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自営業の妊娠や産休って何が大変なの??~女性弁護士が語る妊娠・産休の苦労~

はじめに

(1)何故書こうと思ったか

「自営業の妊娠や産休に関する情報があまりない」

 私が子どもを持とうと思った時にまず困ったのは、役に立ちそうな情報が少なかったことです。やはり、働く女性の多くがなんらかの形で雇用されている場合が多いので、インターネット上で提供される情報も被雇用者中心であり、自営業の情報、特に弁護士に関する妊娠・産休の情報を見つけることができませんでした。

 また、一般的に自営業として分類される弁護士ですが、私の周りの女性弁護士で出産経験のある人の多くは、次の4種類(重複している場合もある)に分類されていると感じました。(あくまで主観です)

 ①独立前のイソ弁(事務所に雇われている(居候している)弁護士。給料制だが個人事業主扱い)
 ②配偶者などのパートナーも弁護士
 ③インハウス(企業の法務部などで会社員として働く弁護士)
 ④産休に入ってから年単位で仕事をしなくても経済的に安定している

 ①の場合には、比較的仕事を他のメンバーに任せやすいですし、③の場合は法律上産休・育休制度もあるので、やはり出産・育児はしやすいと思います。②と④は、パートナー1人の収入や実家に支援を頼める等の理由で、年単位で仕事をしなくても経済的に困らない場合です。

 私は、法律事務所を経営する弁護士ですが、貯金や夫の収入だけで何年も仕事をしないで済むほどではなく、残念ながら(?)、私はどれにも当てはまらなかったので、自分でどうにかするしかない状態でした。

 体当たりで妊娠の時期を過ごす中で、「少数ながら、私のような境遇にある方もいるかもしれない」、そう思い、今回の記事を書くことにしました。また、仕事や私生活でそんな状況にある妊婦さんが周りにいるという男性にも、妊娠期の状況を知る機会になると良いなと思っております。

 私が不器用にも、体当たりでいろいろ経験した内容を記事にすることで、なんらか役に立つことがあれば、と思います。

「何が辛いのか、どれくらい大変なのかがわからないことがいちばんのリスクだと思った」

 人間、わからないことには備えようがないので不安です。私が子どもを持ちたいと思った時も、一体何が辛くて、どれくらい大変なのかがわからないこと自体がリスクでした。

 これまでの実際のところについては、下記にご紹介しますが、それなりに辛いことや大変なことがあり、それらの多くが、妊娠前には予測不可能なことでした。

 さきほども述べましたが、「こんなことがありそう」ということをあらかじめ知っておけば、もう少し対策を取ることができたり、少なくとも心構えはできるかな、と思います。

(2)何を書くのか

 今回の記事では、妊娠の各時期に沿って、その時何をして何を思ったのかをその時期の身体的状況と合わせ、お伝えしていきたいと思います。

 この記事を書いている時点では妊娠38週目ですので、妊娠してから臨月までの期間についてのご紹介になります。控えめにいって、とっても辛かったです。ただでさえ辛い時期に、新型コロナウィルス(以下、「コロナ」といいます)の影響からの自粛生活と感染の恐怖は堪えました。しかし、コロナのおかげと言ってはなんですが、オンラインで出来ることが急に増えました。主に妊娠中期には、そのようなオンラインでの仕事をどうやっていたかについてもご紹介したいと思います。

 なお、この記事の焦点は、主に妊娠各時期の筆者の内面と仕事との向き合い方にあります。ですので、妊娠・出産に関する各種制度については基本的に取り扱いません。

(3)簡単な自己紹介

 筆者は、弁護士6年目、30代半ばで、男性弁護士2人と2020年1月から事務所を共同経営しています。

 2019年4月までの約3年間はインハウスをしており、その後、今とは別の事務所のいわゆる経営者弁護士を経て、今の事務所を作りました。2019年11月の妊娠発覚時から今まで、経営者弁護士ということになります。

