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元検事の弁護士に聞く、検事と弁護士のストレスの違い 埼玉県の工藤啓介法律事務所工藤啓介弁護士へのインタビュー

埼玉県さいたま市にある工藤啓介法律事務所の工藤啓介弁護士は、元検察官としてのキャリアがあり、現在は刑事弁護を中心にご活躍されています。2023年7月、検察官時代の苦労、弁護士と検察官とのストレスの違いなどをインタビューしました。法曹の仕事を2つの視点から語っていただいた、貴重なインタビューです。

(聞き手:岩田いく実)


■先生のご経歴を教えてください

青森県に生まれ、高校まではのどかな県内で暮らしていました。中央大学法学部を卒業後、1996年に検事になりました。東京地検、浦和地検、大阪地検や名古屋地検を経験し、2007年からは、埼玉弁護士会に弁護士登録、現在は自身の名を冠した法律事務所を経営しています。

1.検事と弁護士、どっちが良い?

■検事から弁護士へ転身されるきっかけはありましたか

検事の仕事は経歴のとおり、異動があります。そして、ある程度「天井」も見える世界です。誰が、どのように出世していくか、ある程度見立てられます。検事として11年、経験を蓄積していましたが、これから先もこの生活を続けるのかな、と疑問を持ちました。
 
弁護士として刑事弁護を中心に仕事をしてみるのも面白いかもしれない、と思い転向しましたね。長年検事として仕事をしていると、弁護士の方が自由に見えることもあったのです。

■検事と弁護士、正直どちらが大変ですか。

両方やってみて思うのは、、どちらも大変ですね。
検事には検事の、弁護士には弁護士の大変さがあります。例えば、検事の世界は司法試験の結果に左右されるので、弁護士ほどの自由さはないですよ。頑張っても報われないことも多い。他方で、弁護士の世界は自由さがありますが、独立している以上は黙々と事件を受任し、経営していく必要がありますからね。組織の中にいた方が良かった、と感じるヤメ検もいるんじゃないかな。

■検事の経験は弁護士の仕事に活きていますか?

私は検事としての経験を生かしつつ弁護士をしているので、過去の経験があって良かったと感じることが多いです。特に刑事事件は、しっかりと事件を「見立てる」必要がある。証拠をどのように見て、事件の筋をどう読むのかには自信がありますが、検事の経験がなかったら違っていたと思います。

■検事時代にストレスを感じたことはありますか?

検事は数十件の事件を抱えることがあります。また、正義感もある。起訴か不起訴か、重い決断の連続です。これは弁護士とは違ったストレスですね。最近検事の不祥事も何かと話題になっていますが、「歪んだ正義」に走ってしまう気持ちも、わからなくはないのです。検事は使命感を背負っていますからね。
 
私は駆け出しの検事だった頃に、先輩検事に「事件に命を懸ける必要はない」というアドバイスをもらいました。力を抜け、と言う意味だったのですが、あの言葉のおかげでストレスに潰されずに検事を続けられたと思っています。駆け出しの頃はオドオドしていたんですが、検事歴も3年を超えたことには少し自信が持てるようになりましたね。

■検事は組織の中で働きます。今は個人の法律事務所を経営されていますが、どのような違いを感じますか。

先輩・後輩のような関係が弁護士は作りにくいですよね。特に個人事務所だと。弁護士会での横のつながりなどがないと、相談できる相手を見つけにくいように感じます。会合とか飲み会とか、人と会う機会ってやっぱり大切なんですよね。
 
私の場合は検事時代からの知人や友人もいて、事件の相談をしたり、されたりすることも多いので、個人事務所の中でも相談できる相手は多い方かもしれません。訴訟で相手方となる若手の先生たちを見ていると、もう少し相談できる人はいないのかな、と感じたりしますよ。

■若手の先生のどのような場面を見ると、そう感じますか。

依頼者との信頼関係が築けていないのかな、と思う場面は調停などで見かけますよ。あと、話し方が一方的で、事件の解決を見据えていないような若手の先生もいます。交渉は弁護士間であっても威圧だけでは上手くいきません。経験不足がゆえに実力が足りないのは、どのような弁護士も最初に経験しますが、だからこそ先輩や同期の弁護士にも相談しながら自分を鍛える必要があります。

■弁護士の業務でストレスを感じることはありますか。

依頼内容によっては、ストレスを感じることはありますね。特に依頼者との関係がうまくいかない時はストレスを感じやすいです。依頼者によっては、本来味方であるはずの弁護士に大声を上げたり、無茶な内容の利益誘導を求めることもありますからね。依頼してるのだから、言うとおりにしろ、と言われたことがある弁護士は多いんじゃないかな。最近は年齢も重ねたので負担に感じる事件は受けないことも。弁護士は仕事が選べますから、年齢を重ねてからも続けやすいですね。

