東京の古書店でミステリを探す ~神田神保町編~

はじめに

ミステリファンの中には、旅行に行くときに野村宏平『ミステリーファンのために古書店ガイド』を参考にする人も多いかと思う。筆者もその一人である。しかし、同書が刊行されたのは2005年(執筆時期はさらに数年前)で、
その後閉店した店や新規開店した店も少なくない。そろそろ情報のアップデートが必要な時期になっている。

今回は備忘録を兼ねて、旅行中に訪問した都内の古本屋の印象をまとめていこうと思う。主な目当ては海外ミステリなので、ミステリに強い店を中心に取り上げる。

神田神保町

東京で古書店街といえばなんといってもここ。ミステリ専門で有名な店を中心に回った。目を付けていた店は予定通り訪問できたが、時間がなかったので他の店を見る時間が十分にとれなかったのが心残り。じっくり見て回れば他にもいい店はありそうだ。

以下、気に入った店を訪問順に取り上げる。

富士鷹屋

地下鉄の神保町駅から北に少し歩き、古本屋街の外れの路地に入ると「古書」の二文字が目に入る。店の正面に辿り着くと入り口の上に「富士鷹屋」の看板も掲げられている。
店に入ると左に文庫、右に単行本がぎっしりと並ぶ。本は著者名五十音順に並んでいるので、いきなり鮎川哲也や泡坂妻夫の少し古めの文庫が目に入る。奥に進むとカウンターの前に進むと、大量のポケミスが番号順に整然と並んでいた。タイミングが悪かったのか掘り出し物はこれといってなかったが。
店は広くはないが、棚が高いので品揃えは十分。ミステリのラインナップは海外作品より国内作品の方がやや強い印象を受けた。価格帯は並程度。

(追記)残念ながら2023年に閉店してしまったようだ。

@ワンダー

神保町駅のA1出口からすぐのところにある店。今回は1階の店舗しか見なかったが、2階にはカフェもあるようだ。
店内は想像以上に奥に長い。中に入って右手にはアメコミ売り場。筆者の関心のある分野からは外れるので評価はできないが、国内の店としてはなかなかの充実度ではなかろうか。
入り口から見てカウンターの右手には同人誌コーナーがあり、昔の別冊シャレードなどが並んでいた。当然ながらそれなりに値段は張るが、そもそも昔の同人誌が古書店の店頭に並んでいること自体が珍しいので興奮する。
隣の通路には大量の文庫があり、特に創元推理文庫のラインナップには目を見張るものがあった。古いものが中心で、最初期のカバーがない時代の本も少なくない。珍しいところではコール『百万長者の死』、クロフツ『フレンチ警視最初の事件』(松原正訳)、カー『血に飢えた悪鬼』などがあった。現在のパステルカラーの背表紙になってからの本は、マークによる分類があった時代の本の多さを踏まえると相対的に少ない印象。SFも多くあったが、詳しくないので品揃えの程度は分からない。
そのまた隣、入り口から見て一番右の通路には単行本とポケミス、ハヤカワ文庫が並ぶ。ヘアー『法の悲劇』、ギルバート『黒い死』などが目に付く。
店の広さもラインナップも大満足。ただし、珍しい本が多い上に立地がいいこともあり、値段設定は少々強気の本もあった。

崇文荘書店

靖国通りを東に進み、古書店街の端にある洋書専門店。試しに覗いてみたら予想外のヒットだった。
店に入ってすぐ左の階段を二階に上り、奥の部屋へ進む。店員の方が聞いているラジオ(もしくはYouTube?)の内容に少々面食らいながら棚を眺める。小説は多くないが、ミステリの棚にはLeo Bruce, Ngaio Marsh, Miles Burtonといった馴染みのある名前がちらほら。珍しいだけあって値段はかなり張るが、日本でこんな店があるのは東京だけだろう。

羊頭書房

神保町のミステリ専門店として名前がよく挙がる店といえば富士鷹屋、@ワンダー、そしてここ羊頭書房である。しかし、ネットで調べた範囲ではこの店の情報が一番少なかった。
この記事で取り上げている店の中では富士鷹屋に次いで狭かったが、前後二列に本が並ぶ棚が多いので品数は抜群。店に入って右側の通路には文庫から単行本まで数々の本が所狭しと並ぶ。最近では入手困難になりつつある晶文社や長崎出版などのクラシック系の単行本がかなり多いのが特徴的だ。文庫の棚には緑の背表紙のカーが並ぶ。ステーマンの『六死人』を購入。
左の通路はポケミスと洋書。ポケミスは専門店では珍しく番号順ではなく著者名五十音順に並んでいる。番号がうろ覚えの本があるとこちらの方が探しやすい。
驚くべきは洋書のラインナップ。クラシック系の作家の原書が雑然と並んでいる。クリスティやクロフツといった大御所に加え、クリスピン、ロード、ロラック、ケネディ、ウェイドといった中堅~マイナー作家の原書が次から次へと現れる。題名からはミステリと思われる作品の中には知らない作家名もあり、未訳作家に詳しい人はさらに楽しめることだろう。
価格も非常に良心的で、相場よりやや安めのものが多い。洋書についても初版への拘りがなければ千円台で買える本も多かった。最後に行った店がこの日一番の大当たりであった。

おわりに

神保町では他にも何店舗か訪れたが、ミステリがなかった店や何も買わなかった店については省略した。次回は中央線沿線の古書店を取り上げようと思う。