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PSGOZのボカロTips 第1回

2020年1月現在、ヤマハ社のVOCALOIDはVer.5まで進んだが、それまでのVer.2 ~ 4までと比べて UI の大幅な変更と機能追加があったものの、基本的な動作にはあまり変更が無かったとみている。Twitterに2015年から投稿したVOCALOIDエディットに関するTipsは、引き続きVOCALOIDを使い続ける誰かの役に立つだろうと思い、加筆修正して note に残していくことにした。

この第1回では主にVOCALOIDの基礎中の基礎であるノート(音符)の仕組みと打ち込む"型"、そして子音の長さを伸縮するパラメーター VEL(ベロシティ)の解説をする。
前提としてヤマハ社のVOCALOID Editorやクリプトン社のPiaprostudioのインストールや基本操作までは既にできることを想定して解説を進めていく。

尚、当Tipsについては基本的にCrypton Future Media社の初音ミクV4XとPiaprostudio(Mac版)を用いて説明していく。


■ ボカロ初心者から抜け出そう

各解説に移る前に、ボカロの打ち込みが上達しない根本的な原因と私が考えている下記2つを紹介したい。

1:各パラメーターが何にどう影響するのか知らずに闇雲に動かしている
2:発声のどこがボカロエンジン由来で、どこが歌声ライブラリ由来なのかを切り分けできない

まずは 1 の各パラメーターを動かしたときに声がどう変わるのかをつかんでほしい。2はその後で構わない。

ボカロのパラメーターを操作するとき、例えば音価(音の長さ・時間)に関わるVEL(ベロシティ)のようなパラメーターなら

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上記3つの数字の変換が必要になる。しかしVOCALOIDエディターやPiaprostudio上には実時間の表示は一切で無いのでユーザーが手探りでボカロを操作しているのが現状だ。DAW側に音声を取り込んで初めて実時間での音声が可視化されるのだが......事前にパラメーターと実時間の関係を学び、[ノートの長さとBPM]→[実時間]に関しては、下記のようなディレイタイム計算サイトでもとめる癖を付けて欲しい。

また PIT や Vibrato Depth といったピッチ(音高)に関わるものであれば

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といった数字の変換ができると良いだろう。

それぞれ数値の関係を厳密に覚える必要はないが、例えばBPMを変更してもVELで設定した子音の実時間の長さは変わらないことや、変化の非線形的なパラメーターがある、といった知識が重要になってくる。これらについては、各パラメーター項目で説明してみようと思う。


■ 基本! ノートの置き方を覚えよう

VOCALOIDのノート(音符)の秘密を解説しよう。思い通りにボカロのピッチを操作する為にも、この秘密は知っておいて損はない。
あるノートの前後(ピッチ影響範囲)に他のノートがある場合
・ノートONより約70msec後ろ(※注)
・ノートOFFから約200msec手前
ピッチの動きの"転心"(Pivot)になる。
※注意:ベンドの長さ:0%、上・下行形でポルタメントを付加:OFFの場合
ノートの両端(ON/OFFのタイミング)ではない。 下図は3つのノート(明るい灰色の長方形)が置いてある図で、見えにくいだろうが細い緑のラインがピッチの動きを示している。

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この事を知らずにノートの両端がピッチの"転心"になると考えてしまうと厄介だ。"転心"の位置は実時間で設定されているので、BPMの変更によって伸縮せず、思いどおりにピッチが動いてくれない、といった「もどかしさ」の原因になると考えられる。

また、下図の下段のようにノートを短くしていくと、前後の"転心"同士がぶつかる距離を超えて、どんどん手前に"転心"の位置が押されていき、最終的にはノートオンよりも手前に"転心"が位置するようになる。

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 ・基本形

上記のしくみを踏まえて、次は基本的なノートの置き方について解説する。VOCALOIDでは図のように、ひとつの音の始点と終点にそれぞれノートを配置しよう。

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例.「あさ」と打ちたければ、[a][a]   [s a] [a] と打ち込もう。

こうすることで(1)ピッチを一定にしたい箇所ではボカロエディターが勝手に語尾のピッチを下げたり近接しているノートの方向にピッチを引き寄せることをキャンセルし、(2)ピッチが上下する箇所はポルタメント(ピッチの遷移)の開始位置とポルタメントにかかる時間を短縮することが可能になる。尚、PORだけの操作ではポルタメントにかかる時間を短縮できない。複数の母音ノートを近接させるテクニックを駆使して作曲家が思い描いたとおりのピッチを実現しよう。

(1)同じ高さで母音同士を近接させると、その間のピッチが直線になる。

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(2)短いノートを設置してポルタメントタイム(ポルタメントにかかる時間)を短縮する

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 ・なめらかに音が繋がらない場合の対処

各ノートのアクセント値が50%になっているか確認してみよう。下図はアクセント値を変更して母音を連結させたときの音量の状態。大きくても小さくてもガタツキが目立つようになってしまうようだ。

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アクセントの値を変更する場合は、Piaprostudioであれば、ノートの設定>歌唱スタイル>音量>アクセント VOCALOIDエディターであれば、表情コントロールプロパティ>ダイナミクスコントロール>アクセント で変更ができる。

 ・発展形 

次は基本の型を発展させ、しゃくり(狙った音高よりも低いところから発音し始めること)を再現したノートの置き方を紹介する。

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最後のノートは、状況によって使い分ける。ここは音楽的(リズムやアーティキュレーション)にも肉声っぽさにも影響するポイントだ。

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長音:「ー」のこと 

無声化母音:[母音_0](アンダーバー・ゼロ)を音素記号に書き込むと、息成分だけの母音が作れる(メーカー非推奨の裏技)

その他:[p\](←mac win→[p¥]),[h]などの無声音を追加する他、[w]や[j]、「ん」などを追加し、次の発音の準備(発音のサポート)をするといったことも。

 ・ノートの置き方で変わる声質の話

母音同士を近接させた時に、ボカロの癖が出てくるので注意。母音を連ねた時にサンプルを読み込み直すらしいのだが、どういうわけか音量が大幅に変化してしまう事が多々ある。たとえば......

