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特級過去グランプリインタビューVol.2| 片山柊さん(2017特級グランプリ)

こんにちは。ピティナ特級クラウドファンディング広報担当です。

特級グランプリと一口に言っても、過去のグランプリの面々を眺めると、実に個性豊かな音楽家たちが名を連ねています。グランプリ受賞時の演奏の個性もさながら、受賞後にどのような道のりを進んでいくかにも、それぞれの関心や目指すところにより多種多様な歩みを見せています。

コンペティションの期間は長く感じられても、彼らの音楽人生の中ではほんの一瞬の出来事です。その一瞬に精魂込めて臨んだことが、彼らのその後の人生にどう関わることができたのか。彼らがどのように音楽と、そして自分自身と向き合いながら挑戦を続けているのか。それを知り応援し続けることも、私たちの大切な使命だと感じています。

そんなグランプリの中で、受賞後に作曲家の道を志したのが、2023年特級の新曲課題曲の作曲家としても記憶に新しい、2017年度グランプリの片山柊さんです。

創作への憧れと、特級への挑戦と

―現在は、演奏活動、作曲活動の2つを軸に、そこへ大学での指導や出版、ジャンルを超えたアーティスト活動なども加わり、本当に幅広く活躍されていますね。作曲への関心というのは、いつ頃から持たれていたのですか?

もともとピアノ演奏から音楽を始めましたが、小さい頃から作曲には興味がありました。ピアノを学び、色々な作品や作曲家に出会っていくうちに、自分の考えとか自分の創作言語、音楽言語によって表現する作曲家や芸術家にすごく憧れを抱くようになりました。

進学のタイミングで作曲への転向も度々考えてはいたのですが、ピアノの方も順調ではあったので、もう少しピアノを頑張ってみたら、という勧めもあって、ピアノを学び続けていました。ピティナの特級グランプリというのも、その過程での出来事です。

2017年特級ファイナル

―特級に挑戦というのは、かなりの覚悟と気概がないと乗り越えられないものだと思いますが、なぜ特級を受けようと思われたのですか?

すごくカッコイイ理由ではないのですが(笑)。北海道から東京に一人で上京してきて、大学にも特待生といういい条件で受け入れてもらって、ちょこちょこコンクールなども受けてはいたのですが、1,2年のうちはレパートリーも少なく、なかなか結果も出せていませんでした。そういった環境の中で歯がゆい思いをしていて、何か結果を出したい、という気持ちがあったと思います。

そんな状況の中、恩師の武田真理先生から、私のような音楽性を持った人だったら、ピティナの特級が向いているのでは、と提案していただきました。選曲の幅があることが、私に合っているのではないかと。レパートリーも増えてきた頃だったし、武田先生の言葉と、自分自身で持っていた歯がゆさがうまく結びついて、特級への出場に至ったわけです。わりと現実的な人間ですね(笑)。でも、特級を受けた当時、そうした心境にいたことは、よく覚えています。

学生の特権で、好きなだけ時間を使えるので、その当時は本当に思う存分ピアノに集中できた時期でした。

特級グランプリ受賞時(2017)

グランプリ受賞と「音楽家としての自覚」の芽生え

―それが、7年前の2017年、20歳の時でしたね。ファイナルのラヴェルのコンチェルトは今も鮮烈に耳に残っています。今年はその時の東京フィルハーモニー交響楽団さんがまた特級のオーケストラを務めてくださいます。当時も、オーケストラのスコアをよく読むと話していらしたのを覚えていますが、作曲に関心があったからこその、あのコンチェルトだったのですね。グランプリ受賞後は演奏活動に忙しくなったと思いますが、どのような気持ちで臨まれていたのですか?

グランプリ受賞直後は、正直安心というか、結果が出てほっとした気持ちが強かったように思います。でも、全国を回って色々な支部の演奏会に行ったり、声をかけてくれる方が増えたりして、だんだん責任感も生まれてきました。ピティナの受賞の前は、演奏でお金をもらうということもなかったので、演奏をしてお金をいただく、そういう条件が加わったことで、受賞後1年は、「音楽家」としての自覚が芽生えていった時期だったと思います。

「自分の表現」を求めて

―その間、作曲の方とはどのように関わられていたのですか?

ピアノを専攻している時から作曲は試みてはいました。でもアイディアの段階で頓挫したり、なかなか形にならないものが多く、こちらも歯がゆい思いをしていました。演奏の方の学びをずっとメインで続けていましたが、大学院を修了するタイミングで、ひとつ区切りのような感じがして。そこで改めて「自分の表現」を考え直した時に、ずっと先延ばしにしていた「作曲」をちゃんと専攻してみたいという想いがこみ上げてきました。ピアノだけに限らず色々な音楽の「創作の言語・テクニック」を身に着けたいと思い、作曲専攻として勉強を始めました。

今年4月、初出勤した時に撮影

24歳までピアノを専攻してきて、色々な作品との出会いやアンサンブルの経験を積むにつれ、演奏と作曲は背中合わせながらも密接に繋がっているものと実感し、それらが高度な次元で交わりあう学びや表現がしたいと新たな指針を持ちました。そういった感覚を養えたことは、高校生の時点で作曲に転向するよりも、ピアノを学び続け、ピティナに出て色々な勉強の機会をいただいた後に作曲に行ったからこそで、自分の音楽にとってすごくいい決断だったと思っています。作曲の課程は今年の3月に卒業し、現在は桐朋学園大学の作曲科講師として授業を行っています。

