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本『この世にたやすい仕事はない』/津村記久子著

社会という宇宙で心震わすマニアックな仕事を巡りつつ自分の居場所を探す、共感と感動のお仕事小説。

『この世にたやすい仕事はない』裏表紙 内容紹介より

わたしは社会人になってからこれまで、転職を20回以上繰り返している。この本は、こんなわたしだからこそ共感できるところがありそう、学びが得られそう、と思って手に取った。

1話に1つ、仕事の紹介がされている(全部で5話)のだけど、本当にこんな仕事があるのか、なかったとしても、そこに描かれている感情はすべて本物だと思えて、あぁわかる、と思う箇所が散りばめられていた。
とにかく主人公は、とても真面目に仕事に取り組む人で、どんな職場でも短期間ながらその仕事を理解しようと努め、深くのめりこんでいるように見えた。

長く続けた前の前の仕事を、燃え尽きるようにして辞めてしまったので、あまり仕事に感情移入すべきではないというのは頭ではわかっていたが、仕事に対して一切達成感を持たないということもまた難しい。自分の仕事を喜ばれるのはやはりうれしいし、もっとがんばろう、という気になるのである。

『この世にたやすい仕事はない』第3話より

そのおかげで評価もされるけれど、それは今の彼女が求めているものではなく、辛くなったり苦しくなったりしてその場所からも離れていく。

それでも、仕事を一つ一つ経験し終えるたびに、彼女にとっての「結論」に導かれる。

またそれを受け入れる日が来たのだろう。

『この世にたやすい仕事はない』第5話より

この感覚、自分にも身に覚えがあって、心にすとんと落ちた。この5つの仕事の中で出会った人や出来事が間接的にでも関わって得られた結論だというところがわかるようになっていて、とてもいいと思った。
長く勤めた前職で打ちのめされて心も体も疲弊している時期。これならできると思う、と、始めた仕事で思いもよらないことが起きる。どんな仕事もたやすくはない。だったら。それを身をもって知った今なら、やれるかもしれない。と。

なんだか個人的な思いがあって堅苦しい感想になってしまったけれど、この5つの仕事の内容が絶妙で、「え、これどうなるの」って気になってさくさく読める。マニアックな仕事を次々紹介してくれる職安の相談員の「正門さん」もいい味出していて、わたしもあんな相談員さんに担当になってもらいたいな、と思いながら読んだ。

仕事について悩んでいるすべての人に。おすすめの本です。

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