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【プリズンライターズ】「モモ」を思いながら…生きるということ

世界のあちこちで日々、戦争(紛争)、災害、事件、事故、自殺などで尊い命が儚くも奪われている。
僅かこの100年の間に人類は、めまぐるしい進化を遂げ、世界は物に溢れ、豊かで便利になった。
しかし、その影響で地球温暖化が深刻な問題となり、毎年観測史上最大の自然災害が発生し、多くの人が亡くなっている。
このまま先進国などが自国の繁栄のみを優先してゆけば、遠くない近い将来、地球は人々が平穏に暮らすことのできない劣悪な世界に変わり果てることだろう。

 今を生きる私達には、後世の人々に安全で優しい環境の地球を託す使命があるはずだ。
この数日だけでも豪雨により多くの方の命が奪われている。
テレビのニュースでそれを知る度に、私はある物語を思い出す。ドイツの児童文学者ミヒャエル・エンデの「モモ」だ。
「モモ」には、人間の世界から時間を盗み取る謎の秘密結社が登場する。
一人の少女モモが勇気を持って時間泥棒に戦いを挑む物語だ。
「カシオペイア」という名前の亀がモモの冒険を助ける。
30分以内に起きる出来事を予知できる亀は、甲羅に文字を映して危険を報告する。
空想の産物と知りつつも、生命の残り時間を強奪する大災害が起きる度に、物語が胸中をよぎる。
30分といわず10分、僅か5分でも、“未来”が分かるなら、どれだけの命が救われただろうかと。

 英知を誇る人類も荒ぶる天地の前では、闇を手探りする小さな存在でしかない。
子を親を、家族を、大切な人を失った人の胸にある時計は、恐らく永遠に止まったまま、その時を指していることだろう。
災害や戦争は人命とともに、生き残った人々に生涯消えない大きな傷痕を残す。
私達は、その傷ついた人々の声に耳を澄まして聴くこと。記憶を語り継ぐこと。
一寸先の見えぬ明日に、抜かりなく備えること。
カシオペイアはいなくとも、一人々々のモモにできることがある。走る必要はない。
歩みを止めて、今の自分に何ができるかを考えて、そのできることを、愛情を持って、コツ×2と実践すれば、必ず優しい世界がスキップ始めるから。

2023年7月17日海の日に


繰り返される暴力

 
 法務省が全国の受刑者と刑務官を対象としたアンケート調査を行い、2003年10月20日その結果を公表した。
受刑者を対象とした調査としては過去最大規模であり、刑務官を対象とした調査は今回が初。
調査の期間は2003年6月~7月に行われ、アンケートの調査票は無記名回答で、対象者は出所した者と山口・千葉・徳島の刑務所を合わせた2,689名だった。
うち、有効の回答者は2,562名。

 刑務官の調査は府中・網走等受刑者の調査とは別の刑務所を対象とし、569名を調査し、有効回答数は511名。
受刑者と刑務官で施設が別になるようにしてあるのは、予め調査結果が矛盾しないようにしたのではないかと思える。
同じ施設を対象に調査して受刑者と刑務官の回答に大きな開きが出たら、調査そのものが成り立っていないということになるからだ。もし、それを避けたのだとしたら、調査は最初から操作されたものだということになる。
官僚は姑息だから、調査結果が自分に都合の悪いものにならないよう、手心を加えることはおおいにありえる。

 調査の中で、人権侵害について最初に「暴力の脅し、虐めを受けたことがあるか」という設問がなされた。
これに対して「刑務官から暴力、脅し、虐めを受けたことがある」と回答した受刑者は34.2%。
暴力ということで言えば病気でも治療されずに放置されれば、それは十分な暴力なのである。
そして刑務官には、そうした意識が全く欠けている。目に見える暴力行為は問題にしやすい。
しかし、こうした明白な暴力よりも適法とされる制圧行為や処罰行為の問題点がでていない。
もし、そうした事実が調査段階で適法であるとして問題なしとされているとすれば、これは、調査の信頼性を損なうものである。

 名古屋刑務所(以下「名刑」)での事件を例に取れば、適法な理由があるとされた制圧行為、処罰行為が殺人に結びついている。守ってもらうはずの看守から、真冬、裸にさせられた上に直腸が裂けるほどの(消防用の高圧ホースを使い)虐待死された方の無念を思うと憐憫の情を禁じ得ない。

 その殺傷事件を契機に監獄法(以下「旧法」)が改正され現行法(以下「新法」又は「法」)が施行された。
だが、この教訓は、全く活かされなかった。
2022年12月9日法務省は名刑の看守22名が受刑者3名に対し、およそ1年以上前から暴行や傷害を繰り返していたことが発覚し、公表した。
正にその虐待行為が繰り返されている同時期に受刑者が殺害されていたのである。
2022年3月1日に殺害されていた。3月1日 午前7:51、名刑病棟にて死亡。
遺族が引き取った遺体には、手首、腰、両足の腿とふくらはぎ部分等に強く締め付けられて肉がめり込んだ痣痕や所々出血し、暴行の疑われる状態だった。
被害者の遺族であるBが愛知県警に連絡し、3月3日の通夜が終わった後、警察2名が遺体を取りに来て、司法解剖が行われた。
その後、被疑者不詳の殺人事件として検察に事件が送致されたが、名古屋地検岡崎支部は、2022年5月30日不起訴処分とした。

 どのような捜査がなされたかは全く遺族に説明されていない。
刑務所において、人権が守られない結果となれば、それは社会において人権が軽視されることにつながってゆく。
人権の軽視は目に見えない形で進行し、結果として現れる時には大きなものとなる。
人権の軽視は、注意しなければ起こりがちなことであり、社会の根幹に関わる問題だ。
問題が表に出ないようにすれば、必ず内向し、更に深く大きな問題を生み出す。
そうなってしまっては、手の下しようがない。自分であれ、他人であれ、何らかの基本的人権が侵害された時、沈黙するようなことは許されない。
例え悪意がなくとも、それを看過すれば、加害者側の立場に一緒に立っていることになる。
刑務所でも社会でも、正しいことは貫く、間違っていることは改める、それが人としての責務だと信じている。
新法の目指した“人権”とは何だったのか!?!

    2023年7月17日K刑務所より文責(本人)


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