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置手紙 超短編

 帰宅すると僕の部屋から彼女の荷物が無くなっていた。

 2年ほど前から僕の部屋に転がりこむような形で同棲していた彼女が3日前、突然思い立った様に別れを告げ出て行き出て行った。

 荷物は3日後に取りに来ると言っていたが、洋服好きな彼女は自分専用のクロークを部屋に持ち込んでいたし、その他にもわりと大量の荷物があった。
 部屋の中を見渡し、これらを全部引き上げるのは中々骨の折れる仕事だなと思っていた。
 そもそも本当に荷物を引き上げに来るのかと半信半疑だった。

 予想は見事に裏切られ彼女は僕が出掛けている2時間の間に全てを運び出してしまった。

 3日前は正直ただの家出くらいにしか思っていなかったが、いざ半分空っぽになった部屋を眺めていると、その分だけ心にぽっかりと風穴が開いた気がした。

 とりあえずビールでも飲んで一旦気持ちを落ち着けようとキッチンに行くとテーブルの上に一枚の紙を見つけた。

 そこには何も書かれておらず、、
いや、何か書いてあるのだろうと、丁寧に表裏とも確認したが、その紙は白紙に間違いなかった。

 この白紙の紙には何か意味でもあるのだろうか?
 もしかして、あなたには何も言うことがないと言う比喩でも存在するのか?

 一考した後、ただペンが見当たらなかっただけなのだろうと思考を落ち着けた。

 もう一度、部屋の中をぐるりと見渡すと彼女の小物や衣類がちょこちょこ残っているのを見つけた。
 彼女は基本的に中々物を捨てず溜めてしまう性格で、僕は何度か彼女に要らないものを捨てるよう注意していた。

 確かに彼女が置き忘れていったこれらの物は、これからの僕の生活には明らかに必要のないものばかりだが、捨てる気にはなれない。

 彼女が出て行くという事自体が余りにも突然の出来事だった為
部屋の整理はおろか、気持ちの整理も、まだ片付かない。

 
 冷蔵庫に彼女のお気に入りのプリンが残っていたので、まずは片付けの第一歩にそれを無断で拝借してみた。

 キッチンのテーブルで彼女のプリンを食べながらある言葉を思い出した。
 

 嫌な事や悩み事があって整理がつかない時は一度紙に書き起こして考えてみると良いよ。

 なるほど。 都合良く目の前には丁寧に彼女が残した白紙の紙が用意されている。
 
 だけど、ペンが無い。

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