 私の夫は全く法曹業界に関係のない地方公務員であり、パートナーの収入だけで現在の生活を保てる保証はありません。私自身も仕事をアイデンティティとしている面もあるので、妊娠前からできるだけ長く働き、できるだけ早期に仕事復帰をすることを目指していました。まだ復帰ができるかは未知数ですが。。

 今回の記事では、イソ弁でも、インハウスでもない、(まだ全然稼げていない)経営者弁護士が妊娠・出産までの過程でどんなことを感じ、どんなふうに過ごしてきたかをお伝えしたいと思います。

1 妊活以上不妊治療未満

(1)35歳一区切り説(自説)

 去年会社を辞める時には、複数人から「子どもを産んでから辞めたら?」と言われました。実際、制度面の充実具合からしたら、その通りだと思います。

 しかし、20代からの謎の持論として、35歳までになんらかの形で独立するか、この先の道を定めたいと思っていた私は、会社の中にその後のキャリアを見出せず、独立することになりました。

 一方で、子どもを持つ場合にも、35歳というのは重要な分岐点でもあると思います。日本産科婦人科学会によると、35歳での初産は「高齢出産」に分類されます。その年齢を境に、流産や胎児の各自疾患、更には分娩時の死亡率などが高まることが統計上示されているのは事実です。

 以上のように、「さあこれから仕事を一層頑張ろう!」と思うものの、生物学的なリミットから、ひとまず子どもを持つことに真剣に取り組む、というのが、私の去年の春の状況でした。

(2)不妊クリニック体験

 自分の年齢を考えると、いわゆるタイミング法(妊娠方法の一つ)に取り組む前に、まずは、自分とパートナーの「妊娠力」がどのくらいかの確認が必要だな、と思い、不妊治療のクリニックにまずは行ってみて、検査をすることにしました。

 不妊かどうかがまだわからなかったので、どんなクリニックが良いのかの情報探しから時間がかかりました。幸い、知人に不妊治療の当事者の方がいたので、ポイントを教えてもらい、自宅から通いやすい距離のクリニックを見つけました。

 「不妊治療は辛い」と話に聞いていましたが、これが想像以上でした。

 実際には薬物を使うような本格的な不妊治療開始直前に、私の妊娠が分かったので、本当の辛さを経験しているとは言えないものの、クリニックへの通院期間(2019年7月〜10月)に体験したことをまとめると下記になります。

 ①待ち時間が長く、仕事への影響が大きい

 一番困ったのはこれです。クリニックによって違うと思いますが、私が通ったクリニックは事前予約ができませんでした。診察自体は9時に始まるのですが、8時から診察の順番を取ることができ、早い方は7時45分くらいから順番待ちをしているようでした。

 8時にクリニックに行って順番を取り、毎回の血液検査と診察、看護師からの説明なんかを入れると、会計まで終わるのは早くて11時、遅いと13時。仕事を理由に途中で抜けるのは不可だし、とにかく時間がかかります。半日は潰れていました。時間に融通がきく自営業とは言え、待合で十分な仕事ができるわけもなく、かなり仕事にも影響が出ました。

 ②女性側の通院の負担がとにかく大きい

 通ったクリニックで行ったのは、夫婦の生殖機能の各種検査〜タイミング法の試行までで、その後の薬物治療や人工授精までは行いませんでした。それでも、私は合計で7回ほど、最低2時間半〜半日かけてクリニックに通いました。そのうち夫が一緒だったのは2回です。また、通院スケジュールが読めないことも負担でした。検査内容によっては、診察に行ったその日に「じゃあ明日も来てください」といきなり言われることもあり、調整が非常に大変だった記憶があります。

 ③合わないクリニックだと、行くこと自体辛い

 実績のあるクリニックを選んだのですが、私達には合わないクリニックでした。何せ、医師の説明がシステマチックすぎる。さらに、毎回50人から100人前後の女性が、誰と話すでもなく、とにかくじっと自分の順番を3時間以上待っているという不妊治療クリニック特有の独特な雰囲気も相まって、私は3回目以降、クリニックに行くことにかなりストレスを感じるようになっていました。医師の態度については、ある意味、自分のクライアントに対する接し方の反面教師とさせていただきました。