今年6月 桐朋の作曲作品展で後輩の降籏奈月さん(中央)の作品を演奏し、私と降籏さんの師事した加藤真一郎先生と3人での写真

―2022年には奏楽堂日本歌曲コンクールで1位を受賞されましたね。

もともと日本語の歌曲に関してはシンパシーを感じるものがありました。小さい頃から金子みすゞの詩集を読んでいたりと馴染みも深く、歌曲で挑戦しました。ドビュッシーもフォーレもそうですが、作曲家はわりと初期に歌曲を書くことが多いですね。それを踏襲しているわけではないのですが。

今年5月、日本の合唱における大きな音楽祭「Tokyo Cantat」で神山奈々さんの作品を初演

新曲課題曲は特級挑戦者へのエール

―2023年には作曲家としても委嘱されましたね。ピティナ特級セミファイナルの新曲課題曲として委嘱された作品は「内なる眼 -ピアノのための- Innervisions for Piano」というタイトルですが、特級の挑戦者へのエールが込められているように思いました。

私にとって初めての委嘱作品でしたが、自分が同じ「特級」という場所を経験しているということは、セミファイナルの新曲課題曲を作曲させていただくにあたって、非常に大きな特徴と意義を持っていると感じて臨みました。

去年のインタビューでもお話しましたが、作曲する上で主に3つの観点を持っていました。当時自分が参加した時に抱いていた、何か月にも及ぶ緊張感、忍耐、張り詰めた雰囲気を音楽に落とし込めないか、というのがアイディアの一つ。音楽の内容的には、異なる視点を持つ7人の初演ピアニストそれぞれの魅力が、どこか一つでも存分に表れるような音楽にしたい、というのが一つ。そして、同時代の作品に触れる機会が多い人というのはなかなかいないと思ったので、20世紀以降の音楽で出てきたピアノのテクニック、楽譜の書かれ方、そういうものに触れるきっかけになって欲しい。そうした複数のアイディアがめぐって作曲しました。

なかなかこういう曲は再演される機会がないのでもったいないな、というのは作曲家全員が思うところなので、ぜひ今後とも弾いてもらいたいなと思っています。特にヨーロッパなどで演奏する時に、自分の生まれた国の作品をプログラムに入れて欲しいと頼まれることも多いと思うので、その出会いのきっかけになれたらと思っています。

今年3月に学内で自作のオーケストラ作品を初演時の解説

誰にでも新曲の創作との出会いの機会を

―今年の特級クラウドファンディングでは、片山さんによる作曲作品のプレゼント、それも、あなただけの、という特別なリターンにご協力いただけるということで、そうした新曲創作との出会いが、誰にでも扉が開かれることになりました。

アレンジでも、オリジナル作品でも、プレゼントさせていただきたいと思います。色々なジャンルの方とコラボレーションしてクリエイトすることもよくありますが、抽象的なイメージから音楽を作るという作業は、とても楽しいものです。でもなかなかそういうことって、出会いやご縁がないとやる機会がないことだと思うので、ピティナでこうして支援してくださる方の体験として、提供できたらなと思いました。

オリジナルの場合、「朝」でも何でも自由にテーマを決めていただいて、可能ならば「朝起きて、散歩して、何かに出会って…」のように、なるべく具体的にストーリーを決めてもらってもいいと思います。打合せをしながらもできますので、気軽に応募していただけたら。お子さんでも、メロディをちょっと書けるようであれば、そこから私がイメージに沿って色々と仕上げることもできると思います。一人で頼むのではなく、お教室で、子どもたちみんなで意見を出し合ってストーリーを考えてもいいですし、一緒に相談しあって、何か一つの「共作」の作品を創っていけたら、おもしろいなと楽しみにしています。

特級から7年、これからの目標

―特級から7年。今、自分の夢に近づいている、と感じていますか?

そうですね。ピアノ一直線の人に比べたら、色々と寄り道だとか、脇道を行っているかもしれませんね。同世代の活躍を見たりして、ちょっとこう、落ち込むこともありますが…(笑)。でも、私には私なりの進み方があって、それは正しいと思っているので、7年経った今でも、振り返ってみると、本当に一歩ずつですが、自分のなりたい姿に少しずつ近づいている、というのが、自分の心境です。

鉄製の打楽器・波紋音(はもん)の第一人者である永田砂知子さんとの即興パフォーマンス

表現の可能性を探る、というのにすごく興味があって、近年ダンスとのコラボレーションをした時には、目に見えない音の存在が視覚と結びついていく瞬間がすごく楽しかったです。今後も様々な分野のアーティストとのコラボレーションを通じて表現の可能性を探っていけたらと思っています。

ダンス公演:笠井叡×平山素子「フーガの技法」に演奏で参加(2023年6月)

これからも、創作と演奏という2つの軸を持って、それをもっとブラッシュアップして、さらに色々な人の所へ届けていきたい、というのが目標です。

特級挑戦者たちへの応援メッセージ

―やりたいことがどんどん湧き出てきて、楽しみですね。最後に、今頑張っている特級の挑戦者たちに、応援のメッセージをお願いします。

コンクール期間に限ったことではありませんが、よく寝て、よく食べて、よく練習することがいい音楽につながると思います。健康第一で頑張ってください!

アーティストリターン:作曲家・片山柊さんによる特別アレンジをプレゼントコース


参考記事:
2023 ピティナnoteより
♪「セミファイナル直後!片山柊さんインタビュー
「セミファイナルで演奏する「邦人新曲課題」と作曲者の片山柊さんを紹介します♪」

2023 特級クラウドファンディング記事より
「循環のカタチ Vol.3 片山柊さん -「作曲家」の立場から-」


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