見出し画像

韓国における「言論の自由」と愛すべき国民性:映画『タクシー運転手~約束は海を越えて~』レビュー

1980年に実際に起きた『光州事件』を扱った映画。ドイツ人記者およびタクシー運転手は実在の人物をモデルにしている。

※映画冒頭のテロップを元に独自に編集

1980年、韓国。
独裁者として君臨していた朴正煕(パクチョンヒ)が暗殺され、民主的な政治が始まると期待した国民だったが、軍が権力を掌握。多発する大学生のデモを禁止するため、軍は厳戒令を敷いた。民主化運動の主導者、金大中(キムデジュン)も拘束されてしまった。

ソウルに住むあるタクシー運転手は、かくかくしかじかにより、事件の取材に向かおうとするドイツ人記者ユルゲンを乗せ、一路光州を目指す。

※曖昧に表現していますが、ネタバレが気になる方は映画を観てからご覧になることをおすすめします。

恥ずかしながら『光州事件』のことを何も知らなかった。「この映画を創ってくれてありがとう」って気持ちでいっぱい。
ただ史実を重苦しく押し付けてくるのではなく、心に響くストーリーでスーッと観る者を引き込んでいく、素晴らしい映画だった。

「事件のことを世界に知らせてくれ」と、自らの命をかけて主人公とドイツ人記者に運命を託した、名もなき市民たち、学生たち、タクシー運転手たち。涙なしには観られなかった。

*****

ソン・ガンホ氏扮するタクシー運転手は、金目当てにしか動かない、自分のことしか考えない、どうしようもないダメ親父だったのだが

民主主義のために命をかけて闘う光州の人々を見て、また彼らの人を想う温もりに触れ、だんだん顔つきや言動が変わってゆく。
彼はその辺もしっかり演じきっていて、さすが!と思った(そうだ、『パラサイト』にも出てたぁ~)。

それにしても、光州の人たちの懐の広さよ!なんて尊いんだ…。
象徴的なシーンが、見ず知らずの人間におにぎりあげるところとか、お家におかず何もないのに精一杯お客をもてなそうとするところとか、タクシー運転手にはオーダー関係なくガソリン満タンにしたる (笑) ところとか。
最近めっきり感じることが少なくなってしまった、人間くさい、あったかいモノがそこにはあった。

今もまだ、光州はこんな感じなのだろうか?
韓国人は、ずっと貧しく苦しい歴史を歩んできたから「同士を助けよう」という意思が強い、と聞いたことがある。

それが、他の地域の人でも、外国人でも、一度息が合えば、その【輪】の中に入れてくれるんだよなあ。それが韓国の人の魅力の一つではないかって、勝手に思っている。

ところで韓国では、色々な職業や立場の人に、尊敬の意味を込めて「様」をつけて呼ぶ。「先生様」「社長様」「兄様」…。

劇中で運転手のこと「기사님(キサニム)」って呼んでて、それを思い出した。
もともと「様」つけて呼ぶんだけど、光州の運転手たちが、混乱の中率先して負傷者を運んでいたから、それもあってますます「運転手様」って呼んだんだろうなぁ。

*****

そういえば韓国人の知人が、「小さい頃は日本の漫画が公に輸入されていなくて、どこかでこっそり見た」って言っていた。
この事件の後も、しばらくは国に入ってくる情報がコントロールされていたってことなんだな、と改めて気づいた。

自分が見聞きした点と点がつながって、やがて線になっていく感じが面白い。これだから歴史の勉強はやめられない!

今の日本は、当たり前のように「言論の自由」とやらが認められているけど、政府やメディアが言っていることが、決して本当のこととは限らない。実は裏では、全てがある人物や組織に操られているとしたら…すっごく嫌だなぁ。

で、今はミャンマーでこれと似たようなことが起きている。歴史は繰り返すって言うけど…。どうしたらいいんだろう。

タイトル画像は pixabay Nolde 氏の作品をお借りしました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?