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デパコス売り場のジャンヌダルクたち


「いやあ…これ、まずいよ」
「まずいね、このままだと非常に」


これから余命宣告でもするかのような神妙な面持ちで、私の大好きな先輩2人が顔を見合わせていた。

彼女たちが憂いているのは世界情勢でも明日の夕飯のメニューでもない。
私が持っている化粧品の少なさについてである。


父は理容師、母は美容師という美容一家の娘に生まれたものの、幼い頃から全くもって美容と呼ばれるものに興味がなかった。ただの1mmも。もう少し恥ずかしがれ。

高校生になって友達たちがメイクに目覚め始めてからは、なんとなく周りに合わせる格好で化粧品を揃えてみたりした。(なぜか母は嬉しそうだった、不精の娘ですまない)が、別にメイクを好きになるわけではなく、「社会女性としてのマナー」的な感覚でしかなかった。


その感覚は成人を迎え、立派かどうかは知らないがそこそこ社会にも揉まれ、アラサーを目の前にした今でも変わらない。だってわかんないんだもん!

そんな私が使っている化粧品たちは、決して数多いわけではない。
それはわかっていた、わかっていたけれど。目の前の2人の、驚愕した顔を見るとどうやら想像以上だったようだ。


その翌月、私の姿は自宅から300km離れた都会の、某デパートのコスメ売り場にあった。かなり萎縮した姿で。


そんな私に「いいからついてきな」と、キラキラしたフロアを軽い足取りで闊歩していく2人。多分フランス革命の時のジャンヌ・ダルクってこんな感じ。迷える私を導いてください。

次々に目ぼしい商品を見つけてはテストし、あっという間に私の顔面に合うあれやこれやをセレクトしていく。すごいな、その力どこに行ったら手に入るんですか?職業訓練センターに問い合わせたら分かりますか?


気がつくと、今まで見たことのない血色に溢れた私がいた。



なるほど、私が今までしてきたメイクはあくまで「作業」だったんだな。


自分が今まで興味がなかっただけ。ちょっとしたきっかけで一転、面白くなるようなアレコレ、きっとたくさん埋もれてるんじゃないかしら。

20代を使い果たそうとしている今、「果たしてここからワクワクできることに出会えるのか?」「自分はどうなっていくんだろう」と漠然とした不安があった。

けどきっと、自分が思っているより未来は楽しい。そうであってほしい。


面白いは、いつも生活の中にある。







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