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【裏法務系AC2021】弁護士のメンタルヘルス~日本・海外の調査・研究結果等~

中の人としては2回目の参加になります裏LegalACです!

本記事は、裏 法務系 Advent Calendar 2021のエントリー3日目です。

普段からお世話になっております遠藤千尋先生からバトンを受け取りました。

1.自己紹介と本記事の概要

はじめまして。弁護士向けカウンセリングを提供しておりますAmiです。本記事のテーマである弁護士のメンタルヘルスに関する課題を解決するために、オンラインカウンセリングを提供しております。

本記事では、多くの弁護士の方々が課題に感じられていると思われる弁護士のメンタルヘルスについて、日本と海外の調査・研究結果をご紹介するとともに、メンタルヘルス不調のチェックポイント及びセルフケアの方法をご紹介します。

2.日本の調査・研究結果

日本の調査・研究はあまりなされておらず、日弁連が2011年に行った第17回弁護士業務改革シンポジウム第9分科会の基調報告が最も詳細な調査かと思われます。その他には弁護士ドットコムさんが行ったアンケート調査ぐらいかと思います。

ここでは、第17回弁護士業務改革シンポジウム第9分科会の基調報告の内容をかいつまんでご紹介します。

ストレス等の心理的な不安が原因と思われる不調としては以下の5つが挙げられます。

ストレス症状

また、ストレス等の心理的な不安の三大要因は以下の通りです。

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ストレス等による不調とストレス等の三大要因をご覧になっていただければ、どこか心当たりがあることかと思います。Twitterを拝見していても、業務量が多すぎる・起案に着手できない・ボス弁との関係・新件が少ない等皆さんのお悩みにどこか引っかかるものばかりだと思います。

3.海外の調査・研究結果

海外では、弁護士のメンタルヘルスに関する調査・研究が日本に比べると多くなされております。そこで、アメリカとイギリスの論文から、調査結果の一部を紹介します。

まずはアメリカ法曹協会(ABA)の協力により12825人もの調査結果をベースに作成されたThe prevalence of substance use and other mental health concerns among American attorneys(著者:Krill, P. R., Johnson, R., & Albert, L. 、以下「アメリカ論文」といいます。)の一部をご紹介します。

アメリカ論文では、飲酒問題、メンタルヘルス(うつ・不安・ストレス)、薬物乱用の3項目に分けて調査がなされました。そこで、本記事に特に関係の深いメンタルヘルスの調査結果の概要をご紹介します。

①男性の方が女性に比べてうつの重症度が高い。                                  
②女性の方が男性に比べて不安とストレスの重症度が高い。               
③年齢と勤務年数が高いほど、うつ・不安・ストレスの重症度が低くなる。      
④役職が高い人の方が、メンタルヘルスの状態が良好である。 
⑤飲酒しない人の方が、うつ・不安・ストレスの状態が良好である。

男女でメンタルヘルス不調の症状の出方が異なるというのは普段なかなか気付かないところではないでしょうか。

次に査読付き論文である Prevalence and predictors of secondary trauma in the legal profession: a systematic review(著者:Iversen, S., & Robertson, N、以下「イギリス論文」といいます。)の一部をご紹介します。こちらは調査ではなく弁護士のメンタルヘルス(ストレスと二次的トラウマ等)に関する10本の論文を分析したものとなります。

結果の概要としては次の通りです。なお、以下で頻出する「二次的トラウマ」とはトラウマを耳にすることやトラウマがある人の対応をすること等からトラウマを受けることをいいます(非常に簡単な説明のため厳密には異なる部分もあるかと思います。)。

