3spoons vol.5『嘘』the 1st spoon_かとうひろみ

文芸ユニット「るるるるん」によるツイッター400字小説 3spoons

そろそろ結婚しようということになった。その前に、自分たちの中に嘘がないか確かめようと彼は言った。
「嘘はもちろんあるよ」
私は正直に言う。もちろん彼もそれを承知している。そういうもののない女と結婚するような男ではない。
私たちは嘘の地図を作製した。
どの嘘がどの嘘を生み、どの嘘がどの嘘の派生元になっているか。
嘘はこうしてみると興味深く、それ自体が生命のように、網目模様の家系図のように広がっていく。
生涯恋人人数、生涯浮気回数、転職の回数、実はセックスにそれほど満足していないこと、子供のころに洒落で近所の廃屋に火をつけたこと、双子のきょうだいと入れ替わって現在もそのままであること。
私たちは出来上がったたがいの地図をしげしげと眺めた。腹が立つことはなく、痛快ですらあった。一番興味深かったのは、すべての嘘を辿っていった派生元の嘘が、二人とも同じだったことだ。
『サンタクロースはいる』
私たちは笑い合い、生まれてくる子供にはこんなばかげた嘘は絶対につかないことにしようと言い合った。