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心理学者人物列伝その6 カール・グスタフ・ユング

C.G.ユング

カール・グスタフ・ユングってどんな人?出身やその生涯は?豆知識やエピソードを簡単に解説!


不思議な心の世界を探検した男 - カール・グスタフ・ユング


今回は「集合的無意識」や「外向・内向」といった、心理学史における重要な概念を提唱したカール・グスタフ・ユング(以下ユング)について紹介します。彼の理論的内容については、別の機会にお話しするとして、ユングの生涯は、まさに「心をめぐる旅」のような人生でした。

秘密の遊びから生まれた大理論

1875年、スイスの小さな村で生まれたカール・グスタフ・ユング。この少年には、誰にも言えない特別な遊びがありました。それは、筆箱の中に小さな人形を隠し、時々取り出して話したり、石を上下に塗り分けて屋根裏に隠したりという遊び。ときには、不思議なメッセージを書いた紙を持ってきて、その石の前で儀式めいたことをしたこともあったとか。

側から見たら、なんとも奇妙なこの遊び。周りの人にはきっと理解されないかもしれないと思ったユングでしたが、この秘密の遊びこそ、後のユングにとって研究の原点となるものでした。そして時を経て大人になったユングは、幼少期に自分がしていた「遊び」が、世界中の民族にも見られることを知り、とても驚きます。

例えば:
1. オーストラリアの先住民が使う神聖な石
2. アフリカの部族が行う成人儀式
3. 南米の先住民が作る「マンダラ」のような模様

これらは、子供の頃のユングの遊びとよく似ていたものでした。
この発見から、ユングは人類には共通の無意識があるのではないかと考えるようになり、やがて「集合的無意識」という理論につながります。

精神医学への道:内なる声に従って

大学に入ったユングは、最初は牧師になろうと考えていました。それは、家族の中に聖職者が多かったことが影響しています。しかし、哲学を学ぶうちに考えが変わり始めたユングは、やがて精神医学の道に進むことに。というのも、この決断には、ある不思議な体験が関係していました。

これについてユングは後年、こんな話を残しています、
「ある日、図書館で精神医学の教科書を手に取ったときのこと。その瞬間、心の中で『これだ!』という声が聞こえたのです。それはまるで運命の導きのような声でした」。

この経験から、卒業後はチューリッヒの精神病院で働き始めたユング。そこでユングは、患者たちの心の奥底にある不思議な世界に魅了されていきます。

例えば、ある患者が太陽を見つめながら奇妙な動きをしていたときのこと。ユングがその意味を尋ねると、患者は「太陽の後ろにある秘密の器官が世界を動かしているんだ」と答えたとのこと。こうした体験から、ユングは患者の妄想や幻覚の中に何か意味があるのではないかと考えるようになります。しかし、これは当時の主流な考え方とは大きく異なるものでもありました。

フロイトとの出会いと別れ:二人の巨人の物語

そんな中で出会ったのが、精神分析の創始者として有名なジークムント・フロイトでした。1907年、ウィーンでの初対面の際、二人は13時間にも及ぶ熱い議論を交わしたのは有名な話です。まるで久しぶりに再会した親友のように、お互いの考えを熱心に語り合ったのです。

フロイトは、ユングを自分の後継者として期待していました。若くて才能豊かなユングに、自分の理論を広めてほしいと考えたのです。その後、1909年には一緒にアメリカに渡り、クラーク大学で講演するなど、精力的に活動します。

しかし、時が経つにつれて二人の考え方の違いが明らかに・・・。「無意識」の捉え方やリビドーの概念、宗教観の違いが鮮明になると、次第に二人の間には大きな溝が生まれ始めます。そして1913年、ついに二人は決別。この別れはユングにとって辛いものでしたが、自分の道を見つける重要な転機でもありました。

第3回国際精神分析国際会議(1911年)の集合写真、中央にフロイトとユングが並ぶ

世界を旅する心理学者:文化を超えた心の探求

フロイトと袂(たもと)を分かったユング。その後、彼は精力的に世界中を旅してまわります。イギリス、アメリカ、アフリカ、インドなど、さまざまな国を訪れ、そこで出会った人々や文化から多くのことを学び、ユング独自の視点を見出していきます。

1920年代のイギリスでは、タヴィストック・クリニックで講義し、多くの心理学者たちに影響を与えました。ここでの講義は後に『分析心理学』という本にまとめられ、ユングの理論を広める重要な役割を果たしています。

さらに、1909年と1924-25年、そして1936-37年にアメリカを訪問。1936年にはハーバード大学で名誉学位を授与され、翌年にはイェール大学で「心理学と宗教」と題する講演を行いました。この講演は後に同名の本として出版され、現在もユングの宗教観を知る上で重要な資料となっています。

