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睡眠検査技師/木下理恵さん

2024年3月8日&15日放送

 今回のお客様は「日本睡眠学会」認定検査技師の木下理恵さんです!

■ 木下理恵さん
南国市出身。2002年から睡眠検査に従事し「高知鏡川病院 睡眠医療センター」などで職員として勤務。2018年からは幡多地域で睡眠検査ができる拠点づくりに取り組み、翌年、宿毛市「聖ヶ丘病院」にて睡眠外来がスタート。合わせて、睡眠の大切さを伝える「睡眠授業」や「睡眠講演」など地域密着の活動にも力を入れています。

〔 番組収録風景 〕

▶ 献血が好きで…

 子どもの頃から野山を駆けまわり、動物が大好きだったという木下さん。中でも馬が大好きだったそうで、その影響なのか、息子さんは幡多農業高校の馬術部に入り、国体やインターハイにも出場したそうです。ただ先日、幡多農業高校・馬術部の厩舎が全焼し、5頭いた馬のうち3頭が亡くなるという痛ましい事態になりました。今後は馬術部復興に向けてOB・OG共に支援活動をしていきますので機会があれば是非ご協力をお願いいたします。

 その後、中学・高校と進んで献血が趣味になった木下さん。将来は献血に関する仕事がしたいと思って臨床検査技師の勉強ができる専門学校に進みます。しかし、最初の授業で「臨床検査技師が出来る採血は20mlまで」と聞いて愕然…。先生に尋ねたところ「献血で採血しているのは看護師さんですよ」と言われてしまいます。その後、臨床検査技師の国家資格は取ったものの、医療とは無関係の仕事に就職するのでした。

 時は流れ、27歳になった木下さんはある日、高知新聞の求人欄に《夜間の睡眠検査技師募集》という文字を発見します。初めは何とも思わなかったものの、その募集がずっと掲載されているのを見て「あー応募が来ないんだな。そう言えば自分は夜が得意で検査技師の資格も持っている!」と思い、気軽な気持ちで見学に行きます。するとそこには高校時代の先輩や同級生がおり、更には一人一人の患者さんと向き合う時間が長い睡眠検査技師の仕事が自分に向いていると思ってこの職に就くことを決意。これが現在に続く睡眠検査技師の仕事のスタートとなったのです。

〔 気持ちの良い目覚めのために 〕

▶ 幡多地域に睡眠検査の拠点を!

 睡眠検査技師として従事していた2015年、木下さんのもとに黒潮町立佐賀中学校の養護教員から「生徒たちに向けて睡眠に関する講演をしてほしい」という依頼が届きます。

 中学校を訪れてたくさんの生徒を前に睡眠の話をしていると、最前列で聴講していた中学2年生の子が居眠りを始めました。先生に注意されても眠気に耐えられない様子で、内心「この子、もしかしたらナルコレプシーじゃないかな?」と思って講演中ずっと気になっていたそうです。

■ ナルコレプシー
 日中において場所や状況を選ばず強い眠気に襲われたり、突然眠ったりする睡眠関連疾患で、別名「居眠り病」とも呼ばれる。日本では600人に1人がナルコレプシーであると言われており、10代~20代前半に多い。

 後日、その中学生が母親と共に睡眠外来を訪れ、精密検査の結果、ナルコレプシーと診断。服薬治療を開始します。薬の覚醒効果によって眠気と闘わなくてよくなったこの中学生は、その後、成績も格段に上がり、性格も明るくなって生徒会活動を行うなどとても前向きになったそうです。

 更にその後、その中学生の弟、母親、担任の先生にも「夜は十分に寝ているけれど朝起きられない・昼間の眠気が強くて居眠りしてしまう」という症状があることが分かり、順に検査をしていくと全員がナルコレプシーと診断されるに至りました。

 文献によると、ナルコレプシーは日本人の600人に1人と言われますが、木下さんは「幡多地域にはもっと高い確率で存在する」と実感。当時、睡眠検査を受けるには高知市内まで出てくるしかなかったため、幡多地域にも睡眠検査ができる拠点を作ることが必要と感じて各方面への働きかけを行い、2019年4月に宿毛市「聖ヶ丘病院」で睡眠外来が始まることとなりました。