2 妊娠初期 悪阻と妊娠報告

(1)謎の不調と「自分の体調くらい」

 クリニックに通っていくうちに、周りに影響されたのか、私も「絶対妊娠してやる」的な心境になってきました。ですが、今のクリニックにこれ以上通うのも嫌だったので、11月には別のクリニックに行くことになります。

 ちょうどこの2019年10月から11月までの間、私は謎の体調不良に悩まされていました。とにかく毎日だるいし、咳は止まらないし、微熱が続きます。何度内科を受診して薬をもらって、少し休んでみても良くならず、大切な会食をドタキャンしてしまったこともありました。その際は自分の体調のコントロールという、社会人として最低限のこともできていないと非常に落ち込みました(実際、お叱りを受けることもありました)。

 しかし、この謎の不調はどうやら妊娠の超初期状態だったことが、2件目のクリニックで発覚しました。妊娠4週目から15週ぐらいに悪阻(つわり。妊娠による酷い体調不良)が始まるそうですが、私の場合は、受精前後の時期から体調不良が始まっていたようです。私が妊娠ではなく風邪だと思ってしていた対策は、全く的外れであり、また自助努力ではどうしようもなかったことだったのです。

 妊娠できたことが分かって、かつ不調の原因が自己管理のせいではなかったことはよかったものの、「ガッツリ不妊治療してやる!」と意気込んでいたので多少拍子抜けでした。また、この経験からは、妊娠の症状は本当に人それぞれであることを強く感じましたし、妊娠期全般を通じても、その症状の個別性は常に感じています。

(2)妊娠による体調不良の時期

 なお、妊娠をしたことがない方にとっては、「妊婦が妊娠期間中にいつ体調不良なのか?」というのが疑問かと思います。

個人的にはそのお答えは

「いつでも不良であるが、特に不良なのが、妊娠初期の悪阻がある時期と、妊娠後期のお腹が大きくなった9、10ヶ月である。」

であると思います。

妊娠初期の悪阻の症状で代表的なものは「吐き気」ですが、これも空腹の時に吐き気が出る場合や逆に何か食べると気持ちが悪くなる場合もありますので、非常にバラエティがあります。また、妊娠後期は、子宮が胃を圧迫するくらい大きくなる影響で、「後期悪阻」と言って、妊娠初期の悪阻と似たような症状が出る場合もあります。私の場合には、悪阻の前に妊娠超初期の不良もありました。別人をお腹の中で育てているのですから、母体に全く影響がないわけはありません。妊娠の影響も非常に個人差がありますので、全く悪阻がない方もいらっしゃいますが、その場合にも、無理をしてしまうと切迫早産の可能性があります。ある意味で、体調不良であるから、無理をせず、妊娠を継続できているのかもしれない、と思いました。

(3)安定期まで妊娠報告はしないもの?

 11月中旬に妊娠が分かってから、謎の風邪のような症状は無くなったのですが、代わりに出てきたのが悪阻です。

 入院するほどではないものの、とにかく朝起きてから寝るまで気持ちが悪いし、だるいし、眠い。加えて、空腹になると気持ち悪くなる「食べ悪阻」だったので、お腹が空いている時ははとにかく辛かったです。

 そんな中ですが、「妊娠は病気ではない」ですし、日本社会では妊娠の報告は安定期(妊娠から5カ月程度が一般的)に入ってからという風潮もあるので、12月に入るまではほとんどの人に妊娠を告げず、ひたすら我慢して仕事をしていました。この時期はお腹も出ていないので、電車で席を譲ってもらうこともできず、死んだ魚のような目をして電車に乗っていたことと思います。

