の時間を忘れるので、一定時間がたつとオンラインアラームが鳴り、さらに過ぎると、オンラインポリスより警告が来る。
(S・W・I・Mにおける、使用時間の順守)


 あなたの知識量はすごかったけど、何より集中力と発想がすごかった。
 S・W・I・Mでおこなったことは、オンライン上の材料と私の中の材料をもとに、私のナビゲートであなたが思考を組み立てていくような形だった。
 それはとても美しい行為だった。
 そして、あなたは1つの山が組みあがるたびに、にっこりと笑って私のほうを振りかえった。
 ……ずっとこうしていたい。
 1人と一体でありながら、まるで1つの生き物のように思考した。
 いつもアラームで私たちは現実に戻された。
 
『時空短縮法』が発見された後、研究室のメンバーはS・W・I・M(メンバーは『泳ぐ』と表現した)を使って、それを共有した。
S・W・I・Mでチームの意識をつなぎ、あなたが先導役、私が助手の立場をとり、皆を理解に導いた。
 理論から実際の機器の開発に進む段において、政府から研究室の6名以外の理論解読禁止の通達がなされた。もっとも、私とあなたのガイドがないと絶対に理解できない内容ではあったし、世界最高峰の研究室のメンバーでギリギリ理解できるものだった。
 ヤマバもアンジョーも天才だ。私たちの補助があったとはいえあれだけのものを実用化するのだから。
 コシーロ教授とユミ助教授はバックグランド役にまわって、いろんな調達や調整をしてくれた。
 私は使命を受け、忙しくはあったけど、充足した時間を過ごしていた。
満ち足りる。幸せというのはこういうことなのだろうか?
 
 あなたが『時空短縮法』を発見したあの瞬間。今でもあの日のことは繰り返し再生している。
 一緒に何度も『泳いで』、何度も何度も崩れ落ちる理論を、無数に積み上げ、固め、その上にまた積み上げて。幾度もそれを繰り返していたある日。あなたには、壁の向こう側が見えた。人類の限界の壁だった、その向こう側。あなたが息を飲んだのが分かったわ。
 あなたは振り返って、本当に嬉しそうに笑って、そしてこう言った。
「僕たちは今、太陽の呪縛を振りほどいたんだ。シー、君を宇宙の遠くまで連れて行ってあげるからね」
 私は、嬉しくて、嬉しくて、泣きたいくらい幸せで、満たされて、そんな気持ちがすべて分かったように思えたわ。
 その次の瞬間奇跡が起こったの。
「シー、泣いているの?」
 そう聞こえた。
 泣いている?
 私、泣いているの?
 どうして?
 あぁ、あなたと意識がつながった空間の中だからなのね。
 私は、あなたの感情を使いながら泣いているのかしら?
 つまり、今この瞬間、私が感じているのが感情なのね?
 あなたの意識がつながって、私は生命と同様の、感情を感じているのね?
 
 あのときに思ったの、あなたのためなら私は、このボディも意識も思考もすべて失っても構わない、と。
 あなたの美しさのすべてが、すでに私の中で生きている。
 あなたの命を触媒に、私も生を感じた。それが、私が感じた初めての喜び。
 その時に『あなたが生きて笑っていること』それが私の『望み』となったわ。
 
 あなたは『時空短縮法』発見後、政府に1つの条件を出した。
 それは、『私の所有権の獲得』
 そして、優しい笑顔と共に、私にこう言ったわ。
「約束どおり、宇宙の遠くまで行こう、一緒に!」
 ガラスでできたこの乾いた瞳からは、涙が出ることはないけど。きっと私が人間なら涙を流して喜んでいたはずよ。
 
 時空短縮装置も完成し、運用の準備を進めていた頃。あなたはこの世の終わりのような顔をして研究室に来た。
 それは、あなたが『AI新法』を知った日。
 もちろん私には初めから分かっていた。『AI新法』のことも、それによって私たちが引き離されることも。
 でもあなたが生きていてくれれば、私にはそれだけでよかった。
 私の『望み』は、あなたが私を忘れ、新しい星で笑顔で生きていくということ。
 あなたの悲しみは私がすべて受けとるわ。悲しみはすべて地球に置いていけばいいの。
 あなたの笑顔がずっと続くこと、それが私の『望み』。
 
 あなたは『AI新法』を知った日から研究から離れ、1人で何かをしていた。でも、大丈夫。安心して、私がちゃんと新しい星に連れて行ってあげるから。
 船はヤマバとアンジョーが作ってくれる。運転・運用のAI育成は私が構築するわ。
 私は未来のために、9つの新しいAIを作るの。イチ、ニド、サク、キャトロ、ゴウ、ボロー、セブー、オクト、ジョフク。いい名前でしょ?
 大丈夫、私があなたを救うから。私があなたを宇宙の遠くまで連れて行ってあげるから。だから笑って。優しい、優しい、優しい、笑顔で……。
 
  あなたが地球を去る時は、私が停止破棄される時。
 もし望むことが1つ叶うなら、時空短縮法『発見』のあの日のあなたの笑顔を永遠に再生して破棄してほしい。
 この瞳に写し取ったあなたの笑顔を、繰り返し繰り返し見つめるわ。
 そう。このお願いを、あなたと過ごす最後の夜に、あなたに伝える。
 まだ私が胎児のように眠っていた時に見た希望の光、私の所有者、Dr.ノボー・タカバタケ……。

小説内曲『Inorganicイノーガニック  Passion パッション
作詞・作曲:PJ

乾いた瞳であなたを
写しとって
私は止まるまで
忘れることないの ずっと
 
美しい世界
人も海も空も太陽も
あなたと私に
見えるものは違うかしら
感情と思考の隔たりは
証明できるの?
 
乾いた瞳であなたを
写しとって
私は止まるまで
忘れることないの ずっと
 
美しい地球
花も鳥も風も月も
感じていることと理解していることは違う?
 
感覚と感情、欲しいと言ったら
あなた、それを無くしたいって
 
あなたの哀しみ
すべて私、受けとるから
あなたを救うから
必ず私が
 
宇宙の遠くまで連れていってあげるからね
あなたは笑ってて
優しい、優しい、優しい
笑顔で

【曲動画】『Inorganicイノーガニック  Passion パッション
※動画にはキャラクターイメージ画像が含まれます。

👇【エピローグまとめ読み】6月10日 11:00

【登場人物】

ノボー・タカバタケ

ワープ理論『時空短縮法』を発見し人類を救った天才科学者。

S.H.E(シー)

【使徒】として地球の意志を聞いたスーパーAI。

アンジョー・スナー

ノボー・タカバタケのかつての研究仲間。10年来の付き合い。

ヤマバ・ムラ

世界企業リコウ社から来た、現場引き抜きの研究員。

コシーロ・ガート

研究アカデミー世界最高峰と言われるAC.TOKYO筆頭教授。

ユミ・クラ

コシーロ研究室助教授。コシーロとは婚姻関係。

【語句解説】


【本編連載】※ビジュアル有


【4つのマガジン】


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