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お洒落

洋服を買うのが苦手だ。

知らないよとか、買うことに苦手もなにもあるかとか思われることは当然だし、そんなことを家族や友人に実際に言われたこともある。でも洋服を買うのが苦手だという人がいるということをどうにか知ってほしい。

洋服を買うのが苦手な人に共通しているのはお洒落に興味がない人だと思う。僕の場合親が全く洋服に興味がなく父親はよくユニクロで大安売りしていたというシャツを大量に購入して何年もそればかり着ていたりした。そんな親の影響もあり洋服への興味を持つ機会を見失ってしまった。

 苦労したのは大学に入ってからだった。高校までの制服と部活の服だけ着ていればいい時代は終わった。大学一年生はみんな髪を染めてお洒落な服を着て個性の押し売りを始める。これにはさすがに面食らった。最初の一か月はクローゼットにある3パターンぐらいの服をなんとか組み合わせを変えてごまかしていたが、さすがにもう限界だった。ということで洋服屋に行く羽目になった。

 そもそも洋服買うのがそんなに嫌なら、ネットで誰にも干渉されずに買えばいいじゃないかと言われそうだ。ネットショッピングなら時間を割かずに買うこともできる。しかし僕は身長が180センチ以上あっておまけに腕が人より以上に長く、さらにハイウエストというチンパンジーのような体型をしている。また長年スポーツをやっているせいで腕や肩、太ももが太く自分に合う服があまりない。そのためネットでよさそうな服を買っても実際に着ると脚がパンパンになったり肩が全く上がらなかったりする。だから洋服屋に出向き試着をするという作業をしなくてはならない。

洋服屋の何が苦手かと聞かれたら空気感と言わざるを得ない。高校生の時母親と洋服屋に行ったとき周りを見回して同年代の人間は友達同士やカップルで来ていることに気が付いてしまった。高校生にもなって親と一緒に服を買うなんて恥ずかしいことなのだと知った。

かといって悲しいことに一緒に服屋に行くような友人やお相手が自分にはいなかった。だから洋服屋に行くことそれすなわち自分が孤独であることを認識させられる修行として自分の中で変換されてしまった。洋服屋の天井がやたら高いことや店員が気軽に話しかけてくるのも自分の孤独を強調するための仕掛けであるような気がしてしまう。「一人でいるけど何かお探しですか。」といわれているような気がして「別に何も探してねえよ!」という気持ちになってしまう。

またお洒落な服がたくさん置いてある店内の中で自分の格好のダサさに気が付いてしまうのも苦手な原因の一つだ。こんな色味のパーカーがあるのかと驚いて見ていると柱にある鏡に黒のズボンと灰色のシャツを着た長身の男が立っている。そのダサさにより驚いてしまう。
大学入りたての頃は苦手を克服しようとお洒落に力を入れている時期もあった。まず店内の広告の通りに買おうと思い全身モデルさんと同じ服を着てみた。結果はひどかった。広告と全然違うなと自分でも笑ってしまった。よく考えてみれば広告のモデルは外国人だった。鶴瓶さんのような和顔の僕が同じかっこをして似合うわけもなかった。

大学に入って一年でようやく気が付いたのは自分にはお洒落は無理だという単純なことだった。大体中学高校では制服を着て大人になっても大半のひとはスーツを着て働くのだからそこまで洋服にこだわる必要はないと自分の中での落としどころを付けた。今は大型スーパーに併設されている衣類コーナーでひっそりと洋服を買うようにしている。お洒落な服はあまりないし、同年代がいるのも見たことがないけれど快適な買い物が出来ているという意味では自分の中では一番スタイリッシュでお洒落な洋服を買うことが出来ていると思っている。
しょうもない自意識をどうにか克服することが出来たらいつか原宿とかのお洒落な洋服屋に行ってみたいなぁ。まあそのころにはおじさんになっているかもしれないけれど。


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