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病院受付、刀剣おばあちゃん


BGMの持つ力は計り知れないんじゃないか、と思う。


どんなにシリアスな映像であったとしても、ひょうきんなBGMがかかった瞬間にコメディに昇華してしまう。逆にめちゃくちゃ面白い映像だったとしても、BGMが世にも奇妙な物語であればどうか。途端に「この映像には何か裏があるんじゃ…?」と勘繰ってしまうだろう。ちょっとそんな映像があったら見てみたい。


この1ヶ月間、左顔面の痛みと闘ってきた。


忌々しい7/28(お誕生日の人はごめんなさい、ご多幸をお祈りしています)朝目を覚ました瞬間に、顔の左半分に激痛が走った。多分、あの瞬間に雷が直撃した。それくらい衝撃的な痛みだった。

これは何かがおかしい。

慌てて洗面台で顔面を見てみると、目の痙攣が止まらない。
そして心なしか、口の左端が少し垂れ下がっている。常日頃だらしない顔をしているのは百も承知だが、そんなことを言っている場合ではない。


すぐに簡素な身支度を済ませ、人生で初めて脳神経外科の受付に立った。


受付の女性に症状を伝えると、さっきまで朗らかだった表情が一変、内線で至る所に電話をしはじめた。後ろに並んでいる受付待ちの人が咳払いをしている。申し訳ない。少々お待ちください。

程なくして、ストレッチャーがものすごい速度で私の前に静止した。

ストレッチャーに横になるよう指示され、スピーディーに頭を固定される。
え?何事?こんな大事なんすか?そう困惑している私の表情に気づいたのか、看護師さんが手際良くも優しく諭してくれる。

突然の頭痛や顔面痛は、脳卒中やくも膜下出血を疑ってしまうこと。さらに顔面の片方が吊り下がっているのは、それに伴った顔面麻痺の可能性があること。これから緊急でMRIを撮ること。緊急連絡先があれば今のうちに教えてほしいこと。

え、えーっと、と口どもりながら実家の住所と父の名前を告げ、ドナドナされていく。さながら市場に売られていく仔牛の気分。お父さん、今までありがとう。


結果、脳はとっても綺麗だった。


過度のストレスによる顔面神経痛、という診断。いやはや、大事にならずに済んで良かった。お医者様とそんな言葉を交わして、診察室を後にする。


会計待ちのロビー。
ベンチに腰掛けていると、隣におばあさんが腰を下ろした。足腰が弱いのか、両手に杖を持っている。ビジュアルはほぼスキー選手だ。体調がすぐれないのか、眉間に皺を寄せて険しい表情をしている。座っているのも辛そうだ。


そうこうしている間に、受付へと呼ばれた。会計だろう。


お財布の準備をしてカウンターへ向かう。処理をしてもらうのに待っているが、なかなか一向に会計処理が進まない。どうやら受付時に緊急対応をしていただいたようで、確認作業に手間取ってしまっているらしい。いやはや申し訳ない、私のこの綺麗な脳のせいで。

内線がなかなか繋がらないのか、体感時間にして数分が過ぎた。

感じる。感じるぞ。


おばあちゃんが確実にイラついている。


私の会計が終われば、このおばあちゃんはすぐに会計して帰れるのだろう。会計待ちのクラウチングスタート体制。咳払いと膝ゆすりのペースが上がってきた。申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

そして鳴る、携帯の着信音。


必殺仕事人。


ごめんって、ごめんっておばあちゃん。
たしかに殺気立ってるのかもしれないけれど、私も病人なの。そして待たされている側の人間であることは知っていてほしいの。どうか斬らないで。


震える手で携帯の着信を止めるおばあちゃん。
しかし、程なくしてまた必殺仕事人が出陣の号令をかける。


あーん、旦那さんかな。「会計まだか!」みたいな電話なのかな。ごめんよおばあちゃん。ところで、その杖の取っ手をガチャガチャしているのには何の理由があるんだい?もしかしてそれを引っこ抜いたら刀剣が出てくるとか、そういうことなのかい?あなたが仕事人なのかい?


背中越しに殺気という名の威圧を感じながら、ようやく出てきた会計を済ます。ああ、顔面が痛い。でもおばあちゃんも怖い。手早くしなくては。


そそくさと受付を後にすると、さっきのおばあちゃんがこちらを見ていた。ニヤッと笑う。もしかしたら「お疲れ様」の意なのかもしれないが、怖すぎる。だって仕事人だもの。斬る気なんだもの。


まったくもって、BGMの持つ効果は大きすぎる。



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