 しかし、ワンオペ自営業の限界はすぐ来ました。どうしても打ち合わせ場所までの移動が辛いことが増え、妊娠から3カ月程度経った2019年12月以降、なし崩し的に妊娠について報告することも増えたのです。そうしたこともあり、この時期から、仕事は原則オンラインでやらせてもらうことにしました。これが、結果としてコロナ対策にもなったので、怪我の功名と言えるかもしれません。

 妊娠初期、しかも高齢出産の私の場合には流産するリスクが高かったので、初期の段階でお伝えし、その後また残念な結果をご報告しなければならないことへの恐怖がありました。そのため、最初は、妊娠していることを伝えるのがとても怖かったことを今でも覚えています。しかし、悪阻に効く薬があるわけではなく、私が体調管理を怠っているせいでは基本的にないことですので、正直にお伝えしてよかったと今は思っています。代替があまり出来ない自営の場合には特に、安定期ではなく妊娠初期(一般的に妊娠4カ月ぐらいまで)のうちに、妊娠したことと今後の見通し(いつから産休に入るか、その間の体制はどうするか)についてもお伝えするのが、クライアントにとっても良いことかなと思います。

(4)悪阻の時期に欲しい「産休」

 今思い出しても、この11月中旬から今年2月くらいまでの間が、現在の臨月(7月中旬)と並んで、最も辛い時期だと言えると思います。もし、また子どもを持ちたいと思った時には、悪阻の時期にも「産休」が欲しいと本気で思っています。難しいのは、そもそも妊娠初期に公式な「産休」はないですし、人によっては妊娠の発覚から悪阻が始まるまでの期間が短いので、バックアップ体制を作っている余裕がないことが多いということだと思います。

 自分の気力ではどうしようもないことなので、出来ることとして、日々の業務を出来るだけ効率化・共有可能な状況にしておくことの重要性を感じました。

 ちなみに、この悪阻の時期は、仕事はしていたものの、活動可能時間が極端に短くなり、夜は18時以降だと本当に仕事にならず、10時には寝て、翌朝も9時以降にならないと動けないような状況でした。そのため、稼働時間がそれまでよりも数時間短くなり、非常に辛かったです。ですが、そもそもがワーカーホリック状態だったので、結果的に労働環境が改善できたともいえます(笑)。

3 妊娠中期 コロナと在宅勤務の可能性

(1)突然来た「安定期」とコロナ

 永遠に続くかと思われた悪阻ですが、ある朝起きたら唐突に終わっていました。目覚め=気持ち悪さの開始だったのですが、38度の熱が一気に引いたように、気持ち悪さが引いていました。これがいわゆる妊娠中期に入った頃と一致するので、人間の体は良くできているな、と思いました。また、これで仕事もやりやすくなる、と思いました。が、ちょうどこの2月下旬のタイミングで、コロナの影響が日本にも出始めていたのです。

 当たり前ですが、胎児はお腹の中にいても母体とは別の生き物です。別の生き物である胎児を攻撃しないように、、妊娠中は母体の免疫が下がるメカニズムになっているそうです(実際自分も、そう感じることがありました)。そもそも「妊婦は免疫が落ちるので、インフルエンザにかからないようにしよう」、というような、病気予防の重要性はコロナ以前から言われていたことです。また、胎児への影響から、妊婦はコロナに効くとされるアビガンをはじめ、使える薬が制限されています。緊急事態宣言以後は、妊婦の出社停止を含めた配慮が叫ばれるようになりましたが、その対応は遅きに失していたと思います。

 そんな状況でしたので、悪阻は終わっても、引き続き在宅での仕事が続きました。私は仕事で接するのが圧倒的に男性の方が多いので、一般的な情勢よりも早い段階で、リアルでの面談を断ったりすることは、それなりに勇気が入りました。実際にも、不便をかけたと思います。ですが、理解を示してくださった方が多かったので、とても助かりました。

(2)身体の変化と心境の変化

 妊娠6ヶ月目に入ると、いよいよお腹も出てきて、誰が見ても妊婦だという体型になってきました。悪阻はないものの、浮腫(むくみ)などなどのマイナートラブルが出てきたのもこの時期です。

