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抜粋集

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色々な本の中で特に気になったものを抜粋しています。
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記事一覧

【メモ】 高坂正堯著「国際政治」

【メモ】 高坂正堯著「国際政治」

高坂正堯著『国際政治』に関するメモ

高坂正堯(1934~1996)

 「現実主義」という視座「国際状況における混乱状況に直面した場合、人びとの態度は二つにわかれる。
 その一つは、こうした混乱状況を直接になおそうとするものである。 
 …しかし、国際社会の分権的性格がそういう解決法を不可能にしているのである。
 …したがって、可能であるのはこの混乱状態を間接に直すことだけである。
 …それは対

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前原透の「戦史研究の大先達」加登川幸太郎

『加登川先生を偲んで』
元幹部学校戦史教官 前原透

 本誌に多年にわたり寄稿してこられた加登川幸太郎先生が亡くなられました。平成9年2月12日のことで、やや遅ればせながら、ここに先生を追悼し、その業績とその思想の一端について回顧したいと思います。

 先生が陸上自衛隊との関わりを持つようになられたのは、昭和47年の暮れ頃だったと記憶します。CGS17期での「独ソ戦史」の教育のなかで、部外講師とし

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浅野祐吾の「兵学の師」西浦進

西浦進氏追悼録編纂委員会『西浦進』(1971)非売品 より

 兵学の師
陸上幹部学校教官 浅野祐吾(51期)

 「西浦という男はなあ・・・・・・」にはじまる岩畔将軍の話は過去三十年の間折に触れ、さまざまのエピソードとして聞かされてきた私である。

 去る昭和十六年十二月の開戦直前岩畔大佐の率いる近歩五連隊がプノンペンに在って作戦準備中、同隊の某将校が泰仏印国境で、あやまって泰の武官を殴打すると

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【抜粋】朝河貫一の危機感

【抜粋】朝河貫一の危機感

朝河貫一著「日本の禍機」より

前篇 日本に関する世情の変遷

反省力ある愛国心 今日、日本の要するところは実に反省力ある愛国心なり。まず明快に国家前途の問題を意識して、次にこれを処するに非常なる猛省をもってするにあらざれば、国情日に月に危かるべし(13p)

私曲のために米国と戦うか 米国は過去の政策および未来の利害の上より東洋の正当競争をますます固く主張せざるべからざる地位にあり、これがために

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【抜粋】米海大におけるオペレーショナル・アートの教育内容

【抜粋】米海大におけるオペレーショナル・アートの教育内容

米海大で教育されているオペレーショナル・アート(作戦術)について紹介します。

下平拓哉「米海大ナウ」より

1 オペレーショナル・アートとは何か・ オペレーショナル・アート(作戦術)

・ 統合作戦ドクトリンJP3-0
「指揮官・幕僚が、戦略や作戦を策定し、兵力を組織、配備するための批判的な考え方の適用」
・ 統合作戦計画ドクトリンJP5-0
「指揮官・幕僚の技量、知識、経験に支えられた創造的

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【抜粋】キケローの人生哲学

【抜粋】キケローの人生哲学

キケロー著『老年について』より

次の世代に役立つように サビーニー地方の田夫であるローマ人を挙げることもできる。・・・この人たちは、自分にはまったく関係のないことが分かっていることにせっせと励んでいるのである。
 「次の世代に役立つようにと木を植える」と、わが同胞スターティウスが『若い仲間』で述べているように。
 まことに、農夫なら、どれほど老いていようが、誰のために植えるのか、と尋ねられたら、

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【抜粋】セネカの人生哲学

【抜粋】セネカの人生哲学

セネカ「人生の短さについて」より

生活となると・・・ 自分の銭を分けてやりたがるものは見当たらないが、生活となると誰も彼もが、なんと多くの人々に分け与えていることか

日々を最後と決める人 誰もみな自己の人生を滅ぼし、未来に憧れ現在を嫌って悩む。しかるに、どんな時間でも自分自身の必要のためにだけ用いる人、毎日毎日を最後の一日と決める人、このような人は明日を望むこともしないし恐れることもしない

