【自主性・主体性ある会社・組織・チームの作り方】第7回 社内の全体最適と適材適所の実現
この記事では、中小企業(特に成長を目指すベンチャー企業)として、マネジメント・組織作りをどのように行っていくべきなのか、実体験と実践内容をもとに考えていきたいと思います。
さて、前回(第6回 自律型組織における階層と役割)の最後にも書いたとおり、今回は社内の【全体最適】と【適材適所】について解説します。
各社員が自主性・主体性をもち、帰属意識・当事者意識がある状況とは、「自分がいないと会社が困る・まわらない」と捉えていることです。
逆に「しょせん歯車の1つ」と考えているのであれば、会社のことを自分事として捉えていないということになります。
また、弊社では適材適所にこだっています。
各社員の「得意/不得意」「できる/できない」「好き/嫌い」などをできる限り考慮し、それらにマッチした役割・業務を任せることで、会社全体としてのパフォーマンスを上げようとするものです。
本稿では、会社が部分最適ではなく全体最適に向かい、そのために適材適所をどのように考え・実践していくか、弊社の実例も挙げながら解説していきます。
■「城の石垣」理論
昨今は働き方改革に加えて、社内における「ダイバーシティ」(多様性)を求める声が大きくなっています。本来、会社・組織・チームとしては、多様性があった方が強くなるというものです。
チームスポーツで考えればわかりやすいのですが、メンバー全員の「得意/不得意」「できる/できない」が同じであればチームとしては成り立ちません。
むしろ、全く違う能力・スキル・特性があるメンバーがうまく組み合わされた方が、チーム全体のパフォーマンスは上がり、強いチームができるわけです。
全員がホームランバッターでは得点力は低いですし、全員が優秀なピッチャーであれば点をとれずに負けてしまいます。
私は社員に対し、「城の石垣」に例えて伝えています。
「(日本の)城の石垣をよく見ると、まったく大きさ形がバラバラの石で組み合わさっています。すべてが大きな石の方が効率的に高く積み上げることができますが、それでは石と石の間が隙間だらけで、むしろ崩れやすくなります。
ですから、その隙間をしっかり埋めるだけの石が必要なのです。
これらすべてが組み合わさってはじめて、地震が起こっても崩れにくい石垣(全体)が構成されているのです。」
見た目大きい石の方が、高さに貢献しているように思えて、小さな石もなければ全体は成り立たず、貢献度は大きさによって計れないことがわかります。
チーム・組織・会社とは、このようにあらねばならないことから、あえて多様性を求めていて、例えば採用時には、面接者は自分と似たような人を採用したがるわけですが、実際はその逆でなければならず、今の会社にいないタイプ・スキルを持った人を採用しなければ意味がないわけです。
■適材適所をジャマする要因は何か?
弊社ではこのように「城の石垣」に例えて、会社全体としての多様性の重要性を何度も説いてきましたが、言葉としては簡単に思える適材適所を実現するのが難しい時期も長くありました。
例えば、コミュニケーション能力の不足。
自分の考えを正しく伝えることができない、もしくは相手方の考えを正しく認識することができない従業員。
こういう従業員は、残念ながらお客様・取引先とたびたび意見の齟齬を起こし、クレームだけではなく相手方との認識相違によりトラブルを招きます。
社内でも「だから言ったやん!」的なトラブルの原因を、それこそ日々起こしていきます。にもかかわらず、実際には役割・分担を変わろうとしない・変えないわけです。
これでは責められる本人も、苛立つ周りも不幸の連鎖です。
当時の弊社内を見ていると、こんな感じでした。
A:「はい、これできる人?(全員への問い掛け)」
B:「はい、私がやります!」
全員:「では、ぜひBさんにお願いします」
Bさんが実際にはできない・できていないことを周りが認識しながら、その担当・役割を変えないのは、Bさんの(自分からやると言った)「やる気」を買うからです。
さらには、自分から手を挙げたBさんは、自分が能力的にも向いていると思い込んでいるからです(実は向いてないことに気付かないことや、プライドもあるはず)。
ここまで書くとわかると思いますが、適材適所を実現するには、本人の意向を最優先で考えるとムリがあって、自主的・主体的に手を挙げた人に【いったんは】任せるものの、周りがムリだと判断すれば強制的にでも担当・役割を変えないとダメなのです。
