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Luminary Talk! vol.8 パーパス経営著者・一橋大学ビジネススクール客員教授 名和高司さんにきく〜組織と個人のパーパスの融合は実現可能?〜

Project MINTでは、大人がパーパスを起点に新しいステージに移行するための学びのサポートプログラム・コミュニティを提供しており、特別パネルディスカッション「Luminary Talk」を開催しています。この「Luminary Talk」では、Project MINTアドバイザーやパートナーの一人ひとりにフィーチャーし、ユニークな経歴を持つ彼ら・彼女たちのストーリーや変遷を、皆さんと共有しています。

今回はシリーズ第8弾 ー パーパス経営著者・一橋大学ビジネススクール客員教授 名和高司さんにきく〜組織と個人のパーパスの融合は実現可能?〜 を開催しました。本記事はそのイベントに参加したProject MINT修了生によるイベントレポートです。

▶︎名和 高司 教授プロフィール

一橋大学ビジネススクール 客員教授
1980年東京東京大学法学部卒業、三菱商事入社。90年ハーバード・ビジネススクールにてMBA取得(ベーカー・スカラー)。その後、約20年間、マッキンゼーのディレクターとしてコンサルティングに従事。日本、アジア、アメリカなどを舞台に、多様な業界において次世代成長戦略、全社構造改革などのプロジェクトに幅広く従事。2011年〜16年ボストン コンサルティング グループのシニアアドバイザー。14年より30社近くの次世代リーダーを交えたCSVフォーラムを主宰。10年より一橋大学大学院国際企業戦略研究科特任教授、18年より現職。問題解決、イノベーション、コーポレートガバナンス、デジタルトランスフォーメーション、CSV経営などの講座を担当。ファーストリテイリング、味の素、NECキャピタルソリューション、SOMPOホールディングスの社外取締役、三菱ケミカル、日本電産、インターブランドジャパン、アクセンチュアなどのシニアアドバイザーを兼務。主な著書に『学習優位の経営』『CSV戦略』『企業変革の教科書』『経営改革大全』などがある。

当日の流れ

冒頭に約40名のイベント参加者に対して、Project MINT代表の植山がパネルトークテーマを提示。
それぞれが最も興味のあるテーマに投票いただき、その中の上位3つについて名和さんにお話いただきました。

トークテーマ上位3つ

1.  パーパスよりも実利が優先されてしまいます。どうしたらいいですか?
2. 名和さんの「パーパス」を知りたいです。
3. 日々の業務でパーパス起点に働いていくには何が大事?

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トークテーマ1. パーパスよりも実利が優先されてしまいます。どうしたらいいですか?
まず名和さんから「自分のパーパスと、所属組織のパーパスの重なり具合をベン図を描いて表現してみてください。それぞれが重なってる部分はどれくらいありますか?」と問いかけが。

参加者から「1割かな…」「3割くらい」などと反応がある中、「あまりにも重なりが少ない場合は、自分のやりたいことを実現するためのプラットフォームと割り切って会社を利用する、と考えてみる。あるいは会社の思いに自分から近づけてみることも必要かもしれません」とコメント。
一方で名和さんは、完全に2つが重なってしまっていることも、健全ではないと言います。なぜならパーパスが重なっていない時に感じる不安定さと居心地が悪さが、変化していこうとする原動力になるためで、Well Beingで止まっているよりも、変化するBetter Becomingが大切である、と。
そうするうちに参加者から続々と質問が寄せられ、トークは深まっていきます。

「パーパス経営の実利効果への因果関係が不明瞭で実感する人は少数のため、実利的なことへの偏重を乗り越えられないのでは?」

「どちらが優先かと考えてしまうとそうなるが、パーパスをカルチャーにまで落とし込めた時に生み出される熱量は大きい。ランナーズハイのように凄いパフォーマンスを生み出す。パーパス経営とビジネスの二項対立ではなく二項動態と言えるかもしれない。パーパスを起点とした良いカルチャーの中で良いパフォーマンスを体感することが重要」(名和さん)

「Better Becomingの先に、独立や転職をしてしまうことで、経営者からすると人材流出、人材流動に繋がりかねないが、どうバランスを取るべきか?」

「世間ではメンバーシップ型からジョブ型へ採用形態が変わっていると言われるが、私は「キャリア型」を提唱したい。社員はキャリアをクラフトするという意識で会社を選び、会社は選ばれるプラットフォームになるべき。成長できる場として活用できると思われれば選ばれ、会社と社員のいい緊張関係が生まれる」(名和さん)

会社が個人のパーパスを実現するプラットフォームであるという視点を双方が持つことで、社員の成長が会社のパフォーマンス向上へとつながる、ときっぱり。
そして話題は名和さんご自身の関心へと移っていきます。

トークテーマ2. 名和さんの「パーパス」を知りたいです。
学生時代に小説家を志したものの、夢を諦めて商社に就職。かつては「筆を絶って商人になった」詩人のランボーと自分を重ね合わせていた、と名和さんは振り返ります。
商社をプラットフォームとして活用し多くの「冒険」をした後、留学を経てコンサルタントへ転職。出会いや流れを作る商社から、周囲を助ける役割へと変化し、この経験を若い人たちに伝え残していきたいと大学の教員になったといいます。
人生の節目節目で見直し、現在のパーパスは「自分自身のパーパスが周りの人々のパーパスをどれだけ高められるか、周囲の人をどれだけ豊かにできるか」であるとのこと。
このトークイベントでたくさんのことを伝えてくださっているのも、まさにパーパスの体現ですね。

