介護小説《アリセプト〜失われる記憶》⑥
年齢は大正14年生まれで、90になるかならないかだった。
高級住宅なので、内装はとても綺麗だったが、使われていない部屋は散乱していて、昔描いたような絵画が沢山あった。
こんなに大きな家に一人暮らしなのかと、僕は印象を受けた感じだった。
逆に大きな部屋が孤独なのかなと感じる程であった。
朝の食事を社長が作り、女性に提供した。
「ありがとう」
と、言って黙々と女性は食事をしていた。
食事の最中にトイレの掃除や他の部屋の掃除を井上さんはしていた。
トイレ掃除と部屋の掃除が終わると、女性は全て食事を終えていた。
「ありがとう御馳走さまでした。」
社長が、
「今日は体調悪くないですか」
など日常の話をして、そこの家の仕事は終わった。
その後、記録をして家を出て行く事になった。
始めてのヘルパーの仕事は見ているだけだったが、お手伝いさんみたいな事をすればいいのかと感じた。
楽しいとは思わないが、やる事を決まっていて、それをこなせばいいのかと感じた。
初日は、もう一見だけ行く事になった。
社長からは、
「次は私ついて行けないけど、井上君と一緒に頑張ってね」
と言って、社長は会社に戻った。
社長は介護業界は長いのは知っていたが、井上さんも介護業界が長い方だった。
介護福祉士、ケアマネージャーを取られていた。
「今日、初めてだよね。なんとなくでいいよ。あんまり考えすぎずに」
笑顔で言ってくれ、とても優しい先輩なので心強かった。
次に行く所は僕が想像している所と違った。
10階建てだが、築年数が経っているアパートだった。
利用者は独居だった為、鍵を下のポストから鍵を持っていき、8階まで井上さんと登っていった。
井上さんは僕に
「初めての人は結構ビビるけど、慣れるから」
と言われ、部屋に入ると、
老女はソファーで騒いでいた。
「私なんて、もう駄目だ。死にたい」
と、言う声が聞こえた。
すると、井上さんが、
「どうしたの。Hさ〜ん今日は体調が悪いの?」
するとHさんは何も答えなかった。
僕は先ほどの人が、初めての老女だったので、びっくりというよりも唖然とした。同じ老人でもこんなに違うのかと…。確かにコンビニでもせっかちな客もいるが、その次元とは違ったのだ。
介護を本気で変えたいので、色々な人や施設にインタビューをしていきたいので宜しくお願いします。