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経済

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2020年9月の記事一覧

農業と観光で「立国」の論理

菅政権が安倍政権から引き継いだ成長戦略が、農産物輸出と外国人観光客を爆増させることである。 農林水産物・食品の輸出額は安倍政権期にほぼ倍増しているが、 それを今後10年でさらに5倍以上に増やすことになっている。 外国人観光客も10年後に2019年比でほぼ倍増させる目標が堅持されている。 この二つと関係するのが、またもや金融資本主義である。 国家は課税政策のバランスをとる能力を失っているのだ(これも国家の政策能力不足の証左)。国家は自分が誘致していると思っている資金の

ベーシックインカムと宝くじ

先日のベーシックインカム(BI)の記事に少し補足する。 保険は宝くじのようなもので、各人が払い込んだ原資が「当籤した=保険事故に遭った」人に支払われる(経済的保障機能)。事故が重大になるほど当籤金も多額になる。原資は民間保険では応益負担だが、社会保険では応能負担になる。 集めた原資を当たり外れとは無関係に全員に等しく分配するのがBIで、自分は大当たりしないので払い損になると予想する人々の支持を得やすい。分配金の使途は個々人の自由な選択に任される。経済的保障を求める人は民間

ベーシックインカムと弱者ビジネス

ベーシックインカム(BI)が話題になっているのでポイントを整理する。 BIを導入することで、生活保護が不要となり、年金も要らなくなる。それらを財源にすることで、大きな財政負担なしに制度を作れる。生活保護をなくすのは強者の論理だと反論する人がいるが、それは違う。BIは事前に全員が最低限の生活ができるよう保証するので、現在のような生活保護制度はいらなくなる、ということだ。 年金を今まで積み立てた人はどうなるのかという問題が残るが、後で考えればいい。 1人に毎月7万円では年間

「低温経済のパズルを解く」で解かれていないパズルを解く

本の帯には「どこまで現実を理解しているのか?」とあるが、この本の著者たちも理解不足で「低温経済のパズルを解く」ことには成功していない。 多くの経済学者の弱点は、金融ビッグバン以降の日本経済が、グローバル投資マネーの論理で動かされる「マネー資本主義」あるいは「金融資本主義」に構造転換したことの重要性を認識していないことである。 第2章では企業の構造的貯蓄超過(資金余剰)がパズルとされている。 企業部門は、1990年代末に貯蓄超過主体となり、以降その状態が持続している。これ

アベノミクス「成功」は民主党政権の反動

経済再生は「安倍政権の政策の一丁目一番地」だったが、実際、2012年11月~2018年10月(暫定)は戦後二番目に長い景気拡大期となり、10年強続いた消費者物価のデフレからも安倍政権発足とほぼ同時に脱却している。 [マーカーは2013年1月] インフレ転換には、衆議院解散が決まった時から一気に進んだ円安が大きく寄与している。 [マーカーは2012年11月14日と12月26日] 鉱工業生産指数も明確に反転上昇している。 [マーカーは2013年1月] 景気動向とは無関

アベノミクス第二の矢は積極財政にあらず

アベノミクス第二の矢を積極財政(反アベに言わせれば放漫財政)のことだと勘違いしていた人が少なくないようだが、公式には「機動的な財政政策~約10兆円規模の経済対策予算によって、政府が自ら率先して需要を創出」なので、スターターとして財政支出を増やすものの、その後も拡張的スタンスを続けるものではない。2013年6月14日閣議決定の「経済財政運営と改革の基本方針について 」にもこのように(⇩)明記されていた。 国・地方のプライマリーバランスについて、2015年度までに2010年度に

日本人とant mill

軍隊蟻はぐるぐると回り続けるant millという状態に陥ることがあるらしいが、30年近く続いている日本人の改革病も似たようなものに思える。 Ant millよりこちら(⇩)が近いかもしれない。 改革前の日本は、国内生産を最大化して所得を国中に護送船団方式的に分配するシステムだったが、それは非効率と不公正の温床であり経済の行き詰まりの元凶だとして、あらゆる分野に競争原理を導入して「努力と才能が報われるようにする」国民的運動が始まった。文化大革命の「破四旧」の日本版である。

アベノミクスをやり抜くと「日本は衰退する」

リフレ派の主張を検証する。 日本は20年間、数え方によっては30年間、デフレを経験して来たのです。確かに、消費者物価指数が明らかにマイナスという年は、プラスになったりマイナスになったりしました。しかし、全体としての20年、30年を見ると、やはりマイナスなのです。 消費税率調整済消費者物価指数(総合)の最大値は1998年10月の103.0、その後の最小値は2013年2月の97.7なので、20年間、30年間のデフレというのは甚だしい誇張である。 リフレ派は因果関係の「因」を

「アベノミクスの総括」を検証

野口悠紀雄によるアベノミクスの総括だが、各論には異論があるものの総論はほぼ同意できる内容である。 これはUSドル換算GDPによる比較だが、乖離の拡大には円安の寄与も大きく、自国通貨建ての実質GDPの倍率は中/日が1.5倍、米/日が1.1倍だった。 12年では中国のGDP(国内総生産)は、日本の1.4倍だった。ところが、19年、中国のGDPは日本の2.9倍になった。つまり、乖離が2倍以上に拡大した。 成長したのは中国だけでない。12年のアメリカのGDPは、日本の2.6倍だ