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「商店街」the 2nd spoon_クララ

文芸ユニット「るるるるん」によるツイッター400字小説『3spoons』第一回テーマ ”商店街“

“糟糠の妻“とひとは嘲笑うけど、「バンドマンの夢」は高く売れるの。
メジャーデビューを果たした夫に、わたしはあっさり捨てられた。
古い畳からフローリングにリフォームするみたいに。
慰謝料を元手にわたしが「夢や」をこの商店街に構えたのは、レトロなだけが取り柄の定食屋や町屋造りの旅館といった昔ながらの平屋建ての間に、エスニック雑貨店やカレー専門店が虫歯のように点在していて、その無国籍で連続性に欠けた配列の中でこそ特殊な商売が成り立つと考えたから。
他人の夢語りほどつまらない話ってないじゃない?それを仕入れて、夢をもてなくなった若い子に売るのがわたしの生業。
一番人気が「バンドマンの夢」と「地下アイドルの夢」で、売りに来るのはたいてい不遇の時代を支えてきた元恋人。それをサクセス・ストーリーに脚色して夢のない子に聞かせるの。
「本当の自分はこんなもんじゃない」「有名になって楽をさせてあげる」etc. そんなピロートークは特に高値を付けるわ。
だってわたしの夢は、とうに繁殖を拒んでる。

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