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超能力研究会 ループ 超短編

 近頃、たまに一日がループする。

 別に比喩とかでは無くて実際に繰り返されるのだ。
 記憶は残っているから、何が起こるのか分かる。

 ただ、俺にはループする日がいつ訪れるのか分からない。

 繰り返される回数もまばらで、何事も無く次の日に行く日もあれば3日連続ループする日もある。ちなみに今日4/27は俺の中では既に5回目だ。

 始まりも終わりも俺には分からない。

 そうなってくると当然の様に日常のモチベーションは下がる。どうせ今日もリスタートするんでしょ、と、ついネガティブな方に感情が働いてしまう。
 ネットで調べてみたら、この現象はデジャビュとか脳のバグみたいなもので瞬間的に過去に同じ体験をしたと思い込んでいるだけとあった。

 いや、そう言った類の話では無い。と出来事をノートに書き留めたりSNSにアップしたりするが結局リセットされ白紙と化すので証明が出来ない。

 このループが訪れるようになってから、かれこれ一年くらいが経過している。

 実際カレンダー上では2カ月程しか経っていないのだが、まぁいずれ収まるだろうと思っていたが事はそう単純では無かった。

「ヒロシ、あんた最近急に背伸びたわね。」母が朝食の時そう言ってきた。

 まぁ俺は中学三年生 成長期真っ只中ですから。いや、そうじゃない。
鏡の前に行くと確かに背が伸びている。よく見るとうっすらと髭も生えてきている。

 時計の針は戻っているが、肉体にはしっかり一年間と言う時間が刻まれていた。
 同じ場所をグルグル走っていてもガソリンは消費してしまうのだ。

 世間的に見れば俺はたった2カ月で10㎝も背が伸びている事になる。このままだと一年後には2メートルを越えてしまう。なんて冗談を言う余裕も相手もいない。

 何とかしなければ。

 俺は得意のネットを駆使し情報を集めた。そして辿り着いたのが、この「超能力研究会」だ。

 建物はいわゆる日本の一般的な一軒家で「柏木」の表札の横に「超能力研究会本部」と言うプレートが貼ってある。由緒正しき怪しさ満載の場所だ。

 何故病院を選ばなかったかと言うと、重度の精神疾患と診断され入院させられる事にでもなったら、狭い病室内でのループという生き地獄が訪れる事になるからだ。しかも聞くところによると病院は直ぐに精神疾患と認定したがるらしい。

 それはさておき、入り口のチャイムを押そうとした瞬間「やぁ来る頃だろうと思っていたよ。」と中年男性がガラガラと玄関の引き戸を開け登場した。

「あ、えっと。初めまして、ネットで拝見しまして。あの自分、河野ヒロシと言います。」

「初めまして。柏木です。まぁとりあえず中で話そうか。」

 俺は玄関で靴を脱ぎながら「何故自分が来る事分かったんです?」と尋ねた。

「まぁ僕は予知能力者だからね。」なるほど。見た目と言い、いよいよ眉唾臭いぞと思いながら居間のソファに腰を降ろした。

「それじゃあ、これまでの経緯を出来るだけ詳しく聞かせて欲しい。ゆっくりで良いからね。」そう言い柏木さんは俺の正面に座った。

 白髪交じりの髭に紛れて気付かなかったが、改めて見ると柏木さんは割と端正な顔立ちをしている。それで安心した訳では無いが俺は事のあらましを出来るだけ丁寧に説明した。

「うん。それはタイムリープの一種だね。君たち思春期の頃に覚醒しやすい能力だよ。」

 自分から相談しておきながら、よくこんな荒唐無稽な話をすんなり受け入れてくれるなと思ってしまった。

「でも、おそらくそのループは君自身が起こしたものでは無いだろうね。」柏木さんはそう続けた。

「どういう事ですか?」

「うん。普通、人は目的や目標に向かい行動をする。そして、それに伴い結果が生まれる。成功か失敗か、まぁそれは選択や行動によって上下左右されるものだけど、どうしてもやり直したい。と強く念じる事で発動するのがタイムリープの基本的な仕組みなんだ。」