■「デキない」のは社員が無能なのではなく会社が無能
この論点については、下記の記事が秀逸に解説・表現しているので、ぜひ読んでください。
私はこの記事を読んで、なぜ社内で適材適所が実現できないのかを認識できました。
「「無能」は多くの場合、「個人の能力」ではなく「組織の能力」が不足している。」
「「本人のやる気」と「仕事の結果」はほぼ関係ない。
ルーティンワークなら「やる気でカバー」が通用したかもしれないが、現代の仕事はあまりに難しいので、精神論ではどうにもならない。
仕事の遂行能力が不足している人間に仕事を任せると、周りも迷惑だが、本人はもっとつらい思いをする。
だからこそ「無能」は本人の責任ではなく、組織の責任なのである。」
弊社は、税理士・会計事務所などの専門家向けに情報発信・課題解決のサービスを提供しており、営業(セールス)ではなくマーケティングで集客をしていますので、弊社内で求められる付加価値の重要度としては、
・サービスの企画力
・顧客に伝える能力(特に文章力)
など、クリエイティブな能力にあるといえます。
その一方で、単純作業やルーティンワークもかなり多くあり、
・課金業務
・セミナー会場の準備/DVDの発送など
などにもある一定のリソースを必要としています。
このように、前者は「脳に汗をかく」仕事であり、後者は「正確に業務をこなす」という、真逆の仕事内容となっており、当然ながら求められるスキル・能力はもちろん、「好き/嫌い」や「向き/不向き」が大きく影響してきます。
私は典型的な企画・クリエイティブ向きであり、ゼロから1を作るのは大好きですが、逆に単純作業やルーティンワークにはめっぽう向いていません(正確には、単純作業やルーティンワークが嫌い・やりたくない)。
このような人間に単純作業をやらせると、パフォーマンスが低いのは当然ながら、本人のモチベーションも低いため、社内の誰も幸せにならないわけです。
このように、ある社員が「デキない」と評価するときは、「その業務に向いていない」のだと認識し、本人に向いている業務・役割を振ることが重要になるわけです。
■適材適所を実現するために必要な2つの要因
このように、会社内の全体最適を実現するために適材適所がマスト要件であることはご理解いただけかと思いますが、かといって「明日からやりましょう!」と着手できる会社は少ないはずです。
適材適所を実現するためには、最低でも2つの要因(社内環境)が必要になります。
①全社員の特性を把握する
会社によっては「業務内容の好き嫌いなんてとてもじゃないが言えない(言わせない)」という風土・カルチャーもあるかと思いますが、このような状況では適材適所は実現できません。
全社員の「得意/不得意」「できる/できない」「好き/嫌い」「向き/不向き」「経験済み/未経験」など特性を把握することが、適材適所実現の大前提です。
②社内に心理的安全性があること
併せて、上記①をするため必要な要因は、社内に「心理的安全性」があることです。
社員の特性を把握したいからといって、アンケートやヒアリング等を実施したところで、「本音を言ったら怒られる」と各社員が感じているのであれば、正しい特性は把握できません。
社内カルチャーとして、心理的安全性がない限り、社員の特性を把握するのは不可能なのです。
■おわりに・・・
適材適所を実現できなければ、全体最適を実現することはできません。
しかし、多くの人が適材適所を本質的には理解していないように思います。
大企業などでよくあるのは、現業務に向かない社員を「部署内で」役割・業務内容を変えようとするわけですが、これは適材適所には程遠いことが多いわけです。
確かに部署間異動を前提にしてしまうと、
・人事部を通さないとダメ
・受け入れ先の部署が求める人材でないとダメ
・部署から出すとその部署内のリソースが足りなくなり、誰か補充しないとダメ
という3つのダメが考えられます。しかし、これらの思考そのものが全体最適からは程遠い「部分最適」であることは明らかです。
そして最もおそろしいことに、部分最適の集合は全体最適にはなりません。
だからこそ弊社では、部分最適に陥らないように部署は設置していませんし、業務変更などは関わる全員で協議し、現場内で柔軟に実施しています(社員の業務・プロジェクト変更にイチイチ社長まで話があがってきません)。皆さんの組織作りの参考になれば幸いです。
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