見出し画像

3spoons vol.7『ゆびきり』the 3rd spoon_かとうひろみ

文芸ユニットるるるるんによるツイッター400字小説 3spoons

そりちゅーど

アチャちゃんは約束を押し売りする。自分の望みどおりにしたいとき、人の横にべたっと張り付いて、勝手に小指に小指をからめてくる。
「言ったよね!約束だからね!」
その指はいつもなぜかねっちょりしていて、アチャちゃんの強欲さを裏付けるような気味の悪い感触がする。
何度も無理な約束をさせられたけど、どの約束もおぼえていないのはアチャちゃんも同じようで、約束を破ったことを糾弾されたことはない。
アチャちゃんの家が引越しをすると聞いたときは、あの不潔な小指から解放されると思い、心底ほっとしたものだ。

大人になってから、ふいにアチャちゃんのにおいが鼻をかすめることがある。ねっちょりしたあの小指のにおいだ。でもそのにおいは予想を裏切って、菓子の甘いにおいや、泥んこ遊びの土のにおいではなく、胸がからっぽになったときだけに洩れる吐息のにおいなのだった。私がそれを知ったのは大人になってからである。

あのにおいが今、私の鼻をひゅんとかすめる。指をからめたアチャちゃんの、洞窟みたいな目がよみがえる。
誰かの小指に小指をからめたくて、たまらなくなる。

画像1


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?