 困ったのは、悪阻がないとはいえ、今まで普通に参加できていた夜の勉強会や、弁護士会の委員会、流行っていたZoom飲みなど、妊娠前であれば積極的に参加していたイベントに参加できなくなったことです。「できなかった」というのは、体力が落ちたことも原因です。実際、妊娠初期ほどではないものの、体力は格段に落ちていました(妊娠前の3分の2以下のイメージ)。また、メンタル面でも、アップダウンが激しくなったり、余裕がなかったりしました。こう言った変化も、実際に妊娠してみないとわからないですし、仮に妊娠の経験者であっても、その症状は非常に個別的なので、必ずしも理解が得られるとは限らないのが難しいところだと思います。

 また、この頃から、仕事の効率が落ちてきたように感じました。欧米では、妊娠中・産後の女性の認知能力が低下する現象を「ベビーブレイン」あるいは「マミーブレイン」というそうです。

 私の場合は、とにかく要領が悪くなってしまい、ケアレスミスをしてしまう恐怖から、いつも以上に確認作業に時間がとられ、結果として仕事時間も長くなり、勉強会やセミナーに参加する時間がなくなるという悪循環がおきました。

 医師の知り合いからは、「安定期なんてない」という話も聞きます。確かに悪阻がないことで楽にはなったのですが、やはり妊娠前とは違うんだ、と実感させられたのが妊娠中期でした。

4 妊娠後期 セミナー講師とコーチング

(1)まさかのセミナー講師ラッシュ

 3ヶ月に一度、オンラインでのセミナー講師の機会をいただいたのですが、いよいよ日本全体にリモートワークが広がったこともあり、5月6月は、思いがけずオンラインでのセミナー講師をさせていただく機会が多くありました。これは、コロナによる影響以外の何ものでもないので、その点では、私にとって仕事のチャンスだったと言えるでしょう。

 妊娠後期に入っていよいよお腹が大きくなり、物理的な移動も難しかったので、自宅からすぐに接続し、業務開始となるのはとても助かりました。反面、特に6月は多いと週に3回セミナーがある状況で、無理をしてしまったと思います。 

(2)今しかないと思ったコーチング

 この時期取り組んだこととして、コーチングのコースを受講したことがあります。実際には5月末に申し込み、ただでさえ忙しかった6月に、4クラス合計40時間を受講し、7月頭に認定試験を受けました。現在、無事合格して、認定コーチになりました。

 こんなに無理をしたのは、いくつか理由がありますが、仕事面でいうと、今回の妊娠・出産と今後の育児でどうしても減ってしまう稼働時間をカバーする付加価値をつけたい、という切実な思いがあったからだと思います。

 実際にコーチングを学んでみて、その将来志向のアプローチは、非常に有益でした。また、通常の弁護士業務はコンサルティング的要素が強いこともあり、コーチング的な関わり方と、コンサルティング的な関わり方を意識的に使い分けられるようになったのも、大きな収穫と言えます。

(3)取り残される恐怖

 妊娠中期に入る頃には、臨月に入る7月から9月は産休に入ることを周りに宣言していました。実際は7月に入ってからも自営業らしく諸々があるにしても、基本的には仕事をしない日々になりました。自分の産休中の対応については、妊娠がわかった頃から体制のあり方を模索し、実際6月中にはほぼ引き継ぎを完了しました。しかし、やはりワンオペで対応していた期間が長かったし、弁護士業務も個別性が高いことがあるので、クライアントや引き継いでいただいた先生方にはご苦労をかけているのではないかと思い、今も申し訳ない思いです。



 考えてみると、弁護士になってから、仕事の予定がない日もしくは一度も仕事(メールなどを含む)をしなかった日は、3日以上はなかったと思います(例え海外旅行中でも)。自営業らしいと言えばそれまでですが、そのような働き方をしていた私が、形上は7月から9月までの3ヶ月間、仕事をしないことができるのか、仕事をしないことはできるとして、その後無事復帰できるのは、非常に不安でしたし、今もその不安は拭えません。取り残される恐怖、と言っても良いと思います。