「なるほど。」

「でも、君にはそれが無いだろう。」

「えっ?」

「ごめんごめん。言い方が悪かったかな。例えば映画とかで好きな子を自分のものにしたいとか、大事故を未然に防ぎたいとか、その為にタイムリープをして未来を変えるみたいなの、見た事があるだろ?つまり相当強い念と意志が必要とされるんだ。
 なんせ本来あるべき時間の外に移動する訳だからね。無意識で発動出来る様な代物では無い。もちろん例外はあるけどね。」

「って事は強い念を持った誰かが自分をタイムリープさせているという事ですか?」

「うん。そういう事だね。ただ、」

「ただ?」

「わざわざ君をループさせる意味が無いだろ。」

「えっ?どういう事です?」

「うん。おそらく君は誰かのタイムリープに偶然巻き込まれている。分かりやすく言うと、とばっちりだね。」柏木さんは白髪交じりの髭を触りながら言う。

 自分が原因ならまだしも、ただの貰い事故だったとは。

「えっ、じゃあ自分はどうすればこのループから抜けれるんでしょう?このまま他人のタイムリープに付き合ってたら、すぐおじいちゃんになっちゃいますよ。」

「うん。方法としては能力者の問題の根本を着地させてあげる事だね。成功にしろ失敗にしろ、とにかく思考を未来に向けさせれば良い。」

 なるほど。超能力と言っても案外単純なものだな。いや、違う。

「柏木さん。一体どうやってその能力者を見つければ?」

 ピンポーン

 チャイムが鳴った。
「加奈子ちゃん鍵なら空いてるから。」柏木さんは玄関の方に向かって言う。「はーい。」

「こんにちは、初めまして加奈子です。」20代半ばくらいの綺麗な女性が居間に入って来た。

「初めまして。河野ヒロシです。え、まさか柏木さんの奥さんですか?」
「まさか。」
「まさか、だね。」
 2人共、眉を八の字に曲げながら続けて言う。

「いや、話を戻そう。問題は確かにそこなんだ。誰が能力者なのかを割り出さなければならない。ヒロシ君の話の内容やループの頻度から察するにおそらく年齢は10代で強いコンプレックスを持つ完璧主義者の眼鏡と言ったところかな。」

「眼鏡?」

「いや、眼鏡は忘れて良い。今頭の中に何人か顔が浮かばなかったかい?」

「あ、確かに。え、って事は自分の知り合いって事ですか?」

「うん。まぁ全くの他人巻き込むより可能性は高いね。だからまずは君が頭に浮かべた彼らの抱えている問題を見つけ出して解決してやれば良い。手当たり次第にね。」

「でも、どうやって?」

「話せば良いのよ。」加奈子さんが笑顔でそう言う。

「話す?」

「そう。とりあえず会話をするの。会話をすれば何をしてあげれるかが必ず見える筈よ。」

「うん。そうだね。なに別に失敗しても大丈夫だ。君の場合はリスタートが保障されているからね。何度でも挑戦出来る。」

「まぁ、でも顔とか老けますよ。」

「あっ、能力者って案外ヒロシ君の事を好きな女の子かも。ずっと一緒に居たい。みたいな。」

「うん。あり得るね。恋心は強いからね。」

「ちょちょっと、やめてくださいよ。自分もう行きますね。」

「そうか。健闘を祈るよ。」

「ヒロシ君頑張ってね。でも、手あたり次第みんなの問題を解決して回るなんてヒーローみたいだね。」

「まぁ不本意な形ではありますが。」

 俺は2人に挨拶して超能力研究会会場を後にした。そしてスマホを取り出し「今から会えるか?」とメッセージを送ってみた。


「柏木さん。でも、さっき言ってた方法じゃヒロシ君能力者に辿り着かない可能性もあるんじゃないの?」

「うん。実はそうなんだ。さすが加奈子ちゃん良く気付いたね。
でも、どうせループするならただ毎日を繰り返すなんて勿体ないだろ。普通に生活してれば他人の問題を真剣に考える事なんて無いからね。どっちにしても良い機会だと思うよ。」

「ふーん。でも、ずっとループから抜けれないかもでしょ?」

「うん。そうだね。でも彼は大丈夫。全て上手く行く。」

「あら、何故分かるの?」

「まぁ僕は予知能力者だからね。」



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