#高安動脈炎闘病記 3

3.耳ヲ貸スベキ

職場に行き、パートさんに留守を頼む。
心配されながらも、僕がこの日をどれだけ楽しみにしていたかは1番近くで観ていたパートさんたちもよく知っていた。あたたかく送り出してくれた。

さあ、久々の一人旅だ。出張でもない自分で決めたプライベート旅。随分と久しぶりだ。
一旦全てを忘れて楽しもう、と福岡空港から飛行機で東京へ向かった。
飛行機は予定時間より30分ほど遅れて羽田空港に到着。急ごうとする心と裏腹にパンパンに詰まったキャリーバッグとパソコンの入ったリュック、そして思うように動かない身体が邪魔をする。
ホテルとのアクセスを考えると、一度日本橋まで行って荷物をロッカーに入れ、そこから武道館へ移動がベストだと思った。
田舎者の割には公共交通機関での移動には自信がある。いや、あった、のだが
使い慣れない駅と思うようにいかない身体、インバウンド客のような大荷物にはいささか苦労した。
とはいえライブは始まっている。この時点で体力的もきつい。地上に上がり、タクシーに飛び乗り日本武道館へと向かった。

不安な心と整わない息に焦りを覚えつつ、タクシーは日本武道館まで僕を連れて行ってくれた。お礼を告げ、武道館へ入り席へと向かう。
前日になんとか取れたチケットとはいえ、超満員の館内、当然席は1番後ろの方....ということは、客席の階段を相当上らないといけないということだ。
チケットの番号と席を見比べながら、瞳を潤ませてステージを眺める親友の立ち姿が目に入る。
息絶え絶え隣の席に着いた僕は、ごめん、と口にしてベンチに腰を落とした。

耳ヲ貸スベキ 耳ヲ貸スベキ
これからはじめる最後の奇跡

ステージ上ではRHYMESTERが名曲「耳ヲ貸スベキ」をパフォーマンスしていた。
親友はやべえ!最高だよと、熱を込めて僕に声をかけた。初めて出会った時の少年の顔で。
朝から一日中広がっていた口の中の苦味が、一気になくなった気がした。


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