▶ 様々な睡眠関連疾患

 「睡眠障害」と呼ばれる睡眠に関連した疾患には様々な症状があります。

 日本人は3人に1人が睡眠に悩んでいて、その原因の約7割が睡眠時無呼吸症候群と言われています。

■ 睡眠時無呼吸症候群
 睡眠中に何回も呼吸が止まってしまう病気。無呼吸状態になることで一時的とはいえ全身が低酸素状態になり、睡眠状態を悪化させるだけでなく、体に対しても大きな負担をかけてしまう。

 睡眠時無呼吸症候群は在宅で簡易な検査ができます。睡眠で困っている方はまず睡眠時無呼吸症候群を疑い、いびきや無呼吸が無いかどうかを確認してください。

 睡眠時無呼吸症候群の検査で異常がないにも関わらず、睡眠の悩みが続く方は、病院で一泊二日の終夜睡眠ポリグラフ検査や精密検査を受けることをお薦めします。

 睡眠の悩みは病気やケガと違って痛みや出血を伴わないため、緊急性が無いと判断して後回しにしてしまいがちです。しかし不眠や睡眠不足によって集中力や注意力が散漫になることで仕事の質が低下したり、生活習慣病や心臓病、脳卒中のリスクが高まったり、不眠が続くことでうつ病になりやすくなるなど、様々な悪影響があると指摘されています。

 また眠れないからといって、薬に頼りっきりになるのも良くありません。「薬のお蔭でゆっくり眠れた」は問題の解決になっていません。あくまでも最終ゴール地点は減薬・退薬です。薬を徐々に減らして眠れるようになる、薬無しでも眠れるようになることを目標にしましょう。

▶ 睡眠の役割とは?

 睡眠には「免疫を高める」「代謝を促す」「病気・ケガを治す」「ストレスで傷ついた神経を修復する」などの効果があります。

 勉強する場合に大切な「記憶の整理と定着」も睡眠によって促されます。例えば試験前に徹夜で勉強するのではなく、アンカースリープと呼ばれる4時間ほどの睡眠を間に挟むことで記憶の整理と定着が促され、一次的な記憶ではなく、脳内に定着した知識を得ることが出来ます。

「睡眠が変われば人生が変わる!」
睡眠の正しい知識を得て、生活の質の向上に繋げましょう!

〔 赤ちゃんの頃のような健やかな眠りを 〕

▶ 世界でいちばん寝ない日本人!?

 毎年3月の第3金曜日は「世界睡眠デー」!(2024年は3月15日✨)
世界睡眠学会が制定した《睡眠に関する意識を高める日》です。

 経済協力開発機構が世界33カ国を対象に行った睡眠時間の調査によると、国別ランキングは次のようになります。

第1位  南アフリカ 9時間13分
第2位  中 国   9時間2分
第3位  アメリカ  8時間51分
  ↓
第32位  韓 国   7時間51分
第33位  日 本   7時間22分

( 2021年 経済協力開発機構調べ )

 日本人の睡眠時間は「7時間22分」。33カ国平均(8時間28分)よりも1時間以上短く、32位の韓国と比べても30分近く短いことが分かります。(2018年に韓国を抜いてワースト1位に!)
「7時間22分」と聞くと意外に多いじゃんと思われるかもしれませんが、これは赤ちゃんからご高齢の方までの平均なので多く感じるだけで、実際にはこれよりも短い人が殆どではないでしょうか?

 厚生労働省が成人男女5,700人を対象に行った【国民健康調査】によると、平均睡眠時間が6時間未満だった人は、男性 37.5%、女性が40.6%!年代別に見てみると50歳代のおよそ半分が6時間未満だったそうです。やはり日本人の睡眠時間は短いのです。

▶ 睡眠時間はどれくらい必要?