トークテーマ3. 日々の業務でパーパス起点に働いていくには何が大事?
何の仕事をしているのかと問われ「人類を宇宙に送り出す手伝いをしている」と答えたNASAの掃除夫や、イソップ寓話の3人のレンガ職人の話(やらなくてはいけないから/家族を養うため/歴史に残る大聖堂をつくるため)を例に、所属している組織が成そうとしていることを意識できていることが大切である、と名和さん。

昨今企業活動においてDEIB(Diversity、Equity、Inclusion、Belongings)が重要であると言われていますが、中でもInclusionの重要性が増している。個々人が自分でできることを自覚し、それぞれの力を発揮しながら一体感を持ってOne Teamとして目標に向かうことで、大きな仕事ができる。そのために、どんな業務であっても自分にとって、また会社にとっての学びがあると認識しそれを定義することが大切であると言います。

セッションも終盤となり、名和さんから今日のトークを踏まえて「明日から取り組みたいアクション」を書き出すことを提案いただき、参加者から多くのメッセージが寄せられました。

「チームメンバーと対話したいですね。ひとつのカンパニーとしてどうなりそうか。」
「本日の学びをチームメンバーに共有したいと思います。」
「組織変容、意識変容の仕事をしていますので、名和先生のお話を活かして、人と組織の可能性に貢献できるように真摯に精進いたします。」
「ノリがイマイチな仕事も、自分に残せる足跡、を意識しながら、取り組んでいきたいと思います。」
「会社はプラットフォームであるという見方、自分が選ぶ。その意識を持って明日から行動していきます。」
「自分の仕事の本当の意味を今一度考えたいと思います。」
「日々の各業務が組織の目的にどう関わっているか書き出す。自分の思いを思いの社員と共有する。」
「三方よしの順番、DEIB、自分の足跡を残す。チームに伝えていきます。」

最後に名和さんは、経済学者ヨーゼフ・シュンペーターシュンペーターの「イノベーションは内側からしか起こらない」という言葉を引用し、「自分の思いを周囲へ伝え、共有し、行動することでイノベーションを起こせる。日本社会が活性化することを期待しています」と締めくくりました。

イベントに参加して/MINT4期生 田賀悠記
MINTでの活動を通じ自身のパーパスを意識して行動するようになった今でも、目の前の業務や所属する組織の活動の目的との相違と自身のパーパスとにどう折り合いをつけるべきか悩むことがあります。今回の名和さんのお話の中でその悩みについて考えるヒントをいただけたと感じています。まず所属組織のパーパスと自身のパーパスが完全に一致していなくても良いということ。所属する組織を自分の目的達成のためのプラットフォームと捉え、キャリアをクラフトする目線をもち、必要に応じ組織を変えていけばいいのだと前向きに捉えることができました。そして組織の中での自分の役割を意識すること。自身の活動が組織の達成しようとする目的に繋がっていることを意識して働くことで、組織の中での自分の存在意義を強く感じられるようになる。そのことに共感できれば自身のパーパスと重なっていくかもしれない。そして周囲の人たちとの共感により、組織のカルチャーとなって定着すれば、会社のパフォーマンス工場に繋がり、その結果として自身の思いを実現するためのプラットフォームとしての価値も高まるかもしれない。締めくくりに名和さんからのメッセージにもあったように、学んだことを明日から行動に移していきたいと思い、現在の職場での一つ一つの業務の会社にとっての最終的な目的と自分自身とチームにとっての学びの自分なりの定義を書き出してみました。その場その場で組織における自分の役割を果たすと同時に、中長期的な目線を持ちキャリアクラティングを実践していきたいと思います。
MINT1期生 Akiko FISH
私は大学に所属しながら、自分の研究テーマである社会課題解決やSDGsに関するワークショップを企業で実施してきました。
そこで企業や団体が「パーパス、パーパス」と言っているのに、そこにいる1人ひとりのパーパスは問われないことが不思議で、個人のパーパスをインタビューしながら言語化する「マイパーパスセッション」の活動を始めました。これまで130人近く「マイパーパス」を共創させていただき感じたのは、ありのままの自分を口にするのはちょっと勇気がいるけど、出来上がった言葉を見ると、皆さんすごくいい顔をされるということ。1人ひとりに大切にしたいことがあって、それぞれの願いがある。まずその違いを知ることを起点にして、パーパスを重ねる時にお互いを認め合ったり、助け合うことが始まるのかもしれません。名和さんのお話で興味深かったのは「個人と企業のパーパスが完全に重なってしまっていることも、健全ではない」ということ。パーパスが重なっていない時に感じる不安定さや居心地の悪さが変化の原動力になる、という言葉は、自分の中で言語化しきれていなかった「変化」や「成長」について、示していただいたようでハッとしました。
著書『パーパス経営 30年先の視点から現在を捉える』はボリュームもあり、眉間にしわをよせて読んでいたのですが、打ち合わせなど事前のやりとりからも、名和さんの誠実であたたかなお人柄を知ることができ、「志」を口にされることがとても自然に感じられました。


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