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第5章〜病舎看護係編 第6犯〜共犯と文化祭

共犯の話は後半に書いてます。

今回もお読み頂きありがとうございます!

川越少年刑務所では毎年一回【文化祭】が催される。
文化祭と言っても、受刑者が何か企画して出し物をして好きに巡って、というものではない。
講堂に集合して、各クラブの発表を見て解散するだけのイベントである。
字面だけでみると心底退屈そうなイベントだが、収容者的にはいい暇潰しである。

同じ工場同士であれば、暴走族ばりの縦社会だが基本的に仲が良く、それでいて団結力もある。
よって仲がいい人や先輩が出ていると応援したくなってくる。

要は「お出かけ」である。
友達・先輩のライブでも見に行くか、的なね。
ちなみにオヤジも来てくれた。
相変わらず仕事はどうした?と言いたくなるが有難いことだ。

俺は部員歴半年も経たずに文化祭に出演した。素人参加だ。
もっとも、天性の音楽的才能を持つ俺は、トランペット歴半年足らずで「オブラディオブラダ」くらいなら吹けるようになっていた。
18歳の時からクラブ通いで鍛えたリズム感を駆使し、キッチリとテンポを守る。音も合わせる。強弱も大袈裟なほど意識する。指揮者をガン見してタイミングを計る。
うん、練習通り、可もなく不可もなくといった演奏だ。
そんなこんなで真剣になっていたら終わっていた。思い出なんてない。
一年目は[こなす]だけで終わり
二年目に[楽しく]なって
三年目に[感動]を迎えた。

ブラバン 文化祭

二年目は副部長として文化祭に参加した。
刑務所のクラブでの部長交代劇は、出所や他施設への移送などのタイミングで行われる。
俺をブラスバンドに誘ってきた6工場の人物は、その当時部長だったが、文化祭後にめでたく出所を迎えた。

でだ、当時の副部長がそそまま部長に就任したわけだが、俺は事前に担当オヤジから「副部長はお前な」と言われていた。
意味が分からなかった。この部で2番目に偉い悪人になってしまった。
ちなみに部長も俺も、容姿だけで言ったら虫も殺さないような善良な顔をしていた。
顔面の凶悪さはさて置き、なんでも部長とオヤジが相談して勝手に決めたそうだ。それが伝統と言わんばかりの任命劇。それが刑務所だ。
うん、よく考えたら高校生の時から拒否権のある生活をほとんど送ってないから、あんま変わんないな。

そんなこんなで副部長として参加した2回目の文化祭は、、特に俺自身の視点が変わっていた。
1回目よりリラックスしていたから、楽しんでいたのは言うまでもないが、部全体を見て部長のサポートをする側としての参加だった。
昨年と違い、ガチガチになった新入部員をリラックスさせて回ったり、偉そうにも演奏のアドバイスなどを言って回る役目になった。

そんなこんなで適度な緊張感を楽しみながらの文化祭だった。
演奏の方は、、、黙秘権を行使したいレベルだが、これは部員が一斉に羽ばたいて行ったので新入部員がたくさん居たってだけだ。

そんな新入部員の中には、どういうわけか俺の共犯者もいた(笑)

新入部員が入る時、オヤジは部長と副部長だけに前もって教えてくれる。
というのは建前で、基本的に新人をクラブに誘った部員が、部長・副部長に「うちのサラ(新人)来ますんで宜しくお願いします!」って挨拶に来るから先に知っている。
というのも建前で、俺の場合各工場を縦横無尽に飛び回っているもんだから、その医務回診の時にコソッと挨拶されてた。

俺もなかなか顔が広くなったものだ。
そう言えばオヤジが「お前は刑務所で一番顔広いよな」とボソッと言ってきたことがある。
看護係は短期刑の悪人が多いのだが、俺はトータルで3年も滞在した挙句、1年半は王として君臨していた。ま、断じて無害な王だったけど。
その間休みなく各工場を飛び回り、各工場のエリート悪人が集結する魔のブラスバンド部においても、王として君臨していた。平民(部員)想いの王だったと思う。
一回も喧嘩とかなかったし、常に低姿勢で接していた。

自分で言うのは嫌味以外の何者でも無いが、刑務所の序列があったとしたらトップ10には入っていたと思う。 
まあ俺の場合、所内ではそんなに長く居る囚人ではなかったし、目立って活躍する場なんてなかったから、単純に「良く見かける悪人」という感じなのだろうが。

ところで話が大幅に逸れたが、俺は工場回診の時にこの共犯者から「ブラスバンド入るから宜しくね」って言われていた。
これは正直に親父に言っておかないと後が怖い、と思い、自分とこのオヤジに言ってクラブのオヤジに伝えてもらった。

(共犯同士って同じ箇所に集まらないように施設側で配慮してるから、入部拒否られるんだろうな。)
なんて考えてたんだけど、アッサリ許可が出てめでたく共犯と部員同士になりましたとさ。
まあなんかあるかと思って身構えたけど、喧嘩もせずに普通に笑って話してたね。元々俺ら逮捕の原因にはなってなかったから揉めなかったし、そんな気にすることでもなかったのかもね。

そんな共犯の悪人は、脂汗を浮かべて苦い悪人顔でガチガチに緊張していた。
可愛い悪人である。

そんな感じで楽しんで参加できたから結構いい思い出になった。


最後までお読み頂きありがとうございます!
俺がステージのメインを張る所も書きたかったのですが、文字量が多くなっちゃうと踏んだので分割しました。
正直に言うと、書いてる時に共犯の事を思い出したので路線変更しました。

次回も宜しくお願い致します!

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