見出し画像

ピクニックできそうな裏世界があるらしい

「The Backrooms」というネットミームをご存知だろうか?

どうやら「クトゥルフ神話」や「SCP財団」などと同様のシェアワールド系コンテンツの一つのようだ。

【シェアワールド】
複数の作者、作家によって世界観を作っていく創作形式。
クトゥルフ神話はその代表例。

ピクシブ百科事典

【クトゥルフ神話】
小説家ラヴクラフトの描いた小説世界をもとに、彼の友人である作家オーガスト・ダーレスらの間で設定の共有を図り、作り上げられたもの。
クトゥルフ「神話」とはいうが、古代文明(文化)で語り継がれた言い伝え・昔話というわけではない。 
平たく言えば『非常に壮大な世界観設定』である。
怪奇・幻想小説の先駆者の一人であるハワード・フィリップス・ラヴクラフトが自身の小説に登場させた事物を友人の作家たちとまとめ、お互いの作品で登場した怪物やアイテムを自分の作品にも登場させるという遊びにより、いかにも本当に語り継がれてきた神話のように見せかけたもの。

ピクシブ百科事典

【SCP財団】
SCP財団とは、2008年に開設された共同創作コミュニティサイトであると共に、その作品内部に登場する組織の名称である。
サイトの主な創作物は、「自然法則に反した異常な物品・存在・現象・場所など(異常存在、アノマリー、SCPオブジェクト、SCiP)」の収容手順やそのアノマリーの異常性の説明を記した報告書であるが、その他にもアノマリーやSCP財団に関する様々な形式の掌編(サイト内では「財団Tale・Tale」と呼ばれる)がコミュニティ参加者により執筆されている。これらはWiki形式のウェブサイトに投稿され、まとめられている。
サイト内の創作物は共通の背景設定に大まかに従うことが求められており、その多くがホラー小説やSFの要素を持つ。

※SCP財団の日本語版公式サイトはこちら

Wikipedia

「The Backrooms」は2019年5月12日に4chan(英語版の2ちゃんねる的なもの)に投稿された画像から火がついた、比較的新しい世界観のようだ。

クトゥルフ神話は現在では主にTRPGとして、SCP財団は主にテキスト形式(や画像?)で創作が展開されているのに対し、The BackroomsはYouTube動画やゲームなどの媒体を通して創作されることが多いらしい。

わたしがThe Backroomsを知ったのは、「都市伝説をポップに語る!オカルト研究所」(通称「ポカ研」)というポッドキャスト番組がきっかけだ。

番組パーソナリティーが「現実世界が『表世界』で、それと対になるのが『裏世界』(=The Backrooms)」というような説明をしていて、それを聴いたわたしは、
(つまり『裏世界ピクニック』の裏世界みたいなものってこと? 作品に出てくる化け物だけじゃなく、あの舞台設定にも元ネタがあったんだ)
などと思った。

『裏世界ピクニック』
早川書房から刊行されている宮澤伊織の小説。「裏世界」と呼ばれる現実と隣合わせで謎だらけの異世界で、主人公の女子大生二人が冒険する百合SF小説(ホラーも入るか?)。アニメ化、コミカライズもされている。
「くねくね」や「八尺様」など、実話怪談として語られる危険な存在が敵として現れる。

The Backroomsがネット発のSFオカルト系ミームだということ、そしてその入り口が事務所の一室のような場所らしいと聞いたところで、わたしは完全に「The Backrooms=『裏世界ピクニック』の舞台設定の元ネタ」だと思い込んでしまった。
(『裏世界ピクニック』の主人公がはじめて見つけた裏世界への入り口が、事務所のような一室だったため)

しかし、そのエピソードを聴いて数分後、ふと思った。
今は2022年。The Backroomsの初出は2019年だという。
『裏世界ピクニック』って刊行から3年しか経ってないほど新しかったっけ?

調べてみると、『裏世界ピクニック』の刊行は2017年。つまりThe Backroomsの初出より早かった。
これでは時系列がおかしい。

どうやらThe Backroomsが裏世界の元ネタ、というのはわたしの勘違いだったようだ。
「The Backrooms 裏世界ピクニック」などでも検索をかけてみたが、めぼしい情報はヒットしなかった。

だから、たぶん本当に無関係なのだろう。
「事務所のような場所から裏世界に入る」というところまで一致しているのに、ただの偶然だというのは不思議なものだ。

一瞬「では『裏世界ピクニック』がThe Backroomsの元ネタなのではないか?」とも思ったが、どうやらそれも違いそうだ。
The Backroomsの火元となった画像が投稿された経緯とその広がり方を見ると、「裏世界的なシェアワールドを作りたい!」などの誰かの意図があったようには思えないからだ。

そもそも4chanは英語圏の掲示板。
日本のアニメから着想を得て……ということもなくはないだろうが、『裏世界ピクニック』が海外でそこまで人気だという話も聞いたことがないため、可能性は低い気がする。

なーんだ、やっぱり無関係なのか……と思うと同時に、あとから『裏世界ピクニック』を読みはじめた読者がわたしと同じ勘違いをしそうだなと思った。
それとも「『裏世界ピクニック』は2年後に現れるThe Backroomsを先取りしていた! 作者すげえ!」みたいになるのだろうか。

(そもそも本当に『裏世界ピクニック』の裏世界とThe Backroomsの世界観は似ているのだろうか?
先入観で「似てる!」と思い込んでしまったまま、結局その後The Backroomsのことをよく調べずにこれを書いているので、蓋を開けてみたら勘違いするまでもなく全然似ていなかったりするのかもしれない……)

『裏世界ピクニック』はまだ完結していないので、もしかしたら続巻でThe Backroomsが取り上げられることもあるかもしれない。
その場合はどんなふうに料理されるのか、とても楽しみだ。

ちなみにわたしは『裏世界ピクニック』は5巻のマヨイガのエピソードが一番好きだ。
まだ続きがありそうな、謎を残した終わり方だったので続きを楽しみにしている。


そういえば、年の瀬なので最後にそれっぽい話題を付け加えよう。

少し前に今年の流行語大賞に「村神様」という言葉が選ばれたことを知った。
聞いたことのない言葉だったので(流行語なのに……)、もしかして新しく「八尺様」的な名作怪談でも生まれたのかと思い胸を弾ませて検索したところ、今年活躍した野球選手のことだとわかり、なんだかがっかりしてしまった。

この記事が参加している募集

推薦図書

わたしとポッドキャスト

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?