【読書】逢坂冬馬著『同志少女よ、敵を撃て』
20年以上生きているが、人が死ぬ瞬間を一度も見たことがない。葬儀に参列したのも人生で一度きりだ。それを幸運と捉えるか、人生経験がないと捉えるか判断に迷うところだが、とにかく「死」というものをリアルに想像できない。
『同志少女よ、敵を撃て』の独ソ戦における少女の物語だ。
作中とにかく、人が死ぬ。当然だ。戦争の話なのだから。ただ、それがフェイクションゆえの苛烈さなのか、あるいは戦争のリアルな描写なのか、日本で暮らし戦争の経験もなく、誰かの「死」に直面したこともない私にはわからない。
ただ、最も鮮烈な印象を私に与えたのは、マーティンペグラー著『ミリタリー・スナイパー』の引用の箇所だ。
「(中略)ロシア兵がバタバタと袋のように木から落ちてきた(中略)それがことごとく女性スナイパーだったとわかって、ドイツ兵は驚愕した」
人は死ぬとただの物体にしか見えなくなってしまうのだと思わされる描写だった。肉片が飛び散るよりも衝撃的で、死とそれをもたらす戦争により恐怖を感じた。
遠い地で起きている戦争に私は無力だ。でも、だからといって他人事だと思っていてはいけない。心が弱く戦禍の報道も映像や写真だと追えず、文字でしか受け取ることはできないけれど、過去から学びまた現実から目を背けずにいたいと思わせてくれる作品だった。
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