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経済

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2021年5月の記事一覧

喜べない対外純資産世界一

当noteと同じ見方をしているので紹介。 直接投資の比率が増加したのは、日本企業が「縮小し続ける国内市場に投資をするより、海外企業の買収や出資を通じて時間や市場を買うほうが中長期的な成長につながる」と判断した結果とも言える。 「世界最大の対外純資産国」としてのステータスは、日本企業が国内市場を見限って海外企業の買収や出資にいそしむような「失われた時代」の副産物とみなすことができるだろう。 D.アトキンソンは対外直接投資増加の影響は軽微としているが、国内設備投資の約2割の

「消費税の増税がなければ日本は豊かなままだった」とはならない三つの要因

このようなおめでたい話を信じる人々が見落としているのは、消費税の増税とは無関係に、日本経済にとって不利なことが国内外で進行していたことである。ここでは三点を取り上げる。 GDPが順調に成長していけば、日本はいまよりもはるかに経済大国、文化大国、生活大国になっていたはずです。 格段に強い外交力も発揮できる。研究開発投資も旺盛で、科学技術力も、もっと高まる。リニア新幹線も通っているし、都市開発も防災対策も進んでいる。ノーベル賞をもっとガンガン取れる国になっている。 ところが

京大土木屋のメチャクチャな日本経済分析

「京都大学教授」の肩書をフル活用してデマを精力的に発信する藤井聡については[ファクトチェック]で何度も取り上げてきたが、この記事は輪をかけて酷い内容である。 3%→5%のわずか2%ポイントの消費税率引き上げで日本経済がメチャクチャになるはずがない。実際、2014年4月の5%→8%は何事もなく乗り切っている。日本の命運を分けたのは、1997年11月4日の三洋証券のデフォルトから始まった金融危機である。 実際に増税したら経済がメチャクチャになった。 日本経済は1年でボロボロ

コロナ不況は数字ほど深刻ではない(今のところは)

この内容👇を見る。 2020年4-6月期の落ち込みはリーマンショックよりも急激だったが、リバウンドも大きく、早い。 コロナ不況の特徴は、家計消費の減少が主体となっていることである。2021年1-3月期の季節調整済年率換算値を2019年と比べると、名目GDPは-17.370兆円、家計最終消費支出(除く持ち家の帰属家賃)は-17.355兆円である。 家計消費の減少はサービスに集中している。 収入(主に賃金・俸給)が減ったから消費支出を減らさざるを得なかったのではなく、人と

京大土木屋のデータリテラシー

田原総一朗が「とてもわかりやすく、納得できる説得力」と感じた「様々なデータや資料」は、土木屋がミスリード狙いで作成したものである。 藤井の論法は「日本は諸外国よりも経済の回復・成長が遅い」「その原因は緊縮財政」「積極財政に転換すれば日本経済は必ず復活する」というもので、それを納得させるために見せ方を研究している。 GDPが-10%から+11.1%で元の水準に戻ると「回復度」は111.1%だが、-20%なら125%、-50%なら200%になる。当初の落ち込みが大きいほど大き

国の借金は過去最大でも財政負担はピークの半分

日本語の「国」には中央政府の意味があるので、「国の借金」は表現としておかしくはないのだが、一般国民が借金を恐れる心理に訴えて、緊縮財政を納得させようという意図が感じられる。 一般人でも、企業が事業を継続している間は借入金をゼロに近づける必要が無いことは理解できるはずである。民間企業は市場競争に敗れて消える可能性はあるが、国(中央政府)はそのような事態を想定する必要がない永続的存在なので、借金(国債と借入金)の借り換えと利払いが可能な限りは借金が増えても問題ない。 借り換え

円安でも企業が輸出を増やさない理由

日本経済の最大の問題は企業の国内投資不足だとするD.アトキンソンの説は、輸出動向によっても裏付けられる。 結論を先に言うと、内需が足りていないのは「企業の投資需要が低下しているから」です。 日本企業が緊縮戦略をとっている主因は、日本政府の緊縮財政でもデフレでもありません。となると、緊縮財政は経済低迷の主因でないので、緊縮財政を止めれば経済が本格的に回復する、とはかぎらないのです。 アベノミクスでは「日本銀行の量的緩和→円安→輸出増加」が景気拡大のルートの一つとして期待さ

[簡略版]日本企業がケチになった理由

先日の記事の簡略版。 企業がケチになった理由の一つ目は、金の値打ちが上がったことである(←エクイティのコストが金利と整合的な国内水準から乖離してグローバル水準に大幅上昇)。金に糸目を付けない使い方が出来なくなり、人件費をはじめとして費用はとことん抑制・削減され、投資はリターンがグローバル投資家が要求する水準を超えなければ実行されなくなった。(バブル期は逆で、金がタダ同然で調達できるという認識だったので企業は惜しげもなく支出し、景気が過熱した。) 経済産業省「伊藤レポート」

日英の成長率比較から見えるもの~生産性より労働分配率

今回は日英比較から日本経済の問題を見出す。 日本だけ経済成長が止まっているようにミスリードするグラフで、1997年を起点にするとイギリスとは2倍以上の差がついている。 1人当たり実質GDPの伸びはバブル崩壊後に減速したものの、2000年代に入るとイギリスと差がなくなっている。 日本経済のパフォーマンスが際立って悪いように見えるのは主として人口増加率とインフレ率の差のためで、1人当たり実質では他の先進国と遜色ないペースで成長している。 名目と実質の乖離は労働コストと生産

日本が韓国よりも貧しくなった理由

原田泰のこの記事を基にしたのが こちらの記事。 さりげなく書いている重要な点がこちら(強調は引用者)。 先日は購買力平価為替レート基準での日本の平均賃金が韓国より低く、将来は就職のために他のアジア諸国に出ていく人々が増えるという記事が大きな反響を呼んだ。こうした変化は、長期不況だけでなく2000年代以後の生産性上昇に比べ賃金上昇が遅れたという現実を反映している。 OECDの統計で確認すると、1999年代末から生産性と賃金の乖離が始まっている。 国際比較すると日本の特