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「自分は何者か(Who am I?)」を深堀りし続ける~ロート製薬元取締役(CHRO)高倉&Company合同会社共同代表 髙倉千春氏~

こんにちは!プロティアン・キャリア協会の広報マネージャー今西です。

2024年3月に4周年を迎えたプロティアン・キャリア協会。
理事・顧問・アンバサダーとして多くの方にジョインいただきました。そこで、「普段は聞けない!?プロティアン・キャリア協会だからこそ聞けちゃうキャリアインタビュー」を実施しています。
初回の2023年4月にプロティアン・キャリア協会の顧問に就任くださった元ニトリ人事責任者・Qrious合同会社代表の永島寛之氏へのインタビューはこちら👉

第2回目の今回は2023年7月にプロティアン・キャリア協会の顧問に就任くださったロート製薬元取締役(CHRO)高倉&Company合同会社共同代表 髙倉千春氏へインタビューしました。
インタビューはCGO 最高事業成長責任者 栗原 和也さん、認定プロフェッショナル・ファシリテーター 岩本里視さんに実施いただいてます。
それでは本編に行ってみましょう!

左)CGO 最高事業成長責任者 栗原 和也さん(右)認定プロフェッショナル・ファシリテーター 岩本里視さん

アジア出張で現地のメンバーと撮影

📍チャンスを掴み取るには、自分が貢献できることを考え、周囲の信頼を得ていく

ー約四世紀半にわたって外資企業と日本企業で人事の仕事に従事してきた髙倉さん。
その華やかなご経歴からは、常に順風満帆なご道程だったようにお見受けいたします。まずは大学卒業後の進路について教えていただけますか。

まず私は津田塾大学を卒業後に、大学院へ進学しようと思っていたのですが卒業論文にのめりこんだせいか、入試に落ちてしまいました。
当時の女子大生の進路は学校の先生になるか、大学から推薦をもらって大企業に入るかの2つのコースがメインでした。でも企業に入っても女性はお茶くみやコピーとりが多くポジションがない時代。
「主体的に活躍できる場でないなら、つまらない。せっかくなら天下国家のために働こう!」と決意し、通信講座のコースで勉強し、国家公務員の中級職の試験に合格しました。
大学時代に国際関係論を学び、英語も使えるようになっていたため、農林水産省を希望することにしたのです。

人は一度行き着いた解決策がベストだと思い込み、思考停止になりがちなんです。「すぐには答えが出ないことを学び、また別の方法で挑戦すること」に留意することが大切です。失敗から学び、再度挑戦していくことでしか、未来を見る目は持てないと感じています。

ー20代後半で自分のキャリアと重ね合わせるきっかけになった日米交渉の現場にいたとお伺いしました。日米交渉の最前線で、どのようなことを経験されたのでしょうか。

農林水産省の初期配属は国際部で、国際部長の秘書をしていました。ある時、牛肉・オレンジの輸入自由化をめぐる日米交渉が佳境を迎えた際に国際経済課が「タイプライターを早く打てる人がいなくて困っている」と相談が来たのです。私は大学時代に英文タイプの科目をたまたま履修していたので、まさに得意分野!すぐに引き受けました。これを部門の方に喜んでいただき、特定の案件を担当する課に異動となり、国際交渉の末席にいられることになりました。交渉の業務では「日本を世界の中でどう強くしていくか」を考えていました。

この交渉の場で私の視野が一気に広がりました。アメリカの交渉団は最前列に女性がとても多かったのです。そしてアメリカ側はビジネスパーソンが全面に出て、議論の中身に積極的に関与していました。これを機に「世界はビジネスによってダイナミックに動いているのではないか」とふと感じました。

ー農林水産省勤務後、フルブライト奨学金制度を利用して留学を決意されたとのことですが、そのきっかけについてお聞かせいただけますか。

同じ時期、ハーバード・ビジネススクールでMBAを取得した2人目の日本人女性である斎藤聖美さんの影響で、留学に興味を持ち始めました。しかし、留学には費用がかかるので無理かもしれないと諦めかけていたのです。その時にフルブライト奨学金制度を知り、日米の相互理解を促進するような架け橋となる人材を募集しているとのことでした。私がまさにそうだと思い、早速申し込んでみることに。申込時には推薦状が必要だったのですが、かつて私が庶務的な業務に従事していた際の上司からもらえることになりました。