 厚生労働省が策定した「健康づくりのための睡眠ガイド」では、年代によって睡眠時間の目安を定めています。

小学生  9~12時間
中高生  8~10時間
成 人  (個人差はあるが)6時間以上

( 厚生労働省 健康づくりのための睡眠ガイド )

 木下さんが所属している「日本睡眠学会」では一週間の平均睡眠時間が5時間を切ると短命になると警告しています。例えば、うつになりやすい、事故に遭いやすい、心臓疾患・腎臓疾患になりやすいなど、睡眠時間の短さにはリスクが伴うのです。

 また最近では子どもたちの睡眠不足も問題になっています。今の時代は自分のスマホを持っている子どもが多く、夜遅くまでネットやゲームに興じてしまうケースがあります。親子でスマホやゲームに関するルールを決めるなど、良い睡眠をとるための環境をつくりましょう。

 睡眠の質を高めるのアイデアとしては、子どもはもちろん、大人も「寝室にスマホを持ち込まない」ことが挙げられます。スマホの画面から放射されるブルーライトは目の奥まで届く強い光で、睡眠ホルモンと呼ばれるメラトニンの分泌を抑制し睡眠の質を下げてしまうリスクがあります。就寝前にはスマホを操作しないようにしましょう。

▶ 睡眠はリズム!

 木下さんが最もお伝えしたいことは…
「365日、朝は同じ時間に起きること!」

 例えば、前の日になかなか眠れず朝方やっと眠れたとしても、次の日はいつもと同じ時間に起きることが大切です。人間にはホメオスタシス(=恒常性)という内部環境を一定に保ち続けようとする傾向があり、睡眠に関してはいわゆる体内時計の影響があります。

 人間は、朝起きて太陽の光を浴びると脳が活動状態になり、メラトニンの分泌が止まります。このメラトニンは目覚めてから14~16時間後に再び分泌され、その作用で深部体温が低下して眠気を感じるようになります。ですので、例えば正午まで寝てしまうと、次にメラトニンが分泌されるのが深夜2時~4時となり、次の日の睡眠にまで影響するのです。

 例えば小学生のお子さんをお持ちの場合、休日の朝ゆっくりすることがお子さんの学校生活にまで影響してしまうケースがあります。いま学校では月曜日に保健室に来る子供が多いそうです。その理由は日曜日の過ごし方!いつもより遅く起きてしまうと、子どもたちは日曜日の夜なかなか眠れません。月曜日の朝、眠い目を擦りながら学校に行くので、お腹が痛くなったり、頭が痛くなったりするのです。「365日、朝は同じ時間に起きること」はとても大切なのです。

▶ 今後の夢は?

 現在は四万十市「温クリニック四万十」や宿毛市「聖ヶ丘病院」で診察対応・睡眠検査などを行っている木下さんですが、一方で睡眠関連の知識を活かした地域密着の講演活動も行っています。高知県内を東へ西へ、東は安芸郡東洋町から西は宿毛市沖の島まで、依頼があればどこへでも出かけて睡眠の大切さをお伝えしています。例えば、公民館で行われている百歳体操にお邪魔したり、喫茶店の一画で睡眠相談コーナーを設けたり、とある会社から依頼を受けて昼休みの20分間に睡眠のお話をしたり。とても精力的な活動を続けています。人とのご縁を大切にする木下さんならではの活動ですね。


 最後に木下さんの今後の夢を伺いました。

 日本では少子高齢化により2050年には勤労者数が激減し、労働人口が現在の70%になると予想されています。これは、いま100人で稼働している会社が70人で業務を回していかないといけないということ。今の現場に居る人々が元気で長く働くことができるように取り組むことが大事です。
 高知県は少子高齢化の先進県。県外に進学就職した子どもたちが高知へ戻ってきたいと思えるように、自然豊かな美しい高知を維持して、微力ながら睡眠から高知を元気にする活動を頑張っていきたい!

 睡眠ってとても身近なことなのに、意外と知らないことばかり。木下さんのお話を聞いていると、そんなことを思いました。

 例えば、ナルコレプシーという病気によって授業中に居眠りをしたり、朝起きられずに遅刻したりしていると、周りの人からは、やる気がないとか、サボっていると思われるかもしれません。でもナルコレプシーという病気があることを知っていれば「もしかしたらこの人は病気かもしれない」と考えることができます。近くにそんな人がいたら、まずは「大丈夫?」と優しく声を掛けてあげてくださいね。

睡眠から高知を元気に! これからも頑張ってください、木下さん!

【 放送プレイバック 】📻✨
★ 3月08日(金)放送 ⇒ 
コチラ から!
★ 3月15日(金)放送 ⇒ 
コチラ から!


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