[a] [a] と並んでいたら2番目の[a]の音量が変化
[a] [a] [a]と並んでいたら2番目・3番目の音量が変化

後ろのノートが長音[-]だとサンプルの読み直しが無いため、目立った音量変化を起こさない。

[a] [-] これだと [a] [-]←この部分は音量が保たれてる。またこの時に音質もかなり違う。下図は左が[a]の連続で、中が[a] [-]。図中で明るくなっている部分はパワフルな周波数帯を表していて、左([a]の連続)は明瞭感が高い事が見て取れる。

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ボカロエディットをしていると、よく[-]で音を伸ばすか母音を重ねるか迷う。尚、音質変化は息成分の多い歌声ライブラリ、ミクDark等は変化が目立ちやすく、ミクSolid等の明瞭感が強いライブラリは変化が目立ちにくい。

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初音ミクV3 Original の各母音を重ねた時とそうでないときの音量比較。
C2~B5(音高)まで半音ずつ並べてみるとこうなる。母音の種類によっても大きくなる範囲と変わらない範囲とがある。この辺りもボカロの神秘性を高めている原因といえる。

ここで注意したいのが、同母音を連結すると、音量が「必ずしも大きくならない」ということ。これはおそらくボカロの歌声ライブラリ毎に変化の様子が違うと思われる。

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「あ」は連結するとものすごく音量が大きくなる。音色もハリが出てくる。
「お」は音高によっては音が小さく弱くなる。歌声ライブラリ毎にも違いがあるので、再度下の図も参照してほしい。

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■ パラメーター VEL(ベロシティ)を理解しよう

PIT(ピッチ)やDYN(ダイナミクス)よりも大事なのはVEL(ベロシティ)。VELくらい誤解の多いパラメーターは無いといっても過言ではない。VELは「子音の強調」を音量の増減ではなく、子音部分の長さの伸縮によって実現しようとするパラメーターなのだが、Piaprostudio 2.0.4のマニュアル 29p,63pの解説を例に上げると

値を上げる→子音が短くなる→アタック感が強調
値を下げる→子音が長くなる→アタック感が無くなる

といった抽象的な(しかも間違った)表現がされている。これは混乱する。「アタック感」の意味不明さもさることながら、手前に別の音があった場合のことが想定されていない説明ばかり。VELは0 ~ 127 間の挙動、前にあるノートの母音の押しのけられ方、これらを理解しコントロールできることは極めて重要。

下図は[a] [t a]とノートを置いたときの[t a]のVELを操作したもの。

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図のポイントは
・直前の[a]のうしろ側から侵食していく
・VEL値は指数的に「空間とか子音の長さ」が増減
・もちろんBPMの影響は受けない(下図)

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初音ミクV3でVEL=0 に設定し、C0 ~ B5まで半音ずつ[a] [s a] を書き出して比較した図
・VELはノートの音高に影響されない

初音ミクV4X Original の子音を並べ、VEL=64 のときと VEL=0 にした時を
すべてを網羅したわけではないが、比較してみた。

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このように、概ね調音法別に子音の幅が異なってみえる。
おそらく子音毎に細かく調整が為されているのだろう。
(歌声のデータベース毎に異なるかもしれないが未検証)

 ・VELを操作する上で持つべきイメージ

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・ノートON直前の「子音の長さ」を伸縮
・「子音の長さ」分、直前の母音を喰う
・値 70 → 127 徐々に変化量は小さく(鈍感)
・値 60 →    0    徐々に変化量が増大(敏感)

更に、VELが司る「無音の長さ」と「子音の長さ」はBPMに同期しないので、mSec→拍の長さ を変換して考える必要がある。

 ・VELを完全に理解できる動画を作った!

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上の部分がノート(音符)
下が波形で、縦の白線がノートオンの位置

子音はノートオンより手前(左)側に書き出され、数値が低くなるほど直前のノートの母音を削っていく様子が見えるよ。それと数値が高いほど動く幅が小さくなっていく。

直前の[a](ノート始点)が[t a]に近寄っていったらどうなるか。VELは子音長が最大となる0に設定したまま、直前母音の始点位置を近づけていく。するとこうなる。

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ノート分割の手法を使った時に、VELで確保される空間と直前のノートONの位置を意識して使おう。
これを応用して、ベロシティの数値を弄るのではなく、"短いノートを配置"することで「無音部分+子音」の長さを制御することができる。
[k a] [s a] と打った時、[s a]の VEL:0で設定してある。

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(1)(2)[k a]のノートの長さを変えた場合の比較。[s a]の子音の長さに変化はない。
(3)(4)[k a]と[s a]の間に短い[a]をはさみ、その位置を調節することで[s]の子音の長さを調節する事が可能になる。
尚、[k a] [a] [s a]とした場合、母音連結の影響で音量が変化するので、避けたい場合は長音[-]を使おう。


■ コラム:ボカロの歌が気持ち悪い最大の要因

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