■年齢を重ねてから感じるようになったストレスはありますか。

もちろんありますよ。やっぱり体力が落ちていくとつらいな、と感じます。
体力が落ちると気力も落ちやすいんですよ。あと、この先どのような仕事を手掛けることができるか、考え込むこともあります。年齢を重ねた弁護士が一人でできることは、限られていますから。

■この先、どのような仕事を手掛けたいですか。

やっぱり検事としての強みと、弁護士になってからの強みがそれなりにありますから、これまでの経験をすべて注ぎ込めるような事件があったら、お金をあまり気にしないでやりたいな、と思いますね。
 
事件によってはどうしても良い結果にならない時もありますが、じゃあ誰も受任しなくて良いのか、というと違います。弁護士は何のためにいるのか。
 
良い結果にならない、思うように解決できないケースでも、自分ができることなら挑みたいですね。

2.弁護士にこそ、弁護士が必要。

弁護士にこそ、弁護士が必要。
仲間が必要と感じたら、気軽に声をかけてほしい。

工藤啓介弁護士

■先生には無罪事件の実績や、マスコミにも大きく報道された事件をご担当された経歴があります。苦労を感じた事件はありますか。

どの事件にも真剣に向き合ってきたので、苦労を感じることばかりですが、やはり毎日新聞が全国報道をした「深谷市議会議員選挙にかかる公職選挙法違反でっち上げ事件」が印象に残っています。
 
平成23年4月に施行された深谷市議会議員選挙に先立って、依頼者が有権者に無料で飲食接待と投票依頼の事前運動があったとされ、逮捕されました。しかし、実態は「3000円の会費制」だったのです。埼玉県警の起こした志布志事件だと思っていますよ。会費を払った、という供述は、支払っていないという虚偽の供述にされていました。
 
この時は、大変な事件だと思いましたね。黙々と骨の折れる作業もやる必要があった。
だからこそやる気も出ました。警察の暴走を許してはいけないですから。入念に会合参加者へヒアリングし、弁護活動も必死に行い、無事に不起訴になりました。報道も大きく出たので達成感もあります。警察と対峙できたのは、検事と弁護士の両方の視点があったからだと思いますね。

■事件を乗り越えるために、何か心がけていることはありますか。

有利・不利は明確に依頼者に伝えますね。特に刑事事件はいくら努力しても収監されるときはされますから。結果がどのようなものになるのか、きちんと説明する必要がある。美辞麗句では通用しません。その上で、依頼者と信頼関係を築けるように細心の注意を払っています。依頼者の中には外国籍の方もいますから、弁護士と依頼者との間で認識の違いが起きないように、コミュニケーションを大切にしていますね。

■一人で法律事務所を経営する上で、メンタルの維持のために注意していることはありますか。

私は自宅兼事務所ではないので、仕事は仕事、プライベートはプライベートときっちり分けていますね。正直休みであっても事件のことを考えていることはありますが、家族もいますし。仕事も一切持ち帰りません。一人で経営するからこそ、プライベートを切り離すことを大切にしています。

■若手弁護士の刑事弁護について、元検察官としての視点も踏まえながらアドバイスするなら、どのような言葉をかけますか。

面識がなくても、「この先生に聞きたい、相談したい」と思ったら胸を借りてほしいです。自分一人では越えられない事件はあります。
 
今はメールでも簡単につながれますよね。SNSをされている先生も多いですし。DMでも送っちゃえばいいと思います。どうしていいかわからずにストレスを抱えてしまうと、心身が疲れてしまいますし、依頼者のためにもならない。
 
弁護士にこそ、弁護士が必要な瞬間はある。実際に大きな事件の中には、横のつながりを大切にした弁護団も作られていますよね。仲間が必要だと思ったら、気軽にいろんな人に声をかけて良いと思います。
 
私はいろんな先輩に育ててもらった。怖い先輩もいましたけどね。事件の見立ても鍛えてもらえた。だから弁護士としても成長できました。
 
イソ弁の経験が無かったり、ボス弁に相談しにくかったりする法律事務所では、刑事弁護はもちろん民事事件でも不安を抱えるのではないでしょうか。この仕事は人の人生を預かるようなところがありますから、不安を抱えて当然です。思いきって、仲間を作りましょう。私で良かったら、いつでもご相談ください。

3.終わりに

元検事としてもご活躍されていた工藤先生のインタビューはいかがでしたでしょうか?刑事事件に携わる方だけでなく、これから検事と弁護士のどちらで活躍されるか悩んでいる司法修習生の方や相談先に悩んでいる先生方をはじめ多くの法曹関係者にとって参考になる「生の声」かと思います。

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