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進化による退化 超短編

「ようやく我らの計画を実行出来そうだな。」

「そうですね。良い時期だと思います。いやぁ長いようであっという間でしたね。」二人の男が会社のオフィスで話している。

「これだけ普及するとは思わなかったから実行するには少し躊躇してしまうな。」

「確かに。計画段階では皆が疑ってましたもんね。」

「まぁ我らの努力の賜物だろう。」

「そうですね。では、開始するとしますか。ポチっとな。」

「おお。いきなりだな。」

 その瞬間、この会社の管理する全てのサーバーが停止された。

 この会社は現在世界の金融資産の大半を管理している。
「これで皆の資産が白紙になった訳だな。」

「はい。通貨も株も全て消去しました。」

「痛快だな。まぁこんな数字だけの資産を信用していた訳だから自業自得と言ったところか。」

「そうですね。集団心理の一種でしょうね。」

「我らが作った数字を皆が大枚を叩いて買い、資産を数字化する。こんな滑稽な事が現実に起こるとは、にわかには信じられなかったが。」

「まぁそれも私たちの努力の賜物ですかね。開発費や広告費、それに賄賂。色々手は尽しました。」

「そうだな。そして我らは逆に現物資産を掻き集めた。つまり世界の資産は全て此処にあると言っても過言では無い。」

「はは。確かに。皆、資産をリセットされたわけですからね。しかもこのシステムは社内でも私たち以外は復旧不可能です。揃いも揃って裸ですよ。」

「そして皆が挙って現物資産を欲しがり出す。我らはそれらを売り捌きまた資産が倍増、いや10倍、20倍へと膨れ上がる訳だ。
 ああ、裸と言えば頭の中身もだな。民衆からは知識も抜き取ってやった訳だからな。」

「そうですね。この計画はあの会社との共同企画ですからね。あの会社が開発したスマホの普及でスマホ無しでは読み書きも出来ない、計算も出来ない、地図も読めない、恋愛も出来ない。挙げ句、大半の人間がスマホ無しでは善悪の判断もつかない様になりましたからね。」

「ああ。便利と言う餌さえ与えれば情報などいくらでも操作出来るという事だ。」

「しいて言うなら、ここまで上手く事を運べたのが唯一計算外でしたが。スマホの方もウイルスを仕込んであるのでもうすぐ全ての機能が使用不可になるとの事です。」

「そうか。暴力を一切必要としない。ただひたすら与え続けて奪い去る。こんな高尚な泥棒はかつて無いだろう?だがこれで我らも一応犯罪者の一員と言うわけか。」

「犯罪者と言うか革命家に近いかもですね。まぁ世間ではシステムエラーで通ります。もうすぐ通信手段も全て停止しますので、その事態に気付くかどうかも怪しいですが。
 とりあえず私たちが捕まる事はまずありません。念の為に最高責任者としては岡野を社長に据えていますし。
 岡野の奴、報酬にあの訳の分からない数字を一桁書き換えてやったら、馬鹿みたいに喜んでましたよ。」

「素晴らしい。いや、素晴らしいな。やはり悪事を行うには地道な努力と才能が必要な訳だ。」

「ローマは一日にして成らずと言ったところですか。」

「ローマと言うかソドムだな。これぞ進化による退化だ。まぁ良い。今夜は飲もうじゃないか。愚民たちから集めた酒を。」

「はい。旧世界に乾杯。」

 コンコン。二人の乾杯をドアのノック音が邪魔をした。
「誰だ?」

「岡野です。夜分遅くにすみません。失礼します。」そう言い岡野がオフィスの中に入ってくる。

「お、岡野か、一体何の用だ。」

「どうしますか?選択肢としては2つに1つです。」

「何を言っている?」グラスを持った二人は少し不安そうに顔を見合わせる。

「実は御二人達の計画には前々から気付いていました。この部屋には隠しカメラと盗聴器を仕掛けさせてもらっています。つまり証拠はもう充分に揃っているのです。」

「な、何だと?」
「私達にどうしろと言うのだ?」

「はい。1つ目の選択肢としては今すぐにここでサーバーの復旧をしてもらい今まで通りに戻してもらう。
 このシステムは壊すには余りにも勿体ない。このシステムは我が社にこれからも莫大な利益をもたらしてくれます。もちろん御二人には引退してもらいますが。」

「2つ目はなんだ?」

「はい。2つ目はこの証拠と共に御二人には刑務所に入ってもらいます。まぁこれだけの事をしでかしたとなると一生出られないでしょうね。まぁ悩む必要の無い選択ですよね。」

「クソ岡野のくせに。飼い犬に手を噛まれるとはな。」
「分かった。すぐ復旧しよう。ポチっとな。」

 しばらくして再びサーバーは可動した。

「お疲れ様でした。今まで大変我が社の為に尽力し頂きありがとうございます。それでは御二人には退職金を振り込んでおきますね。この訳の分からない数字を。」

 岡野を残しトボトボと二人はオフィスを後にした。

 そして、岡野はスマホを取り出し電話を掛けた。

「あ、もしもし岡野です。はい。ご協力ありがとうございます。こっちは無事に会社乗っ取り完了しました。

 はい。あ、ウイルスはやっぱり嘘ですよね。社長も人が悪い。
 まぁスマホまで全部無くそうだなんて、あの二人の考え方は退廃的過ぎますよね。 
 それこそ進化による退化ですよ。
 
 いえいえ。私みたいな小物はあの優秀な二人を利用する事しか能が無いですから。待てば海路の日和ありです。
 
 家康ですか?
 
 なるほど、確かに。流石社長お上手です。」

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