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AIのための読書リスト 4

自分が実際に読んだ本の中から、AIとの付き合い方のヒントになりそうな7冊を紹介する。今回は非人間との関係について考えたい。


01. 生物から見た世界

生物から見た世界
ユクスキュル, クリサート
2005.06.16 (原著 1934)

「環世界」という概念を広めた一冊。生物たちが独自の知覚と行動でつくりだす環世界の多様さは、人間特有の五感による世界認識を相対化してくれる。

犬は人間の部屋をどう感じるのだろうか。飼い主の匂いのするソファはお気に入りかもしれないが、視覚情報には興味がないかもしれない。ダニには視覚や聴覚はなく、体温と触覚と酪酸の匂いの3つの知覚しかもたない。それぞれ特有の感覚器官で得た知覚が行動に影響を与える。人間とは全く異なる世界が、彼らの中には広がっている。

ロボットやAIはどのような世界を見ているのだろうか。ロボットはさまざまなセンサーから外界情報を取得する。距離判定や赤外線、高周波など人間とは全く異なる世界把握が行われている。AIは、数値やベクトルで情報を学習し、広大なベクトル空間でさまざまな概念を処理する。AIと上手に付き合うには、AIを安易に人格化するのではなく、知覚の根本的な違いを理解する必要があると感じる一冊。


02. デジタルネイチャー

デジタルネイチャー 生態系を為す汎神化した計算機による侘と寂
落合 陽一
2018.06.15

十分に発達した計算機群は、自然と見分けがつかない―― 落合陽一はテクノロジーによる新しい自然を提示する。人間社会の仕組みを根本的に作り変えようとしている現在のテクノロジーは、より自然なふるまいを見せるようになるだろう。

本書では、さまざまな概念を横断して人間とテクノロジーの未来が語られる。東洋思想に見られるユビキタスな精神、オープンソースが可能にする新しい資本主義、ダイバーシティに最適化された社会の意思決定、様々な二項対立の融解、解体される人間の身体と概念。

新たに出現してきた生成系AIは、どのように自然へと向かっていくのだろうか。既存のあらゆる概念を解体され再構築される未来の可能性を、テクノロジー、人文知、メディアアートの視点から紐解く。


03. 伴侶種宣言

伴侶種宣言: 犬と人の「重要な他者性」
ダナ・ハラウェイ
2013.11.22 (原著 2003)

『サイボーグ宣言』で有名なハラウェイによる他者論。種族も性も、生命/非生命も越えて寄り添う伴侶種たちの新しい理論を探る。

人間と動物が寄り添うとき、多くの場合そこには支配関係が生じてしまう。ハラウェイは犬をペットではなく伴侶として寄り添う。そこでは新しい関係が築かれ、進化や愛の物語へとなっていく。

サイボーグフェミニズム、堆肥体(humus)、コンポスト(com-post)、クトゥルー新世(cthulhucene)、思弁的寓話小説(sf=speculative fabulation) など、現状を解体する様々な概念を打ち出してきたハラウェイから学ぶことは多い。


04. モア・ザン・ヒューマン

モア・ザン・ヒューマン マルチスピーシーズ人類学と環境人文学
奥野 克巳, 近藤 祉秋, ナターシャ ファイン
2021.09.18

多種間の関係を記述してきたマルチスピーシーズ民族誌と、人間と人間を取り巻く環境との関係に注視してきた環境人文学が交差する「人間以上」の人文知は、いかに可能か。

本書は国内外の研究者・アーティストによる9つのインタビューで構成される。人間と動物の関係について迫る第一部、人間を超えた人類学の未来を見る第二部、そして文学・哲学へと向かう第三部。工業型畜産における動物の疎外や、森の思考を聞き取るためのアート実践、大地と繋がった消化器官としての外臓という概念、エコクリティシズムにおける文学の役割、など人間と非人間の境界を溶かすための手がかりが示される。

人新世が叫ばれるようになった今日、技術と自然・生物はより深く議論されるべきテーマとなっている。多種の共同体の存在を知り人間の位置づけを見直してみたい。


05. ポストヒューマン

ポストヒューマン 新しい人文学に向けて
ロージ・ブライドッティ
2019.02.26 (原著 2013)

人新世の時代におけるテクノロジーとグローバル資本主義経済の発展は、人間というものの定義をどのように変えていくのか。思弁的実在論と並んで今盛んに論じられる「新しい唯物論」を牽引するフェミニズム理論家によるポストヒューマン理論入門。

ここでのポストヒューマンは、シンギュラリティ後の人間を遥かに超越した存在やサイボーグ化した人間のことではない。従来の人間観の解体を試み、西洋近代的な主体を乗り越えるポスト人間中心主義と、生物や機械などの非人間的な存在に焦点を当てる。バイオテクノロジーやロボット工学から、資本主義、環境問題まで、従来の人間の枠組みでは捉えきれない問題を扱っていく。

ロボットやAIの様々な問題を考える際、それらの存在を人間とは全く異なるものとして考えることはもはや出来ない。人間と非人間の境界が融解していく時代において、この新しい人文学は重要な鍵となりうる。


06. 四方対象

四方対象 オブジェクト指向存在論入門
グレアム・ハーマン
2017.09.26 (原著 2011)

思弁的実在論とともに現代哲学の潮流をなすオブジェクト指向存在論(OOO)。アートや建築などでも議論が起こりつつあるこの存在論を、その第一人者が解説した入門の一冊。

OOOは個々のオブジェクトを究極のものとみなした存在論である。難解な内容なので、本書の宣伝文を引用するにとどめる。―—世界を「四方界」によって把握しようとした後期ハイデガーに倣い、あらゆる対象を四つの極−実在的対象・実在的性質・感覚的対象・感覚的性質−の相互関係の下に理解する包括的な存在論の提示を試みる。

人間が不在でも成り立つ世界が理論的に提示されている。人間以外の存在が盛んに議論される現代哲学や現代社会において、触れておきたい概念。


07. ソフトウェアオブジェクトのライフサイクル(息吹)

ソフトウェアオブジェクトのライフサイクル(収録:息吹)
テッド・チャン
2019.12.04 (原著 2010)

寡作なSF作家テッド・チャンによる2冊目の短編集『息吹』。その中の一編『ソフトウェアオブジェクトのライフサイクル』は、ロボットやAIの非人間と付き合う上での重要なヒントを与えてくれる。

リアルな人間の姿をしたAIロボットの開発者は、そのサンプルの赤ちゃんを育て始めた。成長するたび外界を学習していくロボットは、次第に一般的に不適切とされることを覚え始め、飼い主は成長を中止させるかの選択に迫られる。彼らロボットが人間社会で大人へと成長することの意味と、開発者とロボットとの愛について考えさせられる作品。

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