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よみがえり 超短編

 僕は死んだ。多分死んだ、事故か何かだと思う。
 余りにも急なことでまだ事態が把握出来ていないし前後の記憶も散漫だし曖昧だ。

 何故僕が死んだのかが分かるのかと言うと、この場所が、もうパッと見であの世なのだ。

「極楽浄土行き」とか「転生希望行き」の立て札が其処かしらに立てられていて、それに向かいみんな列を為している。
 
 でも、案外現世とそんなに代わり映えもしないな、と思いながら僕は、とりあえず「よみがえり行き」の立て札の列に並んでみた。
 ここが一番人気の列かと思いきや、意外とそうでもないみたいで、みんな現世での喧騒や摩擦に疲れたのだろうか
 
 とは言え列は長いし、この進み具合では今日中にはとても札にまで辿り着かないだろう。かと言って疲労感も空腹感もない。ストレスが一切ない。
 もし、こんな感じで極楽浄土ってのに行ければ、それこそ極楽なのだなと思う。
 
 浅ましく表現するなら酒池肉林、いや、もっと牧歌的な場所なのかもしれないけど、僕が想像する限りは素敵な情景しか浮かばない。


 せっかく時間もあるから何故、僕が「よみがえり行き」を選んだ理由ではなく、何故「極楽浄土行き」を外した理由から語らせてもらおうと思う。いや、列が長いので。

 まず、「極楽浄土行き」と聞いて何を想像するだろう?
 いわゆる清廉潔白、聖人君子のような人物がいける場所。全ての人、動植物、虫にすら愛情を持ち与え施す。自己犠牲の塊。
 
 もちろん、そんな人生を僕は歩んできてはいない。
 生きながらにして仏。そんな人物はむしろ、わざわざ長い列に並ばずとも割り込みチケットみたいなものを配布してあげればいい。
 
 どうやら見たところそんなチケット無いし、業績によっての厚待遇も見受けられない。という事はあの先には、面接ないしは試験のようなものが用意されている事が考えられる。
 
 つまり、どちらにしても優れた者にしか通れない門が用意されているに違いないと僕は踏んだ。
 下手をして不合格みたいな扱いになればペナルティーとして最悪地獄のような場所に行くみたいな事だって無いとは言い切れない。

 なんせここは全く知らない世界なのだから。
 
 加えて僕は「転生行き」もお断りだった。
 犬畜生に生まれ変わって血をすすり骨をかじり一生を生き抜くなんて想像も出来ないし、魚に生まれ変わって鯨なんかに飲み込まれて死ぬのもごめんだ、釣り針が頬を破るなんて気が狂いそうになる。
 そりゃイルカやラッコに生まれ変われるチャンスもあるのかもしれないが、リスクが高すぎる。
 
 つまり自分的には、甲乙丙で言うところの乙案を選んだ訳です。いや、他にも「工事関係行き」とか「経理担当行き」とか「死神代行行き」とか、それこそ甲乙付け難い立て札はあったのですが、ややこしいので割愛しました。
 
 ここまでの話だと僕が別に現世に強い未練とかは特になく、ただただ惰性で乙案を選び「よみがえり行き」を選んだかのように聞こえてしまったかもしれませんが、まんざらそういう訳でも無いのです。

 確かに僕の人生は決して褒められたものでは無いのですが、さっきひょんなことから死に際の記憶が戻ったのです。

 こじつけと言うわけではないのですが、えぇ、確かに列に並び始めてから思い出したのでそう思われても無理は無いのも分かります。

 約束を思い出したのです。

 僕は彼女にプロポーズをしました。僕は本当に彼女の事を愛していたので絶対に成功させたいと思っていました。
 あれやこれや考えを巡らせる中で一つの古いドラマからヒントを得たのです。
 
 そして、彼女を真夜中の国道に呼び出しプロポーズ大作戦を決行したのです。
 
 僕は、ダンプカーの前に飛び出し彼女にプロポーズの言葉を叫びました。

「僕は死にません!あなたの事が好きだから!結婚してくださ、」
 
 僕はダンプカーに見事なまでに跳ね飛ばされたのです。そして今に至ります。
 だから僕は彼女との約束を守る為にも現世によみがえらないといけないのです。
 それが出来ないと逆説的に彼女を愛していない証明になってしまいますから。
 長々とありがとうございました。僕は彼女の為にも僕の為にも何としても必ず現世によみがえりたいと思います。


 やがて列もだいぶ進み「よみがえり行き」の立て札に近づくにつれて、注意書きが添えられている事に気付きました。

 そこには、こう綴られていました。
(※本試験上にての課題クリア後の者にのみ正式によみがえりが施行される。但し原則は現状のままのよみがえりとなる。その後の生活に不便がある場合はその限りではない。)

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