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『トークンエコノミービジネスの教科書』

「ブロックチェーンが生んだ最強のビジネスモデル」と謳うトークンエコノミービジネスがわかる本。

著者:高 榮郁
発行所:KADOKAWA
発行日:2019/03/20

Web3.0の技術を使って学びのコミュニティを作りたいと思い日々情報を集めたり、試行錯誤をしたりしています。
(まだ、そんなにアクティブではないですが)

Web3.0的組織のDAOを構築するに当たり、独自トークンが重要な役割を担うと思いましたので、トークンエコノミーについて勉強しました。

貢献に対してトークンが与えられる世界がトークンエコノミー

心理学の世界には、望ましい行動を取った場合に「トークン」を付与し、付与したトークンを有形無形の価値と交換できるようにすることで、特定の人やグループに対して望ましい行動を推奨する、という手法があり、これを「トークンエコノミー法」と呼んでいます。

本書によるとトークンエコノミーの語源は心理学だそうです。
他者が望ましい行動を取った場合に渡すフィードバックのことです。
心理学のNLPではこれをフィッシュ(イルカの調教から)と言い、アドラー心理学では正の注目と呼ばれています。
マクドナルドでもサンキューカードとして導入されていますね。

これまでトークンエコノミーとは、独自のトークンが流通する経済圏のことを指すのかと思っていました。
しかし、その本質はトークンを活用してコミュニティへの貢献を促すシステムで構築された経済圏のことなのですね。

国内ECサイト大手の楽天は楽天ポイントをベースに構築された楽天経済圏を持っています。
この楽天ポイントも一種のトークンです。
楽天経済圏とは楽天ポイントが使える経済圏というだけではなく、

  • ユーザが買い物をすることで楽天経済圏が成長する

  • ユーザの買い物(貢献)に対して楽天ポイント(トークン)が付与される

という相互作用で成り立ったトークンエコノミービジネスだということが理解できました。

では、新たにトークンを作って独自のトークンエコノミービジネスを構築するにはどうしたら良いのでしょうか。

売買できるトークンを作成する場合は関連法規に注意

法定通貨を一切使わない仕組みであれば、基本的に法律の規制を受けることがないため、より自由にトークンを設計することができます。 ただし、この場合、しっかりとした「報酬づくり」をしなくては、参加者からの支持が得られにくい、というデメリットもあります。

まず、独自トークンを作る際は法的な注意が必要です。

法定通貨とは日本円やドルなど、要は私たちが普段使っているお金のことです。
この他にも、Bitcoinなどの暗号資産がありますが、作成する独自トークンがこれらと売買できるかによって、適用される法律が異なります。
(本書が書かれた2019年時点のもの)

  1. 日本円で売買可能

    • 持続可能なトークンエコノミーを構築する場合、発行するトークンが日本円やBitcoinなどと相互交換可能ということは重要です。
      しかし、「トークン=暗号資産」とするには、資金決済法に従って、暗号資産交換業者としての登録が必要になります。

  2. 日本円で購入可能、売却不可

    • Suicaなどの電子マネーのように、日本円で購入できて決済手段としては使用できるが、日本円には買えられないは登録は不要です。
      しかし、この場合でも、第三者型前払式支払手段発行業者や自家型前払式支払手段発行業者としての登録が必要です。

  3. 日本円で売買不可能

    • 日本円やBitcoinなどと相互交換ができない、完全にコミュニティに閉じたトークンの場合は基本的に法律の規制は受けません。
      しかし、しっかりとした報酬づくりがなされなければ、参加者の支持は得られません。

※ 本書では「仮想通貨」という表記になっているが、2020年5月より「暗号資産」と正式名称が変更された。

作成した独自トークンを販売してコミュニティ運営の資金を得たい場合は、各種法令に則って登録申請などを行う必要があります。
お手軽に独自トークンを作りたい場合は、法定通貨などで売買できないコミュニティー内でしか使えないものに限定する必要があります。
しかし、トークンを売買できないことは、トークン自体の価値向上や支持者の増加には不向きです。

トークンを保有する目的の一つは、そのトークンの値上がりによる売却益です。
これは投機目的だけでなく、コミュニティを初期から応援するメリットの一つになります。
コミュニティはトークンの価値を上げることで、駆け出しの頃から応援してくれた人に対して報います。
売買ができないトークンを作る場合、この構図が取れなくなります。

では、作成するトークンに対して、売買益以外の価値をどのように付与すれば良いのでしょうか。

共感と共創を生む仕組みとミッション

実際、「価値のある独自トークン」が存在して、「特定の行動に対するインセンティブ」を用意しても、各ユーザーが思わず行動したくなるような「何か」がなければ、誰もそこで継続的に行動しようとは思わないでしょう。 その「何か」とは具体的にいうと、「ユーザー目線での仕組みづくり」や、「そこで提供されるサービスや商品の価値を高めていくこと」などです。

いわゆるユーザ目線での仕組みづくりです。
ユーザがコミュニティの中で主体的に動きたくなるような仕組みがなければ、どんなに良いトークンを作ってもそのコミュニティは廃れてしまいます。
本書の中では、「クリプト・ダービー」を例に、余暇として遊びたいユーザでも、優勝して賞金を稼ぎたいユーザでも楽しめる必要があるとしています。
(クリプト・ダービーのURLを載せようとしましたが、接続が安全ではないと警告されたので控えます)

本書では様々なトークンエコノミービジネスの例を出して、ユーザが行動したくなる仕組みを提示してくれていますが、あまり触れられていない点もあります。
私はこの「何か」で必要な要素として、そのコミュニティのミッションがあると思います。

  • このコミュニティがどんな世界観を持っているのか

  • ユーザがこのコミュニティで活動した結果、世界はどう変わるのか

  • そのためにユーザができることは何なのか

コミュニティのミッションに共感し、一緒にコミュニティの目指す世界を共創してくれるユーザが、コミュニティの求める真のユーザではないでしょうか。
法定通貨などで売買できない独自トークンを作る場合、ユーザに楽しんでもらう仕組みも大切ですが、真のユーザを得るためのミッションもより大切だと思います。


本書では、様々なトークンエコノミービジネスの例を図で表してくれており、自分の独自トークンを作成する場合に非常に参考になります。
Web3.0的なコミュニティを考えている方は一読することをおすすめします。

ただし、本書が書かれた2019年の状況にもとづいているため、実際にトークンを作る際は現状の法律などに則るようご注意ください。

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