①10本論文の内、9本の論文は、ストレスと二次的トラウマの普遍性を報告した。
②弁護士の二次的トラウマの発症率はソーシャルワーク、心理職、管理サポートスタッフより高い。
③刑事事件を担当している弁護士の方が担当していない弁護士よりも二次的トラウマの発症率が高い。
④男性より女性の方が、PTSD症状、バーンアウト、ストレスをより良く経験する(なお、効果量がない)。
⑤神経質又は協調性の高い性格を持つ弁護士の方が二次的トラウマに経験することが多く、誠実性及び外向性の高い性格を持つ弁護士の方が、二次的トラウマに経験することが少ない。
⑥(一次的)トラウマを経験したことがある弁護士の方が、二次的トラウマを経験する倍率が高い。
⑦年齢及び勤務年数並びに二次的トラウマの発症に関する関連性は見つかっていない。
⑧トラウマの体験が多いほど、PTSDの発症のリスクが高くなり、生活の質の低下、メンタルヘルス不調に繋がる可能性がある。

性格によって二次的トラウマを経験する可能性が異なるのは、皆さんもわかっておられたことかと思いますが、性格は変えられないことが多いので、神経質又は協調性の高い性格をお持ちの方は二次的トラウマを経験する可能性を考慮に入れて業務をされると良いかもしれません。

海外の結果ではありますが、日本の弁護士であっても、かなり共通する部分が多い内容のように思います。人によっては色々と気になる内容が含まれていると思いますが、そんな方はまずご自身のメンタルヘルス不調が起きていないかを以下のチェックポイントで簡単に確認してみませんか?

4.メンタルヘルス不調のチェックポイント

弁護士のためのメンタルヘルスガイダンスブック(監修:福西勇夫、発行:日弁連、発行日:平成27年10月)から、メンタルヘルス不調のチェックポイントをご紹介します。いずれかに当てはまれば、メンタルヘルス不調かもしれません。

□ 依頼者からの連絡が怖い。
□ 依頼者に連絡できない。
□ 手帳に予定を書き込めない。
□ 予定のダブルブッキングやトリプルブッキングが出る。
□ 事務所に出たくない、事務所を出たら戻りたくない。
□ ボス弁に報告できない。
□ 期日に行けない。
□ 弁護士会の会合に出られない。
□ 弁護士会務の負担が重いと感じる。
□ 事務員やイソ弁を怒鳴る。

5.メンタルヘルスのセルフケアの方法

ここでは簡単にできるものをご紹介しますので、是非お試しください!

日常的に取り入れやすい方法は以下のとおりです。

軽い運動、睡眠、人と会って話をする、好きな食事をとる
腹式呼吸法(息を4秒吸い、4秒止め、8秒かけて息を吐く等。自律神経を整えることに効果があるとされています)

休日等の時間がある場合には以下の方法も考えられます。

旅行、登山、感情を吐き出す(ドラマ・映画を見て泣く・笑う等)
自分の考え・感情を記録する(アプリやメモ帳等の利用)
瞑想(マインドフルネス瞑想等)

また、第17回弁護士業務改革シンポジウム第9分科会の基調報告では、色々なセルフケア方法(ストレスを溜めない工夫)の紹介がありましたので、上位3つをご紹介します。

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仕事でお忙しいと思うのですが、何とか時間を作り、睡眠・休日・趣味の時間を確保するのがよさそうです。

6.最後に

メンタルヘルス不調になってから対策をされる方が多いと思うのですが、不調になってからの対応は非常に大変です。弁護士業務で置き換えますと、企業法務のご経験のある方であれば、皆さん一度はが「どうしてもっと早く相談してくれなかったのか」(そうすればもっと早く解決できた・損害が小さく済んだ等)と感じたご経験があるかと思います。メンタルヘルス不調も同様です。できる限り早い対応・予防が望ましいです。

そして、弁護士業務は身体と精神のどちらも健康であって継続できる仕事であると思いますので、身体だけでなく、精神にも気を付けていただきたいです。

もしメンタルヘルス不調でお悩みであれば、Amiやお近くのカウンセリングルーム、日弁連のカウンセリング、各単位会のカウンセリングをご利用されてみてはいかがでしょうか?

最後までお読みいただきありがとうございました。

次はNakagawaさんです!


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