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2つの歩行システム

前回の記事で、人間の3つの脳システムついてざっくりとご紹介しました。

今回はその中でも「2つの歩行システム」にスポットを当て、脳卒中リハに応用できる内容をざっくりとわかりやすくご紹介していきたいと思います。

自動的に歩くシステム

ほとんどの人は歩きながら何か別のことをしています。

お目当ての店を探したり、待ちゆく人の人間観察をしたり、ながらスマホしたり(絶対ダメ)など、とにかく他の事をしながら歩いています。

しかし、「次に右足を踵から地面について、左足では地面を蹴ろう」
なんて考えながら歩く人はいないと思います。

これを可能にしているのが、「自動的に歩く神経システム」です。

このシステムは脳幹から脊髄にあるもので、中脳・橋・脊髄などが主にかかわっています。

中脳 - 歩行誘発野・筋緊張促通
橋  - 筋緊張抑制
脊髄 - CPG(Central Pattern Generator)

以上のような役割分担がされており、
中脳には、文字通り歩行を誘発する「歩行誘発野」があり、筋緊張を促通したりしながら「歩行リズムの生成」を行っています。

橋には、筋緊張を抑制する役割があり、先程の中脳の働きと共同して「歩行リズムの生成」に関わっています。

脊髄には、CPG(Central Pattern Generator)と言われる脊髄介在ニューロン群があり、歩行の基本的リズムと歩行に関わる筋群の活動パターンを決定する役割があります。

模式図にすると以下のようになり、歩行して得られた感覚情報をフィードバックして歩行リズム・スピードを調整しています。

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こうした自動的に歩くシステムがあることによって、人間は想い悩みながら歩き続ける事ができるのです。

意識的に歩くシステム

一方で、「人間には意識的に歩くシステム」も存在します。どこか目的地に向かって歩き出したり、他人にぶつからないように歩く場合は「自動的に歩く神経システム」では対応できません。

この場合は、脳幹よりも上位の大脳皮質や大脳辺縁系などが基底核を介して歩行を行っています。

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大脳皮質 - 正確な制御を必要とする随意的なプロセス
大脳辺縁系・視床下部 - 回避・逃走などの情緒的なプロセス

特に正確な動きが求められるような、例えば滑りやすい床で慎重に歩く場面では、大脳皮質からの指令で歩くことになります。

また、身の危険が迫った時にとっさに行う回避行動、例えば急に飛び出してきた人を避けるといった場面では、大脳辺縁系や視床下部からの指令で行動(歩行)することになります。

歩行リハビリに必要な視点

前回の記事でも軽く触れていますが、脳卒中患者の歩行障害は、脳幹よりも中枢の大脳半球から基底核周辺の病変で引き起こされることが多いです。
割合でいうと80%弱が脳幹より中枢の病変になります。

つまり「自動的に歩く歩行システム」は生きていることになります。

脳卒中リハビリでは「残存している脳のシステムに働きかける」といったことをよく耳にすると思います。それを踏まえると、「自動的に歩くシステム」のトリガーにアプローチすることは理にかなっています。

そのトリガーのひとつがCPGといわれており、アプローチのポイントは、以下の3点が重要とされています。

① 上肢の後方への振り(back swing)
② ターミナル・スタンスでの股関節伸展
③ ターミナル・スタンスでの下腿三頭筋への伸張刺激

上肢の後方への振りはともかく、②③の麻痺側下肢でのターミナル・スタンスをしっかり作ることが脳卒中歩行リハビリの第一歩となります。

「じゃあ、足を持ち上げて膝を伸ばして歩きましょう!」という練習を繰り返しても、患者さんの歩行は良くなりません。
こういった歩行の神経システムを理解した上でアプローチをしていく事がとても重要になります。

次回の記事では、CPGに働きかけるリハビリの具体的な方法を紹介したいと思います。


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