 しかし、実際に臨月になってみると、これまで以上にどうしても頭がぼーっとしてしまい、とても業務をこなせる状況でなくなりました。労基法で産前6週間、産後8週間の産休を定めているのも、それなりの理由があるのだな、と実感する今日この頃です。

5 まとめ-教訓と情報戦-

(1)宣言は大事

 実際に妊娠して出産を目前に控える段階になって思うのは、特に自営かつ経営者である場合、制度が自分を守ってくれることはないので、自分から宣言することが重要だということです。

 産休プランも、その間の体制も自分で考えねばならないし、協力してくれる人を見つけるのも、クライアントに納得感を持ってもらうのも自分の責任です。そのためにも、妊娠の初期の段階から、周りに妊娠中であることや、その後の見通しをしっかり伝えていくことが重要だと思います。

(2)産休は妊娠後期だけでなく悪阻のときも取ると楽

 スムーズに妊娠期を過ごすためには、つわりの時期に、適切な期間休めることも重要ではないかと思います。十分ではないにしても、被雇用者であれば、雇用均等法により休暇が認められていますが、もちろん自営にそんな制度はありません。

 病気ではない、というのはその通りですが、薬も飲めない状況で死んだ魚の目をして仕事をするのはあまり健康的だとは思えません。今回の妊娠期では余裕もなかったのですが、自分以外の周りの人の場合であっても、悪阻の時期に上手く休めるような仕組みも考えたいなと思っています。

(3)謝ってばかりじゃなくて、本当はもっと「辛い」と言いたかった

 妊娠期を通して、精神的に辛かったのは、いろいろな方にご迷惑をかけることについて謝ってばかりいた、ということです。

 もちろん、皆さんとても理解がある方々で、謝る必要はないと言ってくださいましたが、それでも、打ち合わせの時間が限られることや、リアルではなくオンラインでお願いすること、直前でのキャンセルを告げる時、産休中稼働できないことをお伝えする時、産休中の対応をお願いする時、その時々には非常に申し訳なく思いました。本当は、もっと、「辛い」と言いたかったなと思います。でも、性格上それはできませんでした。せめて今度は、もっとスムーズな移行ができるように、より工夫をしたいと思います。

(4)この経験を活かすしかない

 「母は強し」という言葉がありますが、誰も、母になるだけで強くなれる人はいないと思います。母になる過程で、本当にいろいろな、多くは辛いことがあり、それを否応なく乗り越えることで、強くなっていくのだと、今回の妊娠期を通じて感じました。

 仕事のキャリアを男性と比較した場合、妊娠・出産は、いろいろな面でデメリットが大きいと言わざるを得ません。しかし、妊娠期を通じて得られた様々な工夫の仕方や、悩み・辛さを感じたこと自体が、今後のキャリアにとってきっと役に立つ経験ですし、またそうしていかなければと今は思っています。また、本当にどんな仕事でも、1人でできるわけではないと痛感したことも収穫だったと思います。もっというと、妊娠に限らず、突然の病気や事故などの何らかの原因で仕事を中断することは、男女問わずあります。そういった事態にどう対応するのか、またその事態をピンチではなくチャンスにどう変えていくのか、そんな姿勢が問われていると感じました。

6 今後の展望

 私自身、一番気になっているのが、「私はいつ仕事に復帰することができるのか?」ということです。現時点では、産後8週間後の復帰を目指していますが、そもそもいつお産になるかわからないですし、産んでみないと、子どもの様子や私自身の消耗具合もわかりません。やはり出産は今でも命がけであり、不確定要素が非常に多いです。

 もし、機会があれば、復帰までの道のりや、実際のところを記事にできればと思っています。

 拙い文章でしたが、私の体当たりの経験が、少しでもお役に立てばと思います。

(筆者:ちひろ先生@弁護士)

※本記事は、Amiからに ちひろ先生@弁護士 様にご協力をお願いして書いていただいた記事となります。

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