アパートの鍵貸します(1960)
上司に振り回されるサラリーマンの悲哀に思わず涙
笑って泣ける極上のロマンティックコメディ
上司に「No」と言えないサラリーマンの悲哀をベースに、極上のラブストーリーに仕上げたビリー・ワイルダー監督の傑作コメディです。
出世欲に駆られて、上司にこびる主人公バドにも非はあるのですが、あまりに横暴なパワハラ上司に振り回されるバドの健気な姿に涙が止まりませんでした。
第2次世界大戦が終わった1950年代以降、アメリカ社会は繁栄へと向かい、出世=裕福な暮らしを目指して、社畜のように働くサラリーマンが増えていったのでしょう。広いフロアに規則正しく机が置かれ、社員たちが一心不乱にタイプを打っているような会社の風景は、50、60年代のクラシック映画にもよく登場します。
私はこの“ザッツ・アメリカ”のような光景に惹かれます。単調な仕事でも邁進するサラリーマンは裕福な暮らし=夢、いわゆるアメリカンドリームを追いかけているのでしょう。
とはいえ、欲に目がくらみ、大切なものが見えなくなっているサラリーマンを、本作ではちくりと皮肉ります。
自己チュー全開の呆れた上司たちと、お調子者だけど狡猾でもあるバドら、サラリーマンたちの“大切なもの”をめぐる仁義なきバトルは温かいユーモアとペーソスに溢れ、切なくも、ほのぼのとしてしまいます。
名喜劇俳優ジャック・レモンは、お人よしの青年バド役にぴったり。フラン役のシャーリー・マクレーンはとってもかわいくて、驚いてしまいます。(往年はゴッドマザー的な迫力が出てきたので……)
本作は第33回アカデミー賞で作品賞や監督賞など5部門を受賞。バドにわが身を重ねて辛くなる人もいるかも(?)しれませんが、バドが下した決断に励まされるはずです。
原題は「ザ・アパートメント」ですが、「アパートの鍵貸します」というバドの不遇な状況が感じられて、ちょっぴり切なくなってしまう邦題もいいですね。
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