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3spoons vol.8『福助』the 3rd spoon_かとうひろみ

文芸ユニットるるるるんによるツイッター400字小説 3spoons

37℃

頭のネジが一本どころかまとめて 100 本くらい耳の穴から噴出してきそうな
暑い日だったので、福助のやに下がったにやにや笑いが我慢できず、近所の、
苔が密生した池のような沼のようなところに沈めてきた。福助はぶくぶくと口
から泡を出していたけど、ゆらゆら揺れる水面の下の顔は、拡大効果でさらに
にやにやが増して、大きな福耳はぶるぶる震えて、苦しいのと楽しいのがごち
ゃまぜになって、変態ぽくて気味が悪かった。
 夜になっても暑さが収まらず、冷たいものが食べたくて、21時以降は食べ
ないという禁を破った。こんな時間に杏仁豆腐を食べていると、悩みが遠のい
ていき、福助のぶるぶると杏仁豆腐のぶるぶるが同じようにぶるぶるなのに気
付いたのも、すっかり寝る準備をしてベッドに這い込んだあとだった。
 福助が急にかわいそうになって翌日池に行ったが、水はとても深く、目を凝
らしても沈めたものは見えなかった。私は靴を脱ぎ、服を脱いで、水に足を沈
めた。足の裏に苔の感触を感じてつるっとした。あっと思ったが、もう次の瞬
間には私も見えなくなった。

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