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【抜粋】思想史研究の叙述法

【抜粋】思想史研究の叙述法

坂本達哉著『社会思想の歴史 マキアヴェリからロールズまで』

1 『時代』の文脈 各章の主要な思想家たちが生きた時代の背景を、政治と経済の両面から概観し、思想家たちの思想形成に重要な意味をもつ基本的な諸事実を、読者とともに確認する

2 『思想』の文脈 『時代』の文脈と絡み合いながら展開した、思想史的な出来事の系譜や影響関係を整理し、同時代の諸思想の基本的な考え方や概念。理論の内容を確認する。

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【抜粋】軍事思想史の研究方法

【抜粋】軍事思想史の研究方法

浅野祐吾著『軍事思想史入門』より

軍事思想史とは「軍事思想史とはこのような(軍事制度、兵器技術、用兵思想を含めた)総合的な軍事思想を歴史的に展開して各時代の特色とその歴史的変遷を辿るものである」

軍事思想史の研究方法1 戦争史を通じて見られる若干の特定の将帥等の用兵実績から考察
2 その時代の著名な兵学書等を通じてその用兵理論を研究
3 戦争史研究の考察と兵学書等に見られる用兵理論との間の共通

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【抜粋】軍人における戦史研究のあり方

【抜粋】軍人における戦史研究のあり方

譽田甚八著『日清戦史講究録』「注意その1」より

戦史研究は個人批判に陥ることなく事象に対する批判に努めよ終わりに臨み諸君の作業場注意を促さんと欲するものあり
一 戦史の研究には事蹟を主とし何人の指揮官なるやは深く問うを要せず。単に学理上の研究に留まるものにして敢て当時のことを非難するの精神を抱くべからず。否らざれば最近の戦争に就て研究する能わざるべし。故に通常職名を掲げ人名を掲ぐべからず。但敵軍

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【抜粋】思想史研究の方法

【抜粋】思想史研究の方法

ブロノフスキー他『ヨーロッパの知的伝統』より

思想史を研究する上で重要なこと1 異なる分野の思想の相互作用を意識する
ある一つの分野の思想に限定されず、精神活動のスペクトル全体に関心を持つ
2 それらの思想と時を同じくして起こった諸事件の具体的な知識を書く
事件の思想に及ぼす影響と、思想の事件に及ぼす影響、特に技術上、社会上の発明が与える衝撃を考慮する
3 その思想が啓示としてひらめいた人たちの

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【抜粋】日本軍兵士の弱点

【抜粋】日本軍兵士の弱点

一ノ瀬俊也著『日本軍と日本兵』
米軍広報誌Intelligence Bulletin 1943年5月号「米軍観戦者の見た日本軍戦法」より

「私の考えでは、日本兵は訓練も装備も十分な、よく規律化された兵士である。……日本軍兵士最大の弱点は、予期せざる事態にうまく対処できないことだ。彼は戦闘機械の優秀な歯車であり、決められた計画を細部まで実行することはできるが、急速に変化する状況に対処する才覚も準備

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【抜粋】 戦史や軍事史を書く際により広い視座もしくは問題設定を確保するために必要な条件

【抜粋】 戦史や軍事史を書く際により広い視座もしくは問題設定を確保するために必要な条件

大木毅著『第二次世界大戦の<分岐点>』より

1 ファクト=ファインディング戦史や軍事史上の事象の実態を探り、これまで知られていなかったことを読者に提示する

2 アナリシス すでに知られていること、十二分に実証されていることであっても、新たな視座を取り、従来提起されていなかった疑問のもとに、対象となるテーマを俎上に載せること そのために必要なのはセンスオブワンダー(驚くことのできる感性)

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【抜粋】戦史が内在する「偏向性」

【抜粋】戦史が内在する「偏向性」

長南政義著『新資料による日露戦争陸戦史 覆される通説』より

 公刊戦史などに代表される編纂史料には、編纂にあたって編纂者による史料の取捨選択が介在するため「偏向」が存在する。たとえば、多くの場合、日本陸軍の戦史は参謀本部が編纂するため、陸軍省と参謀本部との間で意見が相違した問題については、参謀本部編纂の戦史は多くの場合陸軍省を悪く評する傾向がある。
 …従来、日露戦争は、史料的制約から谷寿夫『機

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