ユングの旅においてとりわけ印象的だったのは、1925年のアフリカ訪問で、ケニアとウガンダの部族の生活を観察していた時のことだったそうです。ある日、部族の儀式に参加する機会を得たユング。朝日に向かって踊る彼らの姿を見て、ユングはそれまでに経験したことのない深い感銘を受けたそうです。そしてこの体験から、太陽崇拝が人類共通の無意識的要素であるという考えを強めました。日本でも、天照大神を太陽神として崇拝する信仰がありますよね。

その後、1938年にはインドを訪れ、ヨガや瞑想の実践に触れています。カルカッタ大学での講演では、東洋の精神性と西洋の心理学を結びつける試みを行いました。この旅行は、ユングの東洋思想への理解を深め、後の著作『東洋的瞑想の心理学』につながります。

これらの旅を通じて、ユングは人類に共通する心の構造があると確信するようになり、それこそが、ユングの革新である「集合的無意識」という概念へと集約されて行くのです。

マンダラをみるユング

ユングが残したもの:現代に生きる心の地図

その後、独自の研究を続けたユングは、1961年に86歳で亡くなりました。しかし、彼の考え方は今でも多くの人に影響を与え続けています。ユングの理論は、心理学だけでなく、文学、芸術、宗教学など、さまざまな分野に影響を与えており、例えば、小説家のヘルマン・ヘッセは『デミアン』や『シッダールタ』などの作品でユングの概念を取り入れています。

また、映画監督のフェデリコ・フェリーニは、ユングの理論に強く影響を受け、その作品に無意識の世界を描き出しました。

ユングの豆知識やエピソードについて

ここまでユングの生涯について簡単に紹介しました。ここからは、ユングにまつわる豆知識・エピソードを3つ簡単に紹介します。大学者ユングも、一人の人間として葛藤し、ときに狂気に見舞われるような経験もしたようです。

ユングの豆知識・エピソードその①、石の塔をみずから建てる

外向的・内向的という言葉は、誰しも一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。しかし、この心理的類型(タイプのこと)を作ったのが、ユングであることを知る人は少ないかもしれません。そして、博覧強記として知られ、好奇心旺盛だったユングが「一人きりになれる場所」を欲していたと聞いたらどうでしょうか。

実際、ユングは物思いに耽ることがしばしばで、より深く自分と向き合うために、自分で石の塔を建てることを決意します。「そんなの職人に頼めばよいのでは?」と思いますよね。ところがユングは「自分の居場所は自分で作るもの」という考えを持っていたようで、みずからの手で塔の建築に着手します。自分の道は自分で決める、というユングの性格がよくわかるエピソードです。

ちなみに、このときユングは50歳手前。当時を考えるとすでに老人とも言える年齢でした。

ユングが建てた「石の塔」(ボーリンゲン・タワー)

ユングの豆知識・エピソードその②、フロイトとの別れ、精神的危機を迎える

出会ったその日に意気投合し、13時間もの議論を交わしたフロイトとユング。以前からフロイトの『夢判断』に強い影響を受けていたユングは、やがて師弟関係となり、ともに精神分析を追求し始めます。そして、ヒステリー患者の治療や無意識の研究に没頭し、ゆくゆくはフロイトの後継者として周囲から期待を集めたのでした。

ところが、精神分析以外にも神話や考古学、歴史学に関心があったユングは、次第に独自の路線を歩むことに・・・。やがてフロイトと理論的な違いを見出し、二人の距離は徐々に離れていくことになります。
フロイトと決別した後、すべての職を辞したユングは、本人が言うところの「方向喪失の状態」に陥り、北ヨーロッパ全体が血の海に覆われる幻覚を見るといった、精神病になる寸前まで追い込まれたそうです。

ユングの豆知識・エピソードその③、オカルティズムの研究から人間の心の真相を探る

さまざまな学問を研究するなかで、人類に共通の「集合的無意識」という見解にたどり着いたユング。その研究分野は幅広く、錬金術や占星術、中国の占い「易」や「UFO」といったジャンルにまで及びます。そのため「ユング=オカルト」と見なされてしまうケースもあるようです。事実、ユングのオカルティズム研究に対してフロイトも警鐘を鳴らしており、研究を止めるよう促していたのだとか。

ユング著「錬金術と無意識の心理学」で紹介される象徴的動物

ユングの解説まとめ

ユングの生涯やエピソードを紹介しました。ユングの研究対象は興味深いものが多く、どこを切り取っても興味が尽きません。しかし「集合的無意識」や心理類型についてはしっかりと押さえておきたいところです。

ユングに関する心理学的アプローチについては『心理学【カレッジ版】にわかりやすく掲載されていますので、ぜひこちらを参考に勉強してみてください!

ジークムント・フロイトについてはコチラを参考にしてください


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