過去にはAnne GillisのアーカイヴをボックスでリリースしているArt into Lifeから、彼女の新作がリリース。1983年に発表されたミニアルバム収録の楽曲のリワークおよび新曲を組み合わせたものとのことで、当時を思わせるチープなシンセなどの音と、ポップとも不気味とも言えない不思議な温度感のヴォーカルが組み合わされている。この独特の雰囲気は現代の人には作れないと思う。
Gil Sansón [con richard (por la adversidad a las estrellas)] (Unfathomless / 2023)
Gil Sansónはどこかつかみどころのない作風でこれまでにいくつもの作品を発表してきた。今年発表された本作では無音や微細な物音が慎重に配置されている。記憶の中でぼんやりと浮かんでは消えていく景色を描いたかのようで、さざなみのような音響作品。彼は今年Full Spectrumからも面白い新作を発表しており、そちらも面白いので是非チェックしてみてほしい。
Hideto Kanai Group (金井英人グループ) [Q] (Three Blind Mice / 1971)
Three Blind MiceのCD再発企画で目に留まった本作。ジャズはバップの頃が好みでそれ以外はあんまりだったので、意識的に日本のジャズを聴いたことはなかった。本作はベーシストがグループでの即興演奏に挑戦したもので、ハードすぎない独特な温度感の演奏になっている。国産ジャズはここから掘り進めていったので、そこから見つけた好みの作品はいつかnoteで紹介したいところ。
Jacek Szczepanek [Místní Rozhlas] (Saamleng / 2020)
Jeff Bruner [Foes (Soundtrack)] (self-released / 1977)
他では見かけない珍しい音楽を取り扱い、商品がアップされてはすぐに売り切れるお店ことShe Ye, Yeで珍しく購入できた、宇宙人襲来映画『フォーズ: 謎の不可触領域』のサントラ盤。6、70年代に流行ったテープ操作ものやチープな電子音をピコピコ鳴らしただけのものとは違い、不気味な持続音や不協和音を中心にきちんと作り込まれたドラマティックな映画音楽となっていて楽しめる。
Jimmie Haskell and His Orchestra [Count Down!] (Imperial / 1959)
Another Timbreからの新作。ときには試聴もおっくうに思うほど金太郎飴的なアンビエント系コンテンポラリー作品を量産しているレーベル。本作もその一つとして括れそうだけれど、Apartment Houseなどグループでの演奏ではなくピアノソロなので少し違って聞こえた。R. Andrew LeeによるJurg Frey作品のピアノ演奏などが好きな人にはハマりそう。僕はそのうちのひとりです。
ジャズをやりたいのか、とんちきロックをやりたいのか、作品を聴けば聴くほどわからなくなってくる作家による新譜。本作ではヴォーカルも参加していて、ジャズロックやノー・ウェイヴ的なアプローチが目立つ。好みは分かれそうだが、The ExやDog Faced Hermansなどオランダ周辺の「あの頃」雰囲気を感じて心が躍った。'Got the Hots for You'では意外にポップな一面も。
SPAM [Musical Sculptures and Other Devices] (Die Schachtel / 2014)
ナポリ音楽院で教鞭を執るAgostino di Scopioとその生徒たちによるグループSPAMがDie Schachtelの新人発掘シリーズの"Zeit"より作品を発表。本作は音響彫刻やデヴァイスをもちいて本人や他者の作曲作品を演奏したもので、無音/微音から軋みのような轟音までを行き来している。1曲目はライヴ録音で咳込む音や拍手が(嫌な意味で)気になるが、全体的には素晴らしい作品。
80年代後半から90年代前半にかけてウクライナの地下シーンで活動していたという作家による、舞踏劇のサウンドトラックとして94年に録音されたという音源をレーベルShukaiが発掘。全体をとおしてとても優しくもどこかメランコリック(?)な空気をまとっている雰囲気の作風で、個人的には(安易だが)Meredith Monkの[Book of Days]や[Turtle Dreams]などの作品との近似性を感じた。
Thomas LaRoche [Even More Precise Accounts of the Cave] (Drowned By Locals / 2023)
終始不穏な空気に包まれたカセット作品。曲はSide A/Bのみで分けられており、それぞれのなかにいくつかのセクションがあるという感じ。バツッとシーンが転換するので、しっかりとした「曲」として分かれているように感じられる。リリース元のDrowned by Localsもこの作家の運営するResearch LaboratoriesもTobira Recordsで知った存在。もうTobira Records様様です。
Ulrich Krieger [Aphotic II - Abyssal] (Room40 / 2023)
今年発表された[Aphotic I - Hadal]の続編。ともに'acoustic'、'delay'、'electrocnic'の3つのパートからなり、深い残響のなかで生楽器が緩やかに鳴らされる。名前から推察するに、それをアコースティックのまま、ディレイ処理、電子変調という3種類にしたのだろう。前作とあわせてどちらも素晴らしい出来だったので、フィジカルでのリリースが叶わなかったのはとても悲しい。