ただ、同じ時期に夫も厚生労働省から外務省に出向になり、アメリカの大使館に行くことになっていました。本来であれば外交官婦人になるので、お花を生けたり接待する仕事をしなければならなかったのですが、私の推薦状を書いた上司が「せっかくフルブライトの奨学金で留学するのだから」と交渉してくださり、ビジネススクールにも通うことができ、しっかりと学ぶことができました。当時は大学の試験が終わったら着物に着替えて大使館のイベントへそのまま向かうなど、とにかく目まぐるしい日々でしたが、自分のやりたいことを実現するための一歩を踏み出すことができた良い時間でした。

📍人こそ戦略の鍵、個人の力を開花させるため人事の道へ

ーグローバル企業で見てきた人材開発と、日本の企業の差を感じるような出来事があったとお伺いしました。
留学後はビジネススクールの経験を活かし、三和総合研究 所( 現・三菱UFJリサーチ&コンサルティング)で経営コンサルタントの道へ進みました。いわゆる、アジアに日本企業が進出する際のコンサルです。でも「やっぱりグローバルで働きたいな」と思い、より専門性を磨くためにジェミニコンサルティングジャパンへうつり、戦略コンサルをしていました。
でも、いくらきれいな戦略を書いても、人がやることだから人事が大事だなと感じたのです。

組織開発と人事の相談もよく受けており、その流れでファイザージャパンに入社し、人事人生がスタートしました。組織開発の領域に興味を持ち、どのように人を組織の中に取り込み、活性化させるかを考えていきました。
グローバルでは「グローバル市場でマーケットシェアを取らないと買収されてしまう」という状況で、かなりの抵抗勢力と対峙しながら、売上・利益・マーケットシェアをとる、「ウィニングカルチャー」が打ち込まれ、日本のビジネスを押し上げられるような取り組みを創り上げました。また、ファイザーは当時から「”Most Successful”、”Most Respected”カンパニーを目指す」というようなメッセージを打ち出していました。サービスを提供する医療従事者はもちろん、社員と社員の家族もこのスコープに含めていました。今でこそ日本は、持続可能な働き方の観点からエンゲージメント等が注目されていますが、海外は進んでいるなと感じた一つの視点です。

そのあとスイスに本社を置く製薬会社ノバルティスファーマの日本法人に入社し、人事・コミュニケーション本部の人材組織部長という職につきました。ノバルティスはアメリカ的なジョブ型を押しつけてくるのではなく、「レベルポテンシャルと、インディビジュアルポテンシャルがある。一人ひとりの凄い潜在能力があってそれを開花させるのか、これが人事の仕事だ。」という企業でした。
例えばスイス本社のトレーニングで、「ビジネスをやるにはどういう人を採用したらいいか」というケーススタディがあり、「6人候補がいます。そのだれを選びますか」という議論が3日・4日実施されます。横にコーチがいて、Good/Betterをフィードバックされ、その後、1年間コーチングを受け続けます。人に対しての育成が手厚く、個人の能力を信じて開花させる企業でした。まだ日本ではそのような文化はないので、「日本の企業は大丈夫かな」と私自身も不安になっていました。

ある時、日本法人の社長に日本人を推薦したのですが、別の海外の人材に決まりました。理由を聞くと、「GoodだけどGreatじゃない。もっと自分の意志を持って会社を、社会にどういう価値を出すか考えられる意志が必要なんだ」と。日本人は優秀なのにトップとして活躍できないのはおかしいのではと思ってたんです。そんな時に味の素から、グロース人事制度を作ってほしいという話があり、「これからは一層、日本の人材を強くしたい」と転職を決意しました。

ー味の素様での「適所適財」という理念を掲げた人事改革は、大きなインパクトを与えたと認識しております。この理念がどのような経緯で生まれたのか、ぜひお聞きしたいです。
私は日本企業の人事は始めてでしたが、味の素に入社して思ったことは、ファイザージャパンで人事をやっていた25年前と全く同じだったことです。つまり、年齢とともに給与が上がる年功序列な制度でした。
従来、日本の産業界では「適材適所」という言葉が用いられていました。それを「適所適財」
へのパラダイムシフトを打ち出しました。「この人がいるからこの仕事」ではなくて、「将来戦略があるんだったらどういう人が良いのか。」という逆の発想ではないとサステナブルでないと考えました。この絶妙な言い方を思いついたのは私たちのチームの優秀なメンバーでした。そのことを私は誇らしく思うと同時に、人事発信のコミュニケーションの重要性を改めて実感しています。
どんな変革も一筋縄ではいきませんが、従業員の皆さんの理解を得るために対話を重ねていく過程はそれはそれは大変なものでした。しかし、味の素には「個人の力を開花させよう」という組織のDNA流れていました。創業当初からのこの組織文化があったからこそ、互いの想いを重ね合わせながらより良い未来に向かって進むことができたのではないかと思います。

ベトナムの味の素社がホーチミン市で2012年に立ち上げた「学校給食プロジェクト」の様子。

ータナケン先生とのセミナーでもロート製薬の「育む目」と「貫く目」のお話が印象的でした。
味の素で働いた後にその後に私がロート製薬に興味を抱いたのは「新たな事業が生まれる会社の原動力」を知りたいと思ったからです。
私たちに求められていたのは「育む目」と「貫く目」です。たとえば、「将来はマーケティングの仕事をしたい」と希望している社員がいえば、その人がマーケッターとして成長できるように温かく見守る「育む目」も大事ですが、それだけでは十分ではありません。
マーケッターとしての適性を有しているのか、適性があるとしたら今すぐがいいのか、他のどんな領域で経験を積んでもらったら良いのかなど「貫く目」で見通すことも大事です。

📍「言われたことをやればよかった」時代は終わった、主体性で輝くキャリア

ーキャリアを築いていく過程においては、様々な壁に直面する機会もあると思います。髙倉様さんはどのようにしてモチベーションを維持し、前に進んでいましたか。
一つ上の目線を持つことが重要ですよね。何か抵抗が起こる時には「彼らには何らかの主張がある」と考え、客観的に見ることが必要です。「なぜ抵抗しているのか」を考えないと先に進むことはできません。やらなきゃいけないこと、やりたいことを達成するにはどうしたらよいかを考え、「反応」するのではなく「対応」することが重要です。
私が1つ確信を持って言えることは、嫌な顔をしている人とか不満に思っている人には良い仕事が来ないんです。「面白い」とか「結構ついてるな」とかそういう人にいい仕事が来るんですよね。1つ上の目線を持つことは研修などで学べるものではなくて、自分の心の持ちようかなと思います。

ー最後に農林水産省、グローバル企業、日系企業と多様な職場で活躍されてきたご経験の中で、どのような価値観に基づいてキャリアパスを形成されてきたのか、ぜひお伺いしたいです。

キャリア上で何を追求していきたいかという軸が必要です。言い換えれば「Who am I?」という主体性が問われていくのです。そのためにはさまざまな経験の場を持ちながら自分自身を見つめていくことが必要になります。
これがまさにプロティアン・キャリア理論とつながってくると考えています。過去に誇りをもながら、肯定的に自分の未来を考えていくということです。

船を無事に目的に到着させていくためには、能力やスキルだけではなくマインドを必要とします。そのマインドというのは挑戦を楽しむマインドや将来を前向きにとらえるマインド、自分たちが持っているポテンシャルを開花させようとするマインドや、自分らしさを大切にするマインドではないかと思うのです。

転職の際は、過去のやり方や考えが通用しないとか、新たな職場のやり方や考え方に慣れないといった葛藤を抱くことになりますが、葛藤が大きいからこそ、得られる学びも多いと言えます。私自身の経験に照らして言えば、転職は「自分は何者か(Who am I?)」を深く掘り下げるところから始まります。自分は何をしたいのか、何を求めて仕事に向き合っているのかを改めてよく考え、個人パーパスを自覚し直して新たな仕事に臨む必要があります。
プロティアン・キャリア協会が掲げる「心理的成功があふれる社会の実現」は個人のパーパスがあってこそ、多くの方の心理的成功につながるのではと思っています。

私が今強く感じているのは、働く個人の位置づけが、これまでにないほどの変化の中にあるということです。言われたことをやれば成果が認められた時代から、主体的に取り組み社会に新しい価値を創造することを期待されるという簡単ではない時代にもなっていますよね。自ら何をやるかを考えないといけない、でも責任を取るのは自分という時代になってきました。主体的に考えて好きなことをやるにはどれくらい責任を持つべきなのかを考えることでキャリアは実っていくと信じています。

これまでの日本の成長を押し上げて来たのは間違いなく昭和世代です。24時間懸命に働いて成長を実現してきました。働き方が変わってきた現在、ミドルシニアの世代はこれらの過去に誇りをもち、肯定的に未来を考えることが重要だと思います。そして、これからの世代の皆さんと共に、互いに尊重し合いながら、組織の力に変えていく。プロティアンキャリアで説かれる個人と組織の関係性を強固にしながら歩んでいくキャリアこそが、組織成長の源泉であると考えます。

味の素勤務時の海外出張の様子

<髙倉千春氏 プロフィール>
1983 年農林水産省入省。
90 年フルブライト奨学生として 米ジョージタウン大学へ留学し、92 年に MBA 取得。
93 年から三和総合研究所にて組織再編、新規事業実施などにともなう組織構築、人材開発などに関するコンサルティングを担当する。
99 年よりファイザー人事部担当部長、2006 年ノバルティス・ファーマ人材組織部、
14 年より味の素理事グローバル人事部長としてグローバル人事制度を構築、展開
20年よりロート製薬取締役、22年同CHROに就任。
22 年より日本特殊陶業社外取締役 サステナビリティ委員長。
23年より三井住友海上火災保険・野村不動産ホールディングス社外取締役。
企業の将来の経営の方向性を見据えた戦略的な人事に取り組み、多様な次世代人材育成などを推進。

《2023年10月出版・髙倉氏出版書籍》

書籍名:人事変革ストーリー

【編集後記】
 髙倉様の高い志と力強い行動、更には伝説的な人物たちと働かれてきたご経歴をお伺いし、一編の映画を見終えたような衝撃と感動を頂きました(ここでは書けませんでしたが、外交時代の登場人物は「えぇ」と絶句しました(笑))。グローバル企業に、日本のトップ企業にと、縦横無尽にご活躍のエピソードで何から感想を述べたらよいか、と振り返りましたが、ここであえて挙げたいのは髙倉様のキャリアの転機のきっかけとなった、「英文タイプライティング」。大学時代に熱心に打ち込んでいた結果得られた技能と、「天下国家のために」という志が見事に合致し、そこから先のグローバルなキャリアが拓かれていったエピソードは大変印象深いものでした。
 誰しも素晴らしい成果を見るとその結果に注目してしまいがちだと思います。しかし、そこには誰が見ていなくとも着実に積み重ねてきた苦労と修練があり、その蓄積があるからこそ、ある日意図しない形で結実する事があるんだということを再確認するエピソードでした。「目の前のことに真剣に打ち込みキャリア資本を蓄積すること」と「パーパス(想い)」を育むことの重要性を改めて学ばせて頂きました。
 変化の激しい時代にあってもキャリアを拓くのは本人の熱と力、そしてその人を助ける周囲の力(≒良好な関係性)であると思います。この記事が、読者の皆さんの勇気の一歩を後押しするきっかけになることを心から願っています。(#プロティアン)
(岩本・栗原)

以上です!
プロティアン・キャリア協会では、組織と個人のより良い関係構築